第230話 コダマ・エンダー家紋章


 アスカが鉄のインゴットの半分を使って、ねたり切ったりしてペラの横顔を模した焼きごての先の部分ができ上がり、残り半分の鉄を細く延ばして柄の部分も取り付けられた。持ち手の部分が熱くなるといけないので、収納に入っていた砂虫テープを巻いて完成。


 いつもながらのできで、躍動感やくどうかんのあるペラの横顔の焼きごてだ。


「なかなかいいな。いまは左右さかさまだけど、実際は髪の毛が左に流れるんだな」


「はい。これを焼いて支給する鎧の左の胸に押し付けると黒く焼き印が刻まれますから、鎧の色は白っぽいものがいいと思います」


「焼き印が映えるように明るい系統の革鎧だな。簡単に手に入るだろうから問題ないだろう。試しに、板にでも押してみて様子を見てみよう」


「それじゃあ厨房に行って、コンロで熱してみましょう」


 アスカと連れだって厨房に行き、ゴーメイさんに断って魔導コンロで焼きごてを熱して、いくぶん赤くなったところで、収納から取り出した木片に押し付けてみた。


 シューー。


 そんな音を立てて、焼きごてが押し付けられた木片に焼き印が刻まれた。


「こうなると、なかなかいいな」


「ペラも喜ぶと思います」


 焼きごてを熱いまま収納しておくと取り出した時危険なので、冷めるのを待ちながら、横で作業を見ていたゴーメイさんとミラに、


「実は、冒険者たちの実力を底上げできないものかと、冒険者の学校を作ろうと考えてるんで、その学校のマークを作ってみたんです。支給する予定の革鎧の左胸にこの焼きごてで学校のマークの焼き印を入れると、カッコいいでしょう?」


「冒険者ために学校を。なかなかいいお考えです。それにそのマークもなかなかのものです。これは、ペラさんの横顔でしょう? よく特徴が出てますね」


「ほんと、カッコいいです」


「そうかい。

 二人にも好評のようだしやっぱり作って正解だったな」


「そうですね」


 そういった話をしているうちに焼きごても冷めたようなので一度水で洗って俺が収納しておいた。


 そのあとアスカと居間に戻り、 


「学校のマークはかなりうまくいったな。あとは、俺たちの紋章もんしょうだな」


まるの中に内接するしかくはどうでしょう?」


「どういう意味?」


「〇は愛を、□は正義を表すといいますから」


「愛はいいけど、正義はな。正義の執行しっこうは往々にして独善どくぜん、司法以外の正義の執行は基本的には犯罪だからな。俺はあんまり正義を振りかざす連中は昔から好きじゃないんだ」


「ですから、愛で包んだ正義です」


「なるほど。それならありかもしれないな。色は愛は赤だな。正義は俺の感覚から言うと白だが、どうなんだろう?」


「なにものにも染まらないという意味で、黒というのが一般的のようです」


「なるほど。赤丸の中に黒い四角か。内接じゃなくてしかく古銭こせんくらい小さくした方がいいな。それで、広くなった赤字の部分に何か模様を入れるとか」


「白くポーション瓶を左右に二つ入れるのはどうでしょう?」


「二つのエリクシールか。いいな。それで行こう。試しに、マスカレード仮面のシルクハットにその紋章だかマークを入れてみるか?」


「いえ、そうすると、クラン・マスカレードの実体じったいおおやけになってしまいますからマズいでしょう」


「なるほど、いまさら感はあるがな。この際だから、大々的にクラン・マスカレードを大きくしてやるか? 冒険者学校もクラン・マスカレードの団員養成校にしてやって」


「それだと、冒険者教育とはいえなくなってしまいますから、リーシュ宰相の好意が無駄になってしまいます。宰相で思い出しましたが、こういった紋章に相当するものは、王宮に届け出る必要があるかもしれません」


「そういうのはありそうだな。一度ちゃんとしたものを作ってみて、それを持って王宮に行ってみるか?」


「そうしましょう。どこかの紋章とダブってたりすることは今回の場合は可能性としては少ないのでしょうがそれでもありえますから、確認することは必要だと思います。他家の家令かれいを長年務めていたハウゼンにそこら辺を確認してもらえればいいでしょう」


「うちの紋章が問題ないことが確認できたら、馬車や門扉なんかに紋章を入れておかないとな」


「それも、ハウゼンに任せておけばわれわれの目に届かないようなところにも気を配ってもらえそうですからいいんじゃないでしょうか」


「それもそうだな。それじゃあアスカ、ハウゼンさんに頼んでおいてくれ」


「了解しました。

 それで、マスター、冒険者に基本的にはメイスと盾を持たせるという話ですが、魔法関係はどうしましょう?」


「ゴーレムに限れば攻撃魔法はあまり役に立たないと思うけど回復系統はあった方がいいかもな。だけど、魔法の先生には心当たりはないぞ。フレデリカ姉さんは偽装ぎそうだか幻影魔法が専門のようなことを言ってたし、いまは錬金術で忙しそうだしな」


「魔法は一日に使用できる回数がたいてい少ないものですから使い勝手が悪いですし、回復系統ならそれこそポーションで代用できますから、魔法や魔術がなくても何とかなりそうですね」


「そうだな。まあ、今回の冒険者学校の募集には魔法使い系は除く方が無難ぶなんだな」


「そうですね。使い捨てにはなりますが、錬金術で手投げ爆弾のようなものも作れますから、回復系のポーションと一緒に何個か渡しておけば十分かもしれません」


「爆弾を作るのは危険じゃないか?」


「爆弾の本体部分なら簡単にヨシュアたちで危険もなく作れますから。起爆剤きばくざい雷管らいかんなどの危険な部分は私が作りますから問題ないでしょう」


「アスカが危ないところを受け持ってくれるんなら何も心配ないか」


「はい。爆弾用の資材はヨシュアに明日にでも注文させますから、届き次第爆弾を作っていきましょう」


「俺ができ上がりを収納しておけば危なくないしな。ところで、ペラは錬金術関連の作業はできるのかな?」


「ペラのことを失念していました。四肢の動かし方は正確ですし、時間感覚は私並みです。また、温度や色など目だけで正確に測定できますので、即戦力として使えると思います」


「そうか、それはそれで拾い物だったな」


「そうですね。ペラと私が二人で、起爆剤部分を作っていけば、数年分の起爆剤がすぐにできると思います」



[あとがき]

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