第232話 爆弾製造2


 雷管らいかんを作ったその日の夜。アスカがわれわれが寝ている間に爆薬の威力を増すため亜鉛あえんの粉末を作っておくというので、亜鉛のインゴット一つと大瓶一つを渡している。




 翌日午後。


 今日は、ヨシュアと助手のマリアも錬金部屋にいる。爆弾の製造方法を教えるためだ。


 俺は、作業台の上に硝石しょうせきの入った布袋を何袋なんたいか積み上げ、その後陶器で作った茶筒ちゃづつ型の弾体だんたいを10個ほど。


 弾体の上蓋うわぶたと本体には、オス、メスでネジが切ってあり、それでしっかり上蓋が締るようになっている。その上蓋には導火線用のあなが空いている。


 植物油の入った壺もそれなりの数作業台の上に並べた。あと焼き物用の粘土が一塊ひとかたまり、板の上に置かれて作業台の上に置いてある。


 俺と、ヨシュアとマリアの三人は、粉塵ふんじんを防ぐため布で作ったマスクで口と鼻を覆っている。


「まず、最初に、すり鉢の中に硝石しょうせき一袋いったい丸々移し、このすりこ木で砕いていきます」


 大きなすり鉢に、硝石を一袋分入れて、それを大きなすりこ木で砕いていく。硝石自体は柔らかい石なので簡単に崩れて砂状になる。ここの工程は、適当でいいらしい。


「硝石が適当に砕けたところで、壺から植物油を鉢の中に入れてください。満遍まんべんなく油が混ざるように、混ぜながら少しずつ油を注ぐのがコツです。油の量は、硝石一袋に対して、壺の油、四分の一ですから、皆さんは計量してください」


 アスカは説明を続けながら、見た目は無造作にすり鉢に油を注ぎ、すりこ木で混ぜ合わしている。油の壺は髪の毛で操作しているため一人で作業できるが、通常は二人作業だろう。


「こんなところでいいでしょう」


 これだけでも爆薬なのだそうだが、見た目はやや黄色みを帯びた砂といった感じだ。


「それでは、これを弾体となるこの陶器に詰めていきます」


 柄杓ひしゃくで弾体の中に爆薬を詰めていくアスカ。


「一度、いっぱいまで入れたら、軽く作業台の上でトントンとして少し密になるようにして、少なくなった爆薬を足してやります」


「次は、雷管のセット。雷管から出た導火線を蓋の裏側からこのように通します」


「そして、雷管の本体を先ほどの爆薬に埋めるようにしながら、弾体に蓋をして、しっかり閉じます。導火線と蓋の隙間すきまにはこのように粘土を詰めて外気、特に湿気しっけが内部に侵入しないようにします」


