第250話 開校2


 露天掘り跡地の坂道を下る途中で、フォレスタルさんが寄こした測量そくりょうの人たちが作業をしているのが目に入った。明日には図面を持ってきてくれるそうなので楽しみだ。



 冒険者ギルドから馬車に揺られて一時間半。ようやく冒険者学校に到着した。


 生徒たちとペラを降ろした冒険者ギルドの幌馬車二台は、そのままギルドに帰って行った。そのとき気付いたが、ペラは知らないうちに前の幌馬車に乗り移っていたようだ。


 幌馬車を下りてリュックを背負ったまま校舎前にバラバラにっ立っている生徒たちに対し、


「全員、整列せいれ-つ!」


 突然のペラの大声に何事かと驚いた生徒たちだが、だらだらと横に一列に並んだ。もちろん蛇行だこうした横一列である。


 これは、ペラが何か言うな。そう思ったのだが、ここではペラのお言葉はなかった。少しペラの方針が変わったのだろうか? 不審ふしんに思っていたら、


「全員、傾聴けいちょう!」


 傾聴の意味が分からなかったものも若干じゃっかんいたようだが、左右を確認してじっとしていればいいと言うことを確認したようでホッとした顔をしている。どうやら今回も俺が何か話さなければいけないらしい。


「コダマ、お言葉をどうぞ」


 ペラが俺のことをわざわざと呼んだことで、生徒たちが一様いちよう動揺どうよう私語しごを始めた。


「子爵閣下?」


「コダマ子爵? あっ!」


 ……、


 そういえば、Aランク冒険者で遊び人のショウタさんは、実は今は飛ぶ鳥を落とす勢いとは言いすぎかもしれないが、大錬金術師コダマ子爵閣下であるということは意外と冒険者の中では広がっていない情報だ。



傾聴けいちょう!」


 ざわめいていた生徒たちが静かになった。


昨日きのうもみんなにあいさつしたと思うけれど、これから三カ月間、みっちりペラ教官にきたえてもらってくれ。以上」


 なんとなく、俺までペラの口調が乗り移ってしまった。


「まず最初は部屋の割り振りだ。二階の手前から、1号室、2号室の順で今のところ5号室まである。一部屋は四人部屋なので、1号室は女子四名、2号室と3号室は男子各々おのおの四名ずつだ。そうだな、そこの、おまえとおまえと、そこの二人、おまえたち四名は2号室。残った者が3号室だ。各自荷物を部屋に一度置いて、訓練できる服装に着替えてこの場所に集合するように、急げよ」


 ペラも10分で集まれといえないのが難しいところだな。各自が時計を持っていればいいのだが、それは難しい。何とかして置き時計をこことうちの屋敷に欲しいな。いくらくらいするかは分からないが、一つで大金貨10枚はするだろうな。商業ギルドに何とか仕入れてもらうように頼んでおくか。


 生徒たちについてはペラに任せて、俺たちはヒギンスさんとヨークさんを連れてまず二人を寮母りょうぼ用の部屋に案内した。ここも本来四人部屋なので二人で使うには広いかもしれない。預かっていた二人に荷物を返し、


「この部屋を二人で使ってください」


「まあ、ここが私たちの部屋なの? 立派過ぎて使うのがもったいないくらい」


「ほんとに。こんなに新しい建物に、こんなおばさんじゃもったいないかも」


「そんなことはありませんよ」


『そうですね』とは言えないもの。


 そのあと、一通り建物の中を案内していたら、着替えを済ませた生徒たちがぞろぞろとペラの待つ前の広場に向かって玄関を出て行った。




 俺の方は、最後に、ヒギンスさんたち二人を連れて厨房ちゅうぼうにやって来て、


「ここが、厨房になります。今のうちに食材を置いておきますね」


 食材は明日の午前中に第一便が届くので、その間の食材として、俺が屋敷から冒険者学校の一日分の食材としてゴーメイさんに用意したもらった食材を作業台の上に出していく。


「そういえば、このほかに生きのいい魚もあるんですが、今日使います?」


「相変わらず、何でも収納しているようだけど、今日の分の食材はそろっているようだから、今はいいわ」


「それでしたら、私を見かけて魚が入用いりような時にはいつでも声をかけてください」


「魚がいたまないっていうから、ショウタさんは本当に便利よね」


 俺の収納じゃなくて俺自身が便利になったようだ。


「今日の昼食は屋敷から持ってきたもので済ませてしまいましょう」


「あら、ありがとう、お昼までに時間があまりないから大したものはできないと思っていたから助かるわ」


 食材を並べた作業台とは別の作業台の上に、サンドイッチやジュース。肉入りの野菜炒め、ハム・ソーセージの盛り合わせ、それに丸パンなどを大盛りにした大皿を取り出し、最後にポタージュスープの入った大鍋おおなべを置いた。これが今日の昼食になる。


「お昼にしたら、ずいぶん豪勢ごうせいなのね」


「最初の食事ですから、食べ過ぎて昼からの訓練に支障ししょうが出るかも知れませんが、それなりのものを生徒たちに食べさせた方がいいと思って」


「ショウタさんはいつも優しいわね。ここも全部ショウタさんが負担してるんでしょ?」


「まあそうなんですが、とりあえずこの国のみんなに恩返し的な意味もあるもので」


「ふーん。良くは分からないけど偉いわね。シャーリーちゃんのときも感心したけど、その若さで、本当にまねはできないわ」


 独善どくぜんは悪だが、偽善ぎぜんは善だ。と俺は常々つねづね思っているので、妙に持ち上げられたが悪い気はしない。


 俺たちが厨房で話をしていたら、表の方で生徒たちに向かって大きな声を上げているペラの声が聞こえてきた。


 何を言っているのかここからでは聞き取れないが、しっかり任務を遂行すいこうしているようだ。


 アスカとペラを交えて、生徒たちの三カ月間のカリキュラムを一応は考えているのだが、その通り実行できるかは、生徒たちの頑張りとペラ次第だ。ここでの三カ月間のカリキュラムを修了しゅうりょうすれば、一人前とは言わないまでも、ある程度の実力を持った冒険者になるものと思っている。



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