第227話 ペラ3、教育問題


 フォレスタルさんを訪ねて、冒険者学校の建屋の要件を伝えたので、とりあえずのハード面は問題ないだろう。


 次は、住み込みのまかないの人を商業ギルドに行って斡旋あっせんしてもらえばいいな。


 武器は買ってもいいし、アスカに作ってもらってもいいが、アスカに作ってもらうととんでもない高性能武器が出来てしまうので少し考えた方がいいかもしれない。防具の方は、防具屋さんから仕入れてくればいいだろうが、大きさなどがあるからこれも最初の生徒が来てからだな。


 あとは、教官候補のペラか。そこのところをアスカに確認しないとな。




「アスカ、ペラは冒険者学校の教官としてはどうだろう?」


「戦闘技術については全く問題ないと思いますが、一般常識的知識がうまく取り込まれていないようで、生徒の質問に答えられないかもしれません」


「うまく取り込まれていないというと?」


「ペラには、知識だけは直接詰め込みましたが、どうもデータの整理が追いついていないようです。実地で教育を施すことで、記憶の整理をうながしましょう。そうすれば、常識的なことにも素早く対応できるようになるでしょうし、会話もスムーズになると思います」


「それは結構なことだと思うけど、具体的には?」


「ラッティーと一緒に学ばせます」


大丈夫だいじょうぶなのか? 主にラッティーの方だけど」


「付属校入試問題集を見る限り、ラッティーの実力ならは今入試があっても、四つある付属校のうち、体力測定のある騎士養成部の付属校以外でしたら入学できる実力があると思います。

 ですので、勉強の復習の意味もかねて、ラッティーにペラの教育の面倒を見させましょう」


「それはまた、極端な感じもするが、アスカがいいと言うんだったら、それもいいのかもしれないな。二人の勉強風景を見てみたいけれど、邪魔になりそうだからそれは遠慮しておこう」


「明日の午前の勉強から、さっそく始めましょう」


「ラッティーに無茶むちゃはさせないようにな」


心得こころえています」




 翌日、朝食時。


 アスカが、向かいで食べているラッティーに、


「ラッティー、今日からお前が教師だ。ペラに常識を教えてやってくれ」


「え?」


「ペラはいろいろ事情があって、知識だけはあるがそれが整理されていない状態なんだ。ラッティーが勉強するかたわら、ペラが分からないところを聞いて来るからそれに答えてやってくれ。それくらいならラッティーの復習にもなるから問題ないだろう?」


「わかりました。できるだけ頑張ってみます」


 もはや子どもとは思えない受け答えだな。




 その日から、ラッティーによるペラへの教育が始まった。


 とりあえず、アスカもついての勉強だから何も問題ないと思うが、詳細不明のまま時間が過ぎて行った。




 そして、昼食時。


「それで、ペラとラッティーの勉強はどうだった?」


「まあ、あんなものでしょう。ラッティー、なかなか良かったぞ。ペラの質問に正確に答えられていた。ちゃんと理解していなければ他人に教えることはできないが大したものだ」


 ほう、アスカが手放てばなしでほめるとなると、相当なものなのかもしれない。というか、ラッティーは秀才なんだろうな。


「ペラさんの質問が、ハッとするような事柄ばかりなので、新鮮でした」


 まさに優等生の返事だな。俺からするとちょっと優等生過ぎる受け答えとは思うが、将来、自分の国を背負って立つことが決まっているラッティーなら、この程度の受け答えは軽くこなさないといけないのだろう。ラッティーのことだから将来に備えて今から訓練しているのかも知れないな。


「それでアスカ、いまペラは?」


「いまは、自習しています」


「食事する必要はないといえ、なんだか可哀そうだな」


「マスターも、次にペラに会った時はびっくりすると思います」


「それは、どういう意味だ?」


「もう、受け答えにきゅうして『ありがとうございます』は言わなくなりました」


「それも、進歩ではあるが、そこまで驚くことか?」


「それでは、お楽しみと言うことで。カリキュラム的には明日いっぱいで面も含めたペラの再教育は終了しますので、あすの朝にでも途中段階ですが進捗しんちょくをマスターの目で確認してください」


「そこまで、アスカが言うのか。ちょっと怖いな」




 そして、翌日の朝。


 朝食前のみんなでのランニング。みんなが集まるのを待っていたら、アスカがペラを連れて玄関の前の集合場所にやってきた。


「マスター、おはようございます」


「アスカおはよう」


「マスター、おはようございます。今日もよろしくお願いします」


「ペラもおはよう。ちゃんとあいさつできるじゃないか。どうだ? 丸一日、勉強を頑張ったそうだが」


「はい、大層たいそうおいしゅうございました」


「? いや、勉強はおいしくはないだろう?」


「これは、失礼いたしました。『少年老いやす学成がくなりがたし』でございました」


「そ、そうか。ペラはずいぶん頑張ったようだが、アスカ、ちょっと方向性が違わないか?」


「今はまだ新しい情報に接して混乱こんらん冷めやらぬといった状況なので、これから落ち着いていくはずです。そうだな、ペラ」


「はい、アスカさん。『一寸いっすん光陰こういん軽んずからず』です」


 そうとうアスカから現代日本の国語教育?を受けたようだが、日本の常識よりアデレード王国の常識を教えた方が役立つと思うのは俺だけか?


 俺たちがそんな珍問答ちんもんどうり広げていたら、朝のランニングに参加する連中が集まったので、いつものように準備運動を始めた。


「ペラ、みんなに合わせて体操するんだ。体操は分かるだろ?」


「はい。体を操ると書いて『体操』と読む。その心は、たいそう疲れる」


 ラッティーがハッとしただけのことはある。


「アスカ、ちょっとペラのことが心配なんだが」


「マスター、すごいと思いませんか? たった一日で冗談も言えるようになったとは。私もここまで進歩していたとは思ってもいませんでした。意外です」


「アスカが意外だったというと、俺から見るとそら恐ろしいんだけど」


「大丈夫です。任せてください」


 頼むよ、アスカ教官。



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