第225話 お茶会2


 翌日、シャーリーがサージェントさんの馬車に乗って学校に行ったのと前後して王宮から使いの人がやって来た。


 リリアナ殿下は今日の午後都合がいいということだったので、アスカと二人、午後からお邪魔じゃますると使いの人に伝言を頼んだ。



 昼食後、アスカと二人、サージェントさんの馬車に乗り、王宮に向かった。正月明けのダンスパーティー以来の王宮なので、久しぶりではあるが、べつに王宮で仕事しているわけではないのでこれでも一般の貴族の中では王宮に訪れる回数はかなり多い方なのではないだろうか。


 車寄くるまよせからすぐの出入り口から王宮に入ると、リリアナ殿下の侍女の人が待っていてくれたので、あいさつして、すぐに殿下の部屋に向かった。



「殿下、お待ちのお二人がお見えです」


「お邪魔します」「失礼します」


 こういうあいさつでいいのかどうか分からないが、その程度のことをとやかくいう人はいないので、適当だ。


「ショウタさん、アスカさん、お待ちしてました。今日はお二人のほかに素敵すてきなお客さまをお呼びしていますので、ご一緒してくださいね」


 立って出迎えてくれたリリアナ殿下の隣に、見知った顔があった。パルゴール帝国からの脱出のお手伝いをした、アリシア殿下だった。


 あの時のアリシア殿下は、短髪でスラックス姿だったが今は長めの水色のスカートに、白いブラウス。華美かびさを抑えた出で立ちいでたちが、かえって親しみの持てる容姿を際立たせている。髪は伸ばし始めているようだ。


「これは、アリシア殿下。お元気のようで何よりです」


「ショウタ殿、アスカ殿、その節はいろいろありがとうございました」


「いえ、仕事でしたし、アスカと二人でしたので、行き帰りに時間がかかった程度のことでしたから」


「ショウタさんもアスカさんも本当にすごい方たちなんですけど、いつも謙遜けんそんばかりしてますからね。それではお庭に出て、そこでお話しましょう」


 リリアナ殿下に誘われるまま、みんなで部屋を出て、中庭にしつらえられたいつものテーブルの席についた。


 すぐに侍女の人がやって来て、お茶の用意をしてくれる。侍女の人も心得たもので、クッキーのようなお茶菓子は、アスカの前に一皿、残りの人たち用に別に一皿置かれるようになっている。今回のお茶菓子もクッキーだったようで、アスカの前にまず一皿置かれ、テーブルの真ん中にもう一皿置かれた。


 二皿目が置かれた時には、すでにアスカは自分のクッキーを口に運んで食べ始めている。アスカにとって注意を払わなければいけない問題がなく、安心してよいということなのだろう。


「そういえば、大おじさまから聞いたんですが、先日新しくダンジョンを見つけられたとか?」


「はい。一応冒険者ギルドの依頼で、鉱山の調査に行ったところ偶然見つけたものです」


「当然そのダンジョンの中に入ったんですよね?」


「はい。入りました」


「モンスターとも戦われた?」


「はい。そのダンジョンにはゴーレムしかいないようで、最初は鉄鉱石からできたゴーレム、あとは、鉄のゴーレムやはがねのゴーレムなんかと戦いました」


「ゴーレム? お話の中でだけ聞いたことがありましたが、本当にいたんですね」


「それならご覧になったこともないでしょうから、ご覧に入れましょうか?」


「え、ここにゴーレムを連れてくるんですか?」


「いえ、先日たおしたゴーレムはまだ私が収納したまま持っていますので」


「そういえばショウタさんの収納もすごいんでしたよね。ぜひそのゴーレムをお見せください」


「分かりました。それでは、そのあたりにスチールゴーレムを一体出します」


 魔石を抜いたゴーレムはどれも傷んでいないので適当に選んだスチールゴーレムを一体、庭の玉石の砂利の上に出してみた。


「うわー、これがゴーレム」


「本当にこんなものが動き回っているんですね」


「こんなに大きくて硬そうなモンスターを前にして怖くはないんですか? でも、ショウタさんもアスカさんもAランクの冒険者なんだから、怖くはないか」


「特に怖くなどありませんが、アスカがいなかったら怖く感じたかも知れません」


「こんなことを聞いては失礼ですけれど、ショウタさんとアスカさんはどちらがお強いんですか?」


「それは、私も興味があります」


 二人の殿下に言われてしまった。


「もちろん、マスターであるコダマ子爵です」


 いままで、だまってクッキーを食べていたアスカが急にかたり始めた。


「マスターにかかれば、エンシャントドラゴンも含めてあらゆるモンスターが瞬殺しゅんさつされます」


 モンスター限定で俺はおそらく最強なんだろう。アスカは無敵だが、視界にとらえるだけで済む俺と違って、ある程度は近づかないと戦えないからな。


「やはりそうだったんですね」


「エンシャントドラゴンの噂が帝国にも聞こえていましたが、やはりショウタ殿がたおしていたんですね。納得しました」


 エンシャントドラゴンの血のことはこれまで適当にはぐらかしていたんだが、とうとう言っちゃったよ。そのわりに誰も驚かないというか、予期していたというか。ここは正直に話に乗るしかないな。


「いろいろありまして、モンスターには簡単に勝つことができるもので」


「マスターはそう言っていますが、私も一度マスターに手も足も出ず破れていますから」


「ということは、ショウタ殿はアデレード王国最強ということですか?」


「そうですね、大陸一、二と言われるギリガン王国騎士団総長がアスカさんには決して勝てないと言っていたそうですから、ショウタさんは大陸最強ということでしょう」


 そこまで言われれば、悪い気はしないが、俺なんかがアスカの足下あしもとに及ぶわけはないのは百も承知している。妙にアスカが俺を持ち上げるのは、なにかの作戦なのか?


「強いということは分かりますが、強いうえに大陸最高の錬金術師だとうかがっていますが」


「そうなんです。ショウタさんの作ったエリクシールで私もこうやって元気になることができました」


「その噂も帝国に伝わってきましたが、本気にするものはいませんでした。リリアナ姫とお会いしてお話を聞いて私も感動いたしました」


 これって、褒め殺しほめごろし? みんなで俺をヨイショするんだけど。


「まあ、それもこれもアスカあってのことですから」


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