第236話 装備製作


 次は盾の制作だ。


 爆弾を投げた時の防爆ぼうばく用の意味合いがあるので大き目のものをアスカが作ろうというのだが、


「鉄なんかであまり大きな盾を作ると重過ぎて戦闘時に使いにくくないか?」


「盾を持っての立ち回りは、小型のものでもかなりの熟練と腕力を要しますし、少々のダメージはポーションで何とでもなりますから、この際あきらめて盾は防爆のみに特化させましょう。使用しないときは四輪車に置いておけば少々大きくて重くとも問題ありませんから」


「なるほど、それで、さっきのメイスも持ち手を長くして両手持ちができるようになっていたのか」


「はい。それでは、さっそく一つ盾を作ってみます。今回は戦闘時の取り回しを考慮する必要はありませんので、持ち手は、単純に手でつかむだけの一カ所で、腕に固定する革紐などは取り付けません」


 鉄のインゴット一つ半がねあわされて、金床かなとこの上で延ばされて鉄板になっていく。


「この盾で、爆弾の爆風をある程度らせれば、ヘルメットと革鎧を装着した冒険者が爆発で生じた破片などでPAを全損してケガをすることはないと思います」


 平べったい長四角の鉄板の短いへんの片側が、10センチほどやや鋭角になるように折り曲げられた。その後その反対側のへんから距離にして四分の一辺りに鉄製の取っ手が付けられた。


 今回の盾が平べったいのは、爆風を後方に逃がすため斜めに盾を構えると、盾が曲がっていると、足元にどうしても隙間すきまいてしまい、爆風がその隙間すきまから侵入して盾を持ちあげてあおられることが有るからなのだそうだ。また、折り曲げた部分に足を乗せて踏ん張ることで、さらに爆風にあおられにくくするということだった。良く思いつくものだ。


「これで盾としては完成ですが、せっかくなので、冒険者学校のマークを彫金ちょうきんで入れてしまいましょう。この程度の工作ですと指先だけで可能ですが、ペラにも簡単に作業できるよう彫金用のタガネを先にはがねで作ってしまいます」


 そう言って、アスカは適当な大きさに切り取ったはがねを金床の上で丸く延ばしながら、太目の鉛筆のようなタガネを作り出した。あえて鑑定はしないが、このタガネも相当な物なのだろう。


 アスカはマークを入れる個所が金床の真ん中になるように盾を乗せて、その上からでき上がったタガネをあてて軽くハンマーでたたき始めた。


 これも、目にもとまらぬ速さでハンマーが振るわれている。


 トトト、トトト、トトト、……。


 10秒ほどのト連送のあと、


突撃とつげきはしませんが、マークは完成しました」


 アスカのかかげた盾の表側、左上あたりに、ペラの横顔がきれいに浮き彫りになって彫り込まれていた。アスカは何を作っても芸術作品に仕上げてしまうが、使えばやがて壊れてしまう消耗品しょうもうひんの盾には少々もったいない気もしてくる。


「それじゃあ、ペラ、後三つ、今と同じ盾を作るように」


「了解しました」


 今度はペラがアスカから手渡されたハンマーを使って鉄板を作っていく。アスカと比べてもそん色なない速さだ。あっという間に三枚の長四角の鉄板ができ上り、足で踏みつける部分や持ち手の部分ができ上っていった。


 そして、最後の彫金作業。アスカに手渡されたタガネを動かしながらハンマーで軽くたたいていくペラ。


 最初の彫金細工ができ上った。


「まず、一つ完成しました」


 でき上がった盾は、アスカのものと全く同じものだ。ペラはアスカの動きを寸分たがわず真似まねることができるのだろう。


 ただ一つ、アスカの作った盾と違ったのは、盾の上に浮き彫りになっていたペラの横顔がどうもペラに見えないことぐらいか。どこかの国の修復しゅうふくに失敗した宗教画のマリアさまのような顔が彫られていた。


「ペラ、その盾に刻んだ横顔はいったい誰なんだ? ちょっと、ペラの顔に見えないんだが」


「マスター、この横顔は今は全く私に似ていませんが、問題ありません」


「いや、そこは問題だろ」


 そうペラに言ったのだが、その言葉を受けてかペラがなにやら、妙な具合にいろいろ表情を変えはじめた。しばらくそんなことをしていたのだが、


「マスター、どうでしょう?」


「何が?」


「今の私の顔は、その盾の顔そっくりではありませんか?」


 確かに、今のペラの顔は、盾に彫り込まれた顔によく似ている。似てはいるが、これはちょっと方向性が違うと思う。


「ペラ、早めに元の顔に戻した方がいいぞ」


「はい、マスター」


 また、ペラが自分の顔を動かし始めたのだが、元に戻らなくなってしまったようだ。


「ペラ、こちらに顔を向けなさい」


 そう言ってアスカがペラの顔を両手で延ばしたり引っぱったりしていたらなんとか元のペラの顔に戻ったようだ。連続的にペラの顔の変形を見ていたので、これが本当に元のペラの顔なのかと言われれば正直なところ自信はない。


「マスター、冒険者学校のマークは私が入れてしまいます」


 結局、ペラの芸術作品はアスカによって一度つぶされて、その上からちゃんとしたマークが刻み込まれた。残りの二つの盾についても、アスカがさっさとマークを刻んで、合計四枚の盾ができ上った。


 その日の夕食後、四人娘を呼んで、明日の予定を告げた後、簡単に新装備のことをアスカが説明をした。





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