第241話 『シャーリン』、両殿下ご乗船2


 そろそろ、王宮から殿下たちがやってくる時間となったので、みんなで整列して、馬車をお待ちすることにした。いつでもお茶など出せるように、『シャーリン』の厨房ちゅうぼうではお湯も沸かしており準備万端じゅんびばんたん整っている。


 ちょうど9時5分前。黒塗りの馬車が三台ガラガラと音をたてて、港の岸壁に到着した。


 前回、キルンまでの初飛行の時はお出迎えを失念していたので今回はちゃんとお出迎えするため、馬車の停止したところまでみんなで急いで行かなくてはと思っていたのだが、馬車はちゃんと俺たちの正面に停車してくれたので、走り回らなくて済んだ。


 お付きの人たちが馬車から降りた後、最後にリリアナ殿下とアリシア殿下が馬車から降りて来た。今日のお付きの人たちは、みんな侍女の人たちのようだった。アリシア殿下の侍女兼護衛のハンナさんもいた。ハンナさんの他にも二人ほどは明らかに物腰が他の侍女の人とは違っていたので、おそらくその二人も護衛の人だろう。フフッ。俺もその程度の見分けは付くようになっているのだよ。


「おはようございます、リリアナ殿下、アリシア殿下」「おはようございます」


 俺とアスカの挨拶あいさつに続き、うちの連中が一斉に、


「おはようございます」


 といって頭を下げた。俺はそんな指示を出した覚えはないが、おそらくハウゼンさんが教え込んだのだろう。俺としてもなかなかに気分が良い。


「おはようございます。ショウタさんにアスカさん。きょうはよろしくお願いします」


「お二人とも、おはようございます。あれがお二人の船ですか? 色は、私を救い出していただいたときの飛空艇に似ているんですね」


「はい、外板などは同じ材料を使っていますから、外目そとめはまったく同じ色合いです」


「なるほど、そうでしたか」


「それでは、船にご案内します。渡り板が狭いのでお気を付けください」


 先にうちのみんなが乗り込んだ後、俺はリリアナ殿下の手を引き、アスカはアリシア殿下の手を引いて渡り板を渡った。その後王宮からの八人が続いて『シャーリン』に乗り込んだ。


「すぐに、出航しますので、いったんキャビンにお入りになってください」


 アスカに乗客を案内させ、俺はいったん岸壁に戻り、港の杭ボラードに結んだロープをほどいて『シャーリン』に投げ込み、渡り板を渡って『シャーリン』に戻り板を収納しておいた。


 アスカも、キャビンの上のブリッジにすぐに上がったようで、一度『シャーリン』はバックで岸壁からの距離をとった後、大きく舵を切って出港していった。


 船の操縦はアスカに任せていれば問題ないから、俺はキャビンに行って殿下たちにうちのみんなを紹介しよう。



 キャビンをのぞくと、アスカの案内で、王宮からの面々は、各自窓際の席についているようだ。


 俺が、キャビンに現れたので、王宮から面々が立ち上がり、


「ショウタさん、お世話になります」とのリリアナ殿下の言葉に合わせて一斉に頭を下げられてしまった。


 どう返していいかわからなかったので、とりあえず、日本人的思考で、にこやかにへらへら笑いながら、


「ありがとうございます。これから、この船、船名を『シャーリン』といいますが、港を出て、セントラル湾を進んで行きます。

 せっかくですので、私の家族を紹介させていただきます。今船を操縦しているアスカのことは皆さんご存じと思いますので省略して、

 シャーリー、こっちこっち」


 俺の後ろで、顔を赤らめて緊張していたシャーリーを前に押し出して、


「名目上は、アスカの養女と言うことにしていますが、実質私の養女のシャーリー・エンダーです。この船の名前の由来ゆらいでもあります」


「『シャーリン』はシャーリーさんの名前から、そうだったんですね。シャーリーさんのお話はショウタさんから何度もうかがっています。リリアナです。よろしくね」


「ショウタさんとアスカさんに救っていただきパルコードからこの国に亡命していますアリシアです。シャーリーさんよろしくね」


「は、はい。シャーリー・エンダーです。お二人ともよろしくお願いします」


 硬くなるのは仕方がないが、ちゃんと王族、皇族に対して受け答えできたようで俺は嬉しいぞ。


 次は、ラッティーだ。ラッティーを前に押し出して、


「この子は、リリム・アトレア。南方諸種族連合の一国、アトレアの王女です。いろいろあって、この子も一応アスカの養女になっています」


「リリムさん、初めまして、リリアナです。よろしくね」


「初めまして、アリシアです。よろしくね」


「はい。リリム・アトレアです。まだ、10歳ですが、付属校に入学するためアスカさんに勉強を見てもらっています」


「あら、私もいま一生懸命勉強しているのだけれど、リリムさんはすごいのね」


「アデレードのセントラル大学の付属校といえば、私のいたパルコードでも名前を聞く名門。10歳でそこをめざすとは見上げたものです」


「ありがとうございます。これからも精進しょうじんしていきます」


 10歳とは思えない受け答えに、二人の殿下も驚いたようだ。もちろん俺も驚いた。今の受け答えがアスカの仕込みでないなら、やはりラッティーは相当頭がいいようだ。ラッティーの本当の親父になったわけではないが将来が楽しみだ。


「みなさん、それではしばらく窓の景色でもお楽しみください」


 俺はそう言って、後ろに控えていた、ミラとソフィアに目配せした。すぐに二人は察してお茶の準備のため下の厨房に下りて行った。


 ホスト役の俺は、シャーリーとラッティーを連れ、リリアナ殿下たちの近くの席についていつものような話をしていたのだが、さすがにシャーリーとラッティーは気疲れしそうなので、ミラとソフィアの手伝いをするように言いつけておいた。



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