第237話 『鉄の迷宮』再び


 そして、翌日。


 四人娘たちを連れて、『鉄の迷宮』に遠征だ。


 四輪車やメイス、盾、それに投擲弾とうてきだん、各自の小物などは俺が収納しているので、みんな手ぶらだ。


 朝のトレーニングを済ませ、朝食をとりしばらく休憩して出発することにした。


 四人娘たちは、少々のランニングでは疲れないのだろうが、行った先での実戦が待っているので、あまり速度は上げないよう走っていくことにした。


 そのため、二時間近くランニングをすることになったが、途中で四人娘にはスタミナポーションを一度休憩がてら飲ませたので、特に問題なく露天掘りの跡地に到着できた。


 前回来た時の見張り小屋はすでに取り壊されており、坑道工事の作業員たちが使っていた建屋たてやも取り壊されて、今は、十五人ほどの作業員で、冒険者学校の基礎部分の工事が行われているようだ。ここに来る途中、資材を積んだ馬車を何台も追い抜いたが、あの馬車はここの工事用の資材を運んでいたのだろう。


 作業している人たちに簡単にあいさつをして、試験坑道の坑口に向かった。


 さくを越えて、坑道の中に入ると、当たりまえだが、ちゃんとダンジョンへの黒い渦がある。


「それじゃあ、中に入るから、各自、メイスと盾を受け取ってくれ」


 一応、昨日きのうの夜、盾とメイス、それに台車と投擲弾についてアスカの方から四人娘に説明しているので、特に問題はないと思う。


 四人娘たちも初めての実戦なので少し緊張しているようだ。


「私がついているので、おまえたちがケガをすることは万に一つもないので安心するように。たとえ、その万が一が起きたとしても即死そくしでなければマスターが必ずもとに戻してくれるからな。腕の一、二本無くすつもりで頑張って見ろ」


 また、おどすようなことを言う。


 いまから怖がらせちゃいけないだろう。とはいうものの、これはいつもアスカが言っていることなので、四人娘たちもこの程度ではビビらないようだ。


「ペラ、何か四人に言っておくことはあるか?」


 ん? 何かいつものペラとは雰囲気が違う?


「では、一言だけ。

 四人とも、ためらうな。死ぬ気で敵を殲滅せんめつするぞ!」


 あれ、なんだか妙なスイッチが入ったか? 言っていることはちゃんとした言葉ではあるが、えらい過激かげきな言葉だぞ。これが、戦闘特化型の神髄しんずいなのだろうか?


 なんだか、今の言葉でしらけムードが漂ったのだが、気を引き締めて、


「それじゃあ、行くぞ!」


「はい!」。いつも通りのいい返事だ。



 前回と同じように、まずアスカが渦の中に入って行った。その後残った俺たちは適当に渦の中に入って行き、渦から出た先はちゃんと『鉄の迷宮』の1層だった。


 赤茶けた石を積み上げた通路が続いているダンジョンは薄暗く、リディアたち四人は初めてのダンジョンで若干腰が引けた感じになっている。まあ、これは仕方がない。俺も最初にキルンで迷宮に入った時はこんなものだった。


 すぐに収納から四輪車を出して、


「盾は重いからこの車の中に置いとけばいいぞ」


 車輪の外側に薄い鉄板を巻いているのでどうしても、四輪車を動かすとジャリジャリと車輪に張った鉄板と砂がこすれたりその砂が潰れたりする音がうるさいのだがそこは我慢するしかない。


 四人娘のリーダー格のリディアには、投擲弾の導火線に点火するため、点火器を渡しておいた。点火器は、単純に火を点ける魔道具で、ボタンを押すと俺の指先ライター程度の火が先端から出るようになる。言い方を変えると、俺の指先ライターは点火器くらいの価値があるということだ。


 投擲弾は10個ほど、4輪車の脇に取りつけたかなり厚手の布で作った物入れに入れている。仕切りにも厚手の布を使っているので、中でぶつかり合って投擲弾の陶器の弾体だんたいが割れるようなことはない。


 ミニマップを見ると、100メートルほど先にゴーレム二体がいるようでゆっくりとこちらに向かってきている。暗いのでまだよくは見えないが、じきに目視もくしできるようになるだろう。


「ペラ、四人にメイスの使い方を教えた方がいいんじゃないか?」


「イエス、サー!

