第226話 お茶会、建屋注文


「そういえば、ショウタさんは若い冒険者たちのために学校を開かれるというお話を聞いていますが」


「はい。私がえらそうに言うのも生意気なまいきな話なんですが、冒険者の実力がどうも低い気がしていまして、逆に言えば伸びしろもあるわけで、若いうちに学校を通じて実力を底上げできれば、危険を押さえて収入も増えるでしょうし、素材などを持ち帰る量が少しでも増えれば、その分経済も回るでしょうから」


「ショウタ殿は、本当にいろいろなことを考えておられるんですね。私がもしバルコードに戻ることがあれば、ご一緒していただきたいところです」


「だめですよ。ショウタさんはアデレード王国の貴族なんですから。ショウタさんも、アリシア殿下について行ってはいけませんからね」


「リリアナ殿下、そんなにむきにならなくても、冗談じょうだんですから安心してください」


「アリシア殿下も、いえ、アリシアさんもこれからはそういった冗談はやめてくださいね」


「ほーう、リリアナさんは、よほどショウタ殿がお気に入りのようですね」


「それはそうです。命の恩人ですもの」


「そういえばそうでしたね。そうでした。フフフ」


「お分かりいただけたでしょう?」


「よーく分かりました。そういうことにしておきましょう」


 アリシア殿下の訳知わけしり顔のしたり顔を見て、


「???」


 リリアナ殿下が首をかしげている。俺も一緒だ。


 俺をよそに二人で盛り上がってしまったが何の話をしていたのかすっかり忘れてしまった。そうだ、冒険者学校だった。


 アスカはさきほど言いたいことを言って満足したのか、また口をもぐもぐ動かしていた。自分の皿のクッキーをあらかた食べてしまったので、リリアナ殿下の後ろに控えている侍女の人にアピールするようにそっちに視線を向けている。侍女の人も心得こころえたもので、ちゃんともう一皿、アスカ用のクッキーがワゴンの下に用意してあったようで、それとアスカの前の空の皿を交換してくれた。無表情でもうれしそうな顔ができるのがアスカの特技だな。


「お話が横にそれましたが、その冒険者学校には何名くらいの方が入学されるのですか?」


「冒険者は通常、パーティーと言って四人から六人でグループを作って活動します。ですから最初は四人パーティーを三つ、十二名くらいからスタートできればと考えています。期間は三カ月を見込んでますので、その間、設備なども大きくしていき、次からの受け入れ人数も徐々に増やそうと思っています」


「もしかして、その学校ができたら、私も入学できるでしょうか?」


「いえいえ、リリアナ殿下には大切なお勉強がありますから、それは無理と思います」


「残念です。

 またお話が変わりますけれど、ショウタさんとアスカさんで船を造られたとうかがいましたが」


「殿下、よくご存じですね。つい先日完成しまして、試運転も済ませたところです」


「今度、私も乗せてください。まだ一度も船に乗ったことがないのでぜひ」


「国王陛下のお許しがあればいつでも構いませんよ」


「それなら、私もご一緒させていただけません?」と、アリシア殿下。


「もちろん、構いません。ただ、あまり大きな船ではありませんから、お二人のお付きの方々も含めて十名ほどでお願いします」


「わかりました。あとで父上にお願いしてみます」


「私は、リーシュ宰相閣下に言伝ことづてるだけで済みますから大丈夫です」


「準備もありますので、数日前にでもお知らせください」


「わかりました。楽しみです」「私も」


 ……


 両殿下を『シャーリン』に乗せる約束をしたあとたわいもない話をしばらくして、その日のお茶会はお開きとなった。




 お茶会の後、まだ時間があったので、サージェントさんにフォレスタルさんの事務所にまわってもらった。


 事務所への道すがら、馬車の窓から外を眺めると、最近スカートの丈を短くしている若い女性をよく見かけるようになったことに気が付いた。季節のせいかなと思ったのだが、


「最近、スカートの丈が短い女の人が増えてきたような気がするんだが、アスカはどう思う?」


「いわゆるミニスカートが増えてきているようです。何でも王宮にファッションリーダーがいるらしく、その人物をまねた王宮の若い女性たちが私服で試したのが市中でもはやり始めた原因だそうです。先日、ペラに着せた下着も元は、王宮発ということでしたが、おそらくそのファッションリーダーが身に着けていたものをまねたものではないでしょうか」


「心当たりがあるだけに、その話からは、悪い予感しかしないな」


 そんな話を馬車の中でしていたら、フォレスタルさんの事務所に馬車が到着した。



 すぐに、応接兼会議室に通され、今回の用件をフォレスタルさんに切り出した。


「こういった感じの建屋たてやを作っていただきたいんですが、……」


「建屋の要件はうけたまわりました。あの飯場はんばの建屋は私のところで施工せこうしたものですので、測量図面も設計図もありますから、すぐに設計は始められます。

 とりあえず、きょう中に図面を引いて、あす確認のため現地に参ります。

 現地を確認して細かい修正を図面に加えていくと思いますから、明後日図面を持ってお屋敷の方に参ります。

 そうですね、特に大きな問題はないでしょうから、おそらく工事期間は長くても1カ月といったところでしょうか」


「そういえば、ああいった場所での水回りはどういった感じになるんでしょうか?」


「あそこには今現在井戸が一本掘ってあるんですが、鉄分を多く含んだ赤水あかみずが湧き出していますので、大型の浄水器を設置しています。

 錬金術で使う純水製造装置は高純度の純水を作るので魔石の消耗しょうもうが激しいわけですが、赤水用の浄水器ですとそこまで魔石を消耗しません。

 そうですね、今出回っている大型の浄水器は性能が上がっていますから、レベル2の魔石一つ分の魔力で六人家族の家庭で炊事・洗濯をしっかりして三カ月は使えるんじゃないでしょうか。

 二十人分ですと、約一カ月はもつというところでしょうか。下水の方は専用の浄水施設を設けます。今回の場合は、今後の拡張を視野に入れてすでにあるものを拡張して強化する形になります。

 今後使用者の数が100名を上回るようでしたら、別途の浄水設備からの排水設備が必要となりますので、そこはお含みおきください」


「了解しました。今回も立派な物ができそうですね。よろしくお願いします」


「お任せください」



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