第228話 冒険者学校2


 みんなのからだも温まったところで、次は屋敷の敷地周り一周300メートルを十周のランニングだ。


「ペラ、次はランニングだ。最初の一周はみんなで並んで走るからな。二週目からは各自の体調に合わせて好きなように走っているから」


「マスター、了解です」


 ペラから普通の返事が返ってくると、逆に怖いな。


 最初の一周は、俺、ペラ、アスカが横一列で先頭を並んでゆっくりしたペースで走った。


 二周目に入り、各自が自分に合ったスピードで走り始め列がばらけ始めたところ、なぜかペラはこれを競争と思ったようで、


「行きます!」


 そう言ってそこから一気に全力で走りだした。


 アスカ並みの全力疾走をされてしまうと、路面の石畳いしだたみが反動で壊れてしまうし、もしも音速でも超えてしまったら衝撃波しょうげきはが発生してたちまち周辺が破壊されてしまう。


 今回はアスカがすぐにペラの動きに反応して抱きとめたことで事なきを得た。


 ペラはこれで、教官大丈夫なのだろうか?


「大丈夫です。相手は冒険者ですから、最初にビシッ! と、体に教えてやればなんとかなります」


 何とかなるといえば何とかなるんだろうが、それでいいのか?




 ランニングの終わった連中を先に帰した俺とアスカは、ペラのおかげで10メートルほどボコボコになった石畳の路面を直して、それから屋敷に戻った。




 今日は午前中に、フォレスタルさんが図面とおそらく見積もりを持ってくる予定なので、朝食後アスカと二人居間で待機している。


 学習が終了しているはずのペラは自習ということでアスカの部屋でラッティーと勉強させている。


「フォレスタルさんがお見えになりましたので小応接室にお通ししました」


 ハウゼンさんに告げられたので、アスカと連れだって、応接に。


 お互いあいさつを済ませ、


「さっそくですが、こういった感じで図面を引いて参りました」


「要件では冒険者用の寮ということでしたので、まず、冒険者二十名を想定した建屋を考えてみました。

 総二階建てで二階に四人部屋を五つ一本の廊下に沿わせて並べています。廊下の一番奥の部屋は納戸なんどになっています。

 各四人部屋には、二段ベッドが二つ、小さな机とタンスが四つ。防具や武器などの装備などを入れるため、広めの共用物入れが一つついています」


 フォレスタルさんの説明は続き、


 一階には、食堂、厨房、トイレ、洗面所、物置、住み込みの寮母りょうぼの部屋、そして、風呂場。


「冒険者用の宿屋などには通常風呂場などついていないのですが、ショウタさまのご注文の建物ですから、やはり風呂場は必須であろうと、広めの風呂場を図面に加えておきました。

 残念ですが、今回は男・女の区別は時間帯別での使用前提で考えています。風呂場を作ることにより、温水器、浄水器と下水の浄水施設はやや大型になりますが、いずれ増築するというお話でしたので問題ないでしょう」


 確かに時間別だと、あの隙間付き仕切りが使えないから逆にいいかもしれないな。


「工事期間は、前回ご説明した通り、一カ月、30日です」


「わかりました、図面については問題ありません。いつものように見積りもお持ちなんですよね」


「はい。こちらが今回のお見積りになります。総額は大金貨40枚となります。場所が場所ですので、工事費や材料の運搬費用が割高になっていますが、現在の建屋の資材も流用しますのでそのあたりはほぼ相殺されています」


 フォレスタルさんから受け取った見積もり書はアスカに渡してチェックしてもらい、すぐに問題ないと返されたので、


「支払いはこれまで同様に完工かんこう後でよろしいんですか?」


「はい。いつものように完工後、私の商業ギルドの口座にお振込みください」


「了解しました」


「工事は明日から入ります。それでは失礼します」


 そう言って、フォレスタルさんは乗って来た馬車に乗って帰って行った。いつもかわらず非常に忙しそうだ。


 これで一安心。次は寮母さんだ。



 アスカはラッティーとペラの勉強に付き合うようなので、俺だけで、商業ギルドに行くことにした。以前は、俺だけで行動することをひどく嫌っていたアスカだが最近はある程度俺の実力を認めたのか、こういった自由行動が許されるようになった。何気なにげに小学生から中学生になったような感じとでもいうのか。



 商業ギルドの受付で、いつものように三人並んだ受付嬢にあいさつして、用件を伝えた。


「一カ月ほど先になる話なんですが、二十名ほど受け入れる寮を作る予定なので、その寮母さんをこちらで紹介していただけないかと思いまして」


うけたまわりました。二階の応接室の方でお待ちください」


 真ん中のお姉さんに連れられ、二階の応接室に入りソファーに座っていたら、ギルド長のリストさんの秘書のポーラさんが部屋に入ってきた。お互いのあいさつの後、


「お話はうかがいました。二十名相手となると二名は必要となると思います。一名はちょうど良い人材に心当たりがあります。もう一人についても数日あれば紹介できると思いますので問題はないかと思います」


「よろしくお願いします。その心当たりのある一名というのは?」


「その方は、ショウタさまもご存じの、コーネリア・ヒギンスさんです」


 キルンで食事を作ってくれながらシャーリーに料理を教えてくれていたヒギンスさんには最近会っていなかった。


「ヒギンスさんなら願ってもないですが、息子さんの店の手伝いはいいんですか?」


「息子さんのお店が順調で、雇人やといにんの数も増えたらしく、暇にしているそうで、こちらに仕事の斡旋あっせんを頼んでこられたんです。住み込みでもよいとうかがっていますので問題ないでしょう。場所は例の露天掘りの鉱山跡ですよね」


 ここいらの人たちの耳はどうなってるんだ? 何でも知ってるみたいじゃないか?


「何でもは知りません。知っていることだけです」


 あれ? 最近あまり聞かなくなったと思ったらこんなところで聞いてしまった。


「ヒギンズさんさえ、了承していただけるのならこちらは何もありません。それでは、あと一人のかたもよろしくお願いします」


「もう一人の方の面接はどういたしますか?」


「連絡をいただければ、こちらに伺いますからそれでお願いします」


うけたまわりました」


 よーし。これで、ほとんどの案件が軌道きどうに乗った。あとはペラだけだ。




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