第231話 爆弾製造


 注文していた爆弾用資材が届いた。爆薬を詰めて爆弾本体となる陶器とうき製の弾体だんたいなど注文生産品があったためそれなりの時間がかかっていたのだがやっと届いたようだ。なかでも時間がかかったのは、起爆剤きばくざいを詰めて導火線と繋ぎ雷管らいかんを作るために特注した、銅板製の細い筒で、筒の片側が閉じていて、ややくぼんでいる。アスカがいうにはその方が起爆効果が高いのだそうだ。


 このあたりは危険物の扱いに厳しい地球とは違ってそういった規制は全くないので、注文して在庫がありさえすれば爆弾用資材だろうが何だろうが簡単に手に入れることができる。


 ヨシュア達が午前中錬金作業場を使っているので、われわれは午後から作業に入ることにした。われわれといっても、作業するのはアスカとペラの二人で、俺は材料の手渡しと、でき上がったものを収納するだけだ。


「マスター、今回の錬金で作る起爆剤は非常に危険なものですが、万に一つも失敗しませんので、近くにいてもらっても大丈夫です」


「マスター、マスターが死ぬときは私もご一緒しますから安心です。死なば諸共もろともです」


 何が安心なのかは、いまいちわからないペラの言葉にうなずいて、


「ペラありがとう。それじゃあ、始めようか」


 届けられた爆弾用資材をあらかじめ収納していた俺は、その中からアスカが指定する錬金素材を作業台の上に並べていく。


 並べられた起爆剤用の錬金素材を、あらかじめ純水で洗浄した錬金釜れんきんがま手際てぎわよく入れ、どんどん処理が進んでいく。


「この工程はある程度時間がかかりますので、その間に導火線を作ります」


 それぞれ布袋ぬのぶくろの中に入っていた、木炭と硫黄いおうのかけら、硝石しょうせきのかけらをいっしょに大型のすり鉢の中に入れて太めの木の棒で砕いていく。十分砕き終わり粉末となったそれらを一つにまとめ、


「炭の粉末と硫黄の粉末、高品位の硝石の粉末をムラの無いよう混ぜ合わせます。……、混ぜ終えた後、このように片面にノリを塗った紙をこの粉の中をくぐらせますと、このように粉末が紙に付着しますのでこれをそのまま縦に丸めて乾燥すれば導火線ができ上がります」


 縦10センチ、横3センチほどの薄い紙が導火線に加工されて行った。


 そこから先は、アスカとペラによる高速作業なので、あっという間に導火線の山ができ上った。




 起爆剤製造の反応過程はんのうかていはそれなりに時間がかかったのだが、導火線が必要量完成した辺りで、起爆剤の原液ができたようだ。


 アスカはでき上った原液を用意した四角いお盆のような容器に流し込んでいった。そのお盆の中には白い粉末状の珪藻土けいそうどとかいう粉があらかじめ敷き詰められていて、起爆剤のドロリとした溶液がしみ込むとやや黄色みを帯びた粘土状のものができ上った。


「このでき上がった粘土状のものを、この木の棒で刺激を与えないよう注意しながら中に微小な気泡を作るようにゆっくりねていきます」


 ペラが真面目な顔をして、アスカの指示通り木の棒で粘土をゆっくり捏ねまわしていく。


「でき上がった粘土状の起爆剤を、この充填じゅうてん器にいったん入れます。

 準備ができたら、この充填器を使って、銅板でできたこの小型の筒の中に、起爆剤を注入していきます」


 充填器と言っているのは、水鉄砲みずでっぽうのような造りで、後ろを押すと先端からウニュと起爆剤が出てくる。


「銅板の内側には薄くですが獣脂じゅうしを塗っていますので、起爆剤の原液で銅板が腐食するのを防いでいます。なるべくきっちり起爆剤を筒に入れた方が不発の可能性が下がりますのでここは丁寧ていねいに。

 まず、一つだけ雷管を作ってみましょう。

 先ほど作った導火線の先端を起爆剤の入った筒の開いた方の口に入れて、その部分を抜けないように押しつぶします。私は簡単に指で可能ですが、人手で行う場合は専用の木製のプライヤーで先端を潰します。これで、いわゆる雷管ができました。弾体へ粉末状の爆薬を充てん後、この雷管が真ん中になるよう爆薬の中に押し込みます」


「使用時は、専用の着火器などから導火線に火をつけて目標に投げつけて使用します。弾体に挿入そうにゅうする粉末爆薬は非常に安定したものですから、特に危険はありません。いていればペラにも手伝わせますので、ヨシュアたちでも十分製作が可能です」


 1000個ほど縦に並べられた小型の銅製の筒の中に起爆剤が詰められて行く。二人がすごいスピードで手を動かすのでいい加減な作業をしているのかとも思うが、そういうことは全くなく、正確な作業なのだろう。と思っているうちに作業は終わってしまった。


「先ほどと同じように、導火線を起爆剤の入った銅の筒にはめていき雷管を作っていきます」


 これも二人で作業をしていく関係であっという間に1000個の雷管ができてしまった。赤銅色しゃくどういろの銅の筒から白い導火線が10センチ弱伸びている。



 でき上がった雷管の山と余った導火線用の火薬を俺が収納して、今日の作業は終了した。正味二時間の作業だったが、最初の起爆剤を作る部分が一時間程度かかっていたので、手作業部分はそんなに時間はかかっていない。


「マスター、取りあえずの作業は終わりましたので、明日あしたは、爆弾用の爆薬製造と爆弾の組み立てを行ってみましょう。何種類か製法を変えて、でき上がりの使いやすさや、威力いりょくを比較してみて最適なものを量産します」


「うーん。この爆弾は、いわゆる榴弾りゅうだんになるんだろ? ゴーレム相手だとちょっと威力が足りなそうだな」


「その可能性はあります。アイアン・ゴーレムやスチール・ゴーレムには通用しないでしょうが、赤鉄鉱ヘマタイト・ゴーレムには有効だと思います」


「そうだな。あいつらで十分強くなった後なら、自力でアイアン・ゴーレムもたおせるだろうからな」


「マスター」


「どうした、ペラ?」


「その赤鉄鉱ヘマタイト・ゴーレムは強いんですか?」


「ペラが戦えば全く相手にならないような弱いモンスターだと思うが、新人冒険者だときついかもしれないな」


「それですと、教育が難しいです」


 なんだか、ペラがまともなことを考えているようだ。やはり進歩はしているようだ。俺はすごくうれしいぞ。


「そうだな、ペラは新人冒険者がそのゴーレムに簡単に勝つように教育してきたえていかなければいけないんだから頑張ってくれよ」


「はい。新人冒険者が強くなるようペラはくるくる回ります」


「ペラ、くるくる回ってどうするんだ?」


『マスター、おそらく、ペラとプロペラを掛けたペラの冗談だと思います。ペラはきっとほめて伸びると思いますのでほめてやりましょう』


『そうか』


「ほう、ペラはうまいことを言うなー!」


「マスター、ありがとうございます。ペラはマスターにほめられて、イカロスの羽を付けて天にも昇る心地です」


「それじゃあ墜落ついらくするだろ」








[あとがき]

起爆剤の原液がニトログリセリンですと、ダイナマイトの作り方に似ていますね。ダイナマイトは鋭い刺激には敏感ですが、微小気泡が抜けたものは感度が下がります。

硝石は昔の日本と違い肥料として簡単に手に入る世界だとご理解してください。


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