 とにかく思いっきり全力で振れ! 以上! 返事は?」


「は、はい」


「返事は、イエス、マームだ。もう一度」


「イエス、マーム」


「違う! ここは、マーム。イエス、マームだ!」


「は、はい。マーム。イエス、マーム!」


 ……


 女性の上官はマームというのか。そんなことが俺の知識にあったのかは不明だ。


 そうこうしていたら、ゴーレムが見えて来た。やはり赤鉄鉱ヘマタイト・ゴーレムのペアだった。


「ゴーレムが見えて来た。少し近づいてみよう。最初は試しに俺が投擲弾を使ってみるから、四人は盾を持って、爆風ばくふうに備えてくれ」


 昨日きのうアスカが四人に対し一般的な爆弾と爆風について説明したあと、盾の使い方も一応教えているが、やはり一度で覚えきるのは難しいだろう。


 百聞は一見にかず。俺が手本を見せてやろう。


 俺は、自分の収納から投擲弾を一つ取り出して右手に持ってゴーレムが近づくのを待っている。


「俺が投擲弾を投げたら、四人は、四輪車を守るように盾を構えてくれ。今のうちに四輪車の前に出ていた方がいいな。そう。俺が導火線に火を点けたら5秒で爆発するから、それまでに盾を構えて、口を軽くけておけよ」


 ゴーレム二体がゆっくり迫ってくる。だいたい、このくらいの距離か。


 右手に持った投擲弾からちょこんと出た導火線に左手からの指先ファイヤーで火を点け、


「いま、点火した」


 そう言いながらゴーレムに向けて投擲弾を投げつけた。天井がそこまで高くないので気を付けて投げたのだが、少しだけ弓なりに投げた投擲弾はうまい具合に飛んでいき、ゴーレムのやや手前の空中で爆発した。


 ドガーーン!


 閉じた場所での爆発はかなり迫力と威力があり、一瞬上がった気圧で耳が押し付けられるような感覚と同時に爆風が突き抜けて行った。それと一緒にゴーレムの破片が飛んできたが、とりあえず俺はあおられながらも何ともなかった。四人娘たちは今の爆発で一様に尻餅をついていたが、幸い誰にもケガはなかったようだ。アスカとペラはなんともなかったようだ。


 ゴーレムは、というと、ここからではよくわからないが、爆風を身近みぢかに受けたせいか二体とも通路に倒れてしまっている。


「よし、みんな、武器を構えて、近寄ってみるぞ」


 尻餅をついていた四人も起き上がり、四輪車に盾を乗せて、二人が前で引いて二人が後ろから押すスタイルでゴーレムの方に向かって進んで行った。


 倒れたゴーレム二体から20メートルほど手前で、いったん立ち止まり、様子を見たが、どうもゴーレムに動く気配がない。さらに近寄って見ると、二体とも頭や胴体にひび割れができていた。先ほどの一撃だけでゴーレムをたおしたらしい。


 バラバラになっていれば、ゴーレムの残骸を四輪車に何とか積み込めるが、これだと持ち上げようもないので、


「メイスでゴーレムをたたき割って小さくしてから四輪車に乗せるしかないな」


 ということで、四人がかりで、メイスを使いゴーレムの体を砕きながら、四輪車に乗せて行った。魔石はそのままゴーレムの残骸の中に入ったままだったので、俺が抜いておいた。


 二体分乗せて推定2トンの重さの台車は四人がかりで何とか動かすことはできたが、これ以上は荷物を載せることはできないので、いったん出入り口の黒い渦まで戻ることにした。



「どうだ、四輪車を使ってみて?」


「ゴーレム二体を載せるとかなり重いし、まだ慣れていないので四人で運ぶのがやっとでした。それでも慣れてくれば、少しは楽にかなるかもしれません」


 最初はこんなものだろう。しかし、予想以上の投擲弾の威力には驚いた。



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