「これで、爆弾が一つでき上がりました。これを1号爆弾と仮に名付けます。マスター、この1号爆弾を収納してください」


 いわれるまま、その爆弾を収納しておいた。


「硝石一袋いったいで、爆弾20個分を想定していますので、残った爆薬は爆弾19個分になります」


「この残った爆薬に、こちらの瓶に入った亜鉛の粉をこの小さな木製のティースプーンですり切り19杯入れてよく混ぜます」


 銀色の亜鉛粉が、すり鉢の中に投入され、それがすりこ木で満遍なくかき混ぜられて行く。何だか爆薬は全体的に黒っぽくなった。


「この爆薬を先ほどと同じように、弾体に詰めて、同じように雷管をセットします」


 解説しながらも作業は進み、あっという間に二個目の爆弾ができ上った。


「これは、2号爆弾と仮に名付けます。マスター、これも収納願います」


「残り爆薬が爆弾18個ぶんになりました。先ほどの亜鉛粉末を9杯入れてよくかき混ぜます。これで、爆弾一個当たりの亜鉛粉末はティースプーン1.5杯分になります」


 間をおかず、3個目の爆弾ができ上った。これを3号爆弾として収納。


「残り爆薬が爆弾17個分です。今度は亜鉛粉末を8.5杯入れてよくかき混ぜます。これで、爆弾一個当たりの亜鉛粉末はティースプーン2杯分になります」


 4号爆弾も完成し収納。


「それでは、マスター、火薬類をいったん全部収納してください。外に出て実験しましょう。少し遠出とおでをするので、ヨシュアとマリアは屋敷で休んでいるように」


「はい」「はい」


「ペラはわたしたちと一緒に」


「はい」


 作業用に取り出していた資材のうち、雷管と爆薬関連のものを全て収納しておいた。


「それでは、実験のため以前砂虫を処理した川原かわらまで行きましょう。あそこなら少々大きな音で爆発が起きても周辺には迷惑は掛からないと思います」



 そういうことで、俺たちは、また三人揃って街中を駆けて、西門から南に向かってしばらく進み、いつもの川原までやってきた。周りには誰もいないようだ。


「1号から4号まで順に爆発させてみて威力を比較してみましょう」


「それじゃあまず1号から。これは俺がファイアで点火すればいいのか?」


「お願いします。今回は5秒で爆発するはずなので、火がついたらなるべく遠くに放り投げてください」


「了解」


 右手に持った1号爆弾から伸びている導火線にファイアで火を付けた。


 意外と憶えているもので、例の中二病呪文を小声で唱えて、導火線に火を付けた。


 すぐに、思いっきり遠くに爆弾を放り投げたらかなり遠くまで飛んで行ったが、途中で、


 ボーン!


 腹に響くような音がして、爆弾が爆発した。同時に川原に爆弾の陶器のかけらのようなものがパラパラと落ちて来た。


「結構威力があるな」


「2号はもう少し威力いりょくがあると思います」


「それじゃあ、2号いくぞ」


 2号に火をつけて放り投げた。先ほどと同じあたりまで飛んで、一瞬青緑色の光球が膨らみ衝撃波とともに爆発音がやって来た。


 ドーン!


 明らかに、こっちの方が威力は高いな。俺にも、何個か弾体の破片が飛んできたが、ほんの小粒だったのでPAに影響はなかったようだ。



 次は3号だ。


「マスター、3号はかなり強力になると思われますから、口を軽く開けていてください」


 3号に火をつけて、放り投げ、口を開いて爆発を待つ。先ほどよりも明るい青緑色の光球が膨らんで、衝撃波と爆発音が突き抜けていった。


 ドッガーン!


 高速で飛来した弾体の破片が俺のPAを幾分削って行った。こいつは、ちゃんと防御していないと危ないぞ。威力はもちろんこれまでで一番だ。


「マスター、4号は3号とほぼ変わらない威力と思います」


 それでは最後の一発。


 4号に火をつけて、放り投げ、3号の時と同じように口を開いて爆発を待つ。3号の時よりやや青緑色の濃い光球が膨らんで、衝撃波と爆発音が同じように突き抜けて行った。


 ドッガーン!


「予想通り、3号と4号は威力的に差がなかったようですので、添加てんかする亜鉛の粉末を弾体1個分の爆薬に対してティースプーン1.5杯の配合でいきます。爆弾の名前はどうしますか?」


「そうだな、ぶん投げる爆弾だから、ナゲナゲ弾かな」


「予想通りでした」


「マスター、私にも名前を考えさせてください」


「ペラ、さっきまでおとなしくしていたが、何かいい名前を思いついたのか?」


「はい、新しい爆弾は、マスターのおっしゃるように敵に向かって投げつけるものですから、投擲弾とうてきだんはどうでしょうか? 今後さらに改良などが行われるのなら、投擲弾とうてきだん1型とか」


 ペラのこの言葉に、アスカまで目をみはったようにみえた。


 どうしたペラ、どこか異常があるんじゃないか?


「アスカ、大丈夫なのか。さっきの爆発の影響がペラに出てるわけじゃないよな?」


「大丈夫だと思いますが、ペラがここまで進歩していたとは、この私も正直驚きました」


「ペラも進歩したようだし、俺たちも屋敷に戻って一休みしよう」


「はい、マスター」「はい」



[あとがき]

2020年8月13日、フォロワーさんの数が4000名を越えました。ありがとうございます。

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