第238話 『鉄の迷宮』2


 まず、低い天井を意識して結構な重さのある投擲弾とうてきだんを投げるのは俺だから何とかなったが、かなり難しいと思う。


 それに、たった二体のゴーレムをたおしただけで、四輪車は打ち止めになってしまった。これは、そういう仕様しようだし、運ぶことを考えれば仕方ないわけで、この二体分の鉱石と魔石でも一般的な冒険者たちにとっては、かなりの収入にはなるのだろう。


 とはいうものの、わざわざここまで来たにしては全く物足りないので、俺が先ほどのゴーレムの残骸ざんがいを収納して四輪車を空にし、今度は四人娘たちでメイスを使った対ゴーレム戦を行ってみることにした。



「それじゃあ、今度はメイスでゴーレム戦だ」


「特に、ゴーレムの動きは遅いので、相手の手足の動きを良く見ていれば簡単に対処できるはずだ。急いでたおす必要はないから、少しずつでも攻撃を当てて、相手にダメージを与え続けろ。いずれたおせる。

 先ほども言ったが、万が一にもおまえたちにゴーレムの攻撃が当たることはないから安心しろ。ペラ、おまえの方から何かあるか?」


「イエス、マーム。

 思いっきり、全力でブチかませ!」


「イエス、マーム!」


 アスカも、とうとうマームになったようだ。ペラさんの言葉は相変わらずだったが、まあ、難しいことを言うよりも冒険者を指導するにあたってはこれくらいの方がいいのかもしれない。良くは知らんけど。


 ミニマップには、100メートルほど先の通路を曲がったところにゴーレムペアがいてこちらにゆっくり向かってきている。


「ゴーレムが100メートルほど先にいる。向かって行くぞ」



「リディアとマリナ、エカテリーナとアメリアがペアーになって、二人で一体のゴーレムを相手にするように。味方同士で動きが邪魔じゃまされないよう声を出し合うなりして気を付けろよ。

 メイスは相手のリーチよりも間合いが短いから、一人が長めに持って牽制けんせいの突きを入れて、すぐ間合いの外に逃げる。ゴーレムの攻撃が終わったらもう一人が横合いから間合いを詰めてゴーレムにメイスをたたき込む。この流れでいってみよう。

 マリナとアメリアが牽制役、リディアとエカテリーナが一歩踏み込んでの攻撃役だ。

 力の入れ具合で前後するが、今のおまえたちなら、おそらく、五発もメイスをたたき込めばゴーレムは沈むはずだ。まずはゴーレムの動きに慣れるために、四人とも牽制の突きを入れてみよう。ペラから何か」


「イエス、マーム。

 いけー! 何事なにごとも全力だー!」


「イエス、マーム!」


 まあ、いいんじゃないかな。全力しか言わないこういった指導も、アリっちゃアリでしょ。アスカもいるんだし。


 近づいてきたゴーレム二体に対し、四人は二人ずつ左右に広がって、間合いの外から大きく手を伸ばして、ゴーレムに軽い突きを入れる。


「いくわよ!」


「はい!」


「今度はわたし! そら!」


「てー!」


 左右から突きを入れられるゴーレムが手を振り回すが、あまりスピードがないので、簡単にその攻撃をかわすことができる。


 四人は最初のうちはやや及び腰の突きで、動きも硬かったが、徐々に動きから硬さも抜けてなめらかに動けるようになってきたようだ。


「そろそろ、攻撃いくわよ!」


「はい!」


「それ!」


 各々四、五回の突きを入れたあと、タイミングなども掴んだようで、まずリディアが一歩踏み込みゴーレムの胴に腰の入ったいい一撃を見舞みまった。


 グシャ!


 と、なかなかいい音がしてはがねのメイスがゴーレムの胴体に少しめり込んだ。


 次は、エカテリーナが隣のゴーレムに向かいメイスを振るう。


「てー!」


 こちらも腰の入ったいいスイングで、リディアの時と同じように、


 グシャ!


 といい音をたててメイスがゴーレムの胴体にめり込んだ。すぐにエカテリーナはメイスを引き抜いて、間合いの外に脱出する。


 同じ展開で、そのあと三度、メイスが各々のゴーレムに叩きこまれて、ゴーレムは動かなくなり、その場に倒れこんだ拍子にどちらのゴーレムも胴体が折れてしまった。


 アスカは、五発で沈むと言っていたが、ペラの指導の賜物たまものか、四発でゴーレムがたおされた。早くたおせばそれだけ危険にさらされる時間が少なくなる。意外とペラの一言も役に立つ指導だったようだ。


「ゴーレムは重いからなるべく小さく砕いて運べ。それでも重いはずだから持ち上げるときは腰を傷めないようしっかり腰を入れろ」


「イエス、マーム!」


 たおれたゴーレムの体はまだ手で抱え上げるには大きすぎるため、四人で寄ってたかって砕かれていき、残骸となって四輪車に詰め込まれた。


 今回は四人娘に魔石を回収させたが、特に破損したりひびが入ってはいなかった。



「よーし、帰りもあるから今日はこんなところかな。四人ともごくろうさん。だいぶ参考になった。それじゃあ、少し早いが昼にしよう」



 普段使っている物より大き目の布を通路に敷いて、収納庫の中の、大皿料理、パン、飲み物、取り皿やその他の食器を並べ、


「それでは、いただきます」


「いただきます」


「ペラは悪いが周囲を見張っていてくれ」


「イエス、サー」


 俺も、サーになったようだ。すでにマップにゴーレムが見えているが、近づいてくれば、ペラが適当にたおしてくれるだろう。待てよ、せっかくだから、


「ペラ、いまゴーレムがこっちに近づいてきているんだが、この近くまで近寄らせて、四人に参考になるような戦い方を見せてくれるか?」


「イエス、サー。で行きます」


 力強い言葉がペラから帰って来た。


 たいそう行儀ぎょうぎの悪い話ではあるが、あのゴーレムが相手なら食べながら見物するくらいまあいいだろう。



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