第223話 ペラ2


 冒険者ギルドを後にして、アスカに連れられペラの衣服を買いに女物おんなもの衣料品いりょうひん店に寄ることにした。


 俺がそんな店に入っても気まずいだけなのでいつものように店の前で待機していようと思っていたのだが、先日シャーリーの余所よそ行き姿を見せてもらった時に装飾品そうしょくひんでも買ってやれば似合いそうだと思ったことを思い出したので、二人にくっ付いて俺も店の中に入って行った。


 結論から言って、俺は何も買わずにすぐに店を出てしまった。店に入ったとたん、アスカとペラが同時に俺に向かって、


「マスター、何か?」「マスター!」


 大きな声で、呼びかけるものだから、その店の中にいた女性客全員の注目を集めてしまったからだ。


 コミュしょうでも女性恐怖症でも何でもないのだが女性客たちの俺を見る目に妙に気後きおくれしてしまった。そんなことをしているとそのうち本当に女性恐怖症になるかもしれない。それはイヤだ。ということでそうそうに退散たいさんしてしまった。


 しばらく店の出入り口の前で二人の出てくるのを待っていたら、買い物の終わった女性客が店から出てくる。その連中が一々俺の顔を値踏ねぶみするようにのぞいていく。


 非常に気まずい思いをしていると、店で買った服に着替えたペラとペラの着ていた『大魔導士のローブ』を持ったアスカがやっと出て来た。ペラは『灼熱のブーツ』を履いたままだった。そこらの靴ではわれわれの走行には耐えられないのでそこは仕方のないことだろう。


 そういうことで、ペラの服装は、『灼熱のブーツ』を起点として赤いひざ下まであるゆったりしたスカートに白いブラウス。その上に長めの黒いジャケットというものだった。『灼熱のブーツ』が少し浮いた感じがしないでもないが、トータルとしてならそこそこだろう。


「マスター、いかがです?」


「なかなかいいんじゃないか」


「マスター、ありがとうございます」


「おっ! ちゃんと、ペラはありがとうが言えるんだ。感心だな」


「マスター、ありがとうございます」


「マスター、『ありがとうございます』とだけ言っていれば大抵の局面が乗り切れますから、分からないときは『ありがとうございます』と返すよう設定しています」


「そうなのね」


 ペラもアスカほど高性能なのかと期待した俺が悪かった。


「それじゃあ、屋敷に帰ってペラをみんなに紹介しよう。ところで、ペラは食事はできるのかな?」


「おそらく、食事はできないと思います。

 ペラ、おまえは食事できるのか?」


「いいえ、できません。食事は不要です」


「そうか、それはちょっとかわいそうだけど仕方がないな。それじゃあ、食事が終わってからみんなに紹介しよう」


「了解しました」






 時刻的には、夕食の時間まであと1時間といったところで、屋敷に戻ることができた。ペラのみんなへの紹介は夕食後を考えているので、ペラはアスカの部屋に連れて行ってもらった。


 俺は、先に風呂に入って汗を流して着替えてくつろいでいたところで、夕食に呼ばれたので食堂におもむいた。



「おーい、みんな、食事を始める前に聞いてくれ。

 夕食が終わったらみんなに新しい仲間を紹介するから、連れてくるまでここで待っててくれ。それじゃあ、『いただきます』」


「いただきます!」


 今日もおいしくゴーメイさんの作った食事をいただきながら、


「新しい仲間って、夕食はいいんですか?」


「鉱山どうでしたか?」


「さっきちょっとだけアスカさんがきれいな女の人を連れているのを見たわ」


「わたしも見たかったー」



「食事が終わったらみんなに紹介するからそれまでは我慢がまんしてくれ。それと、鉱山の方は、うまくいった」


「おめでとうございます。また、モンスターが出たんですか?」


「出たぞー、それもすごいのがな。シャーリー、実はな、……」


 また、アスカのバカ話が始まった。シャーリーは学校に通っているんだから、すぐに学校に広まってしまうだろうからやめなさい。


「……、という訳だ。さすがはマスターだと、シャーリーも思うだろ?」


「幻獣、『モーメ・チャメチャ』。さすがは、ショウタさんとアスカさんです。二人には話していませんでしたが、いま、私の学校には、アスカさんのファンクラブができているんです。私はそこの名誉会長にされてしまったんですが、あしたは、これでみんなにアスカさんとショウタさんの活躍かつやく自慢できます」


 いま聞き捨てならぬことを聞いたような気がするぞ。なに? アスカのファンクラブとな? 俺のはないのか? 俺のは。そして、今回のバカ話も明後日あさってには王都中に広まってしまうんじゃないか?


 静かに食事をしていると思っていたラッティーを見ると、食事の手をとめて、アスカをキラキラした目で見ていた。ラッティーも付属校のアスカファンクラブの予備軍だ。べつに、俺のファンクラブを作ってくれとは言わないが、もう少し配慮はいりょ? 釣り合い? そんなものを考慮できる人間にならないと、君たちは大人になってから苦労するぞ。


 大人になるときっと忖度そんたく大事だよ。


 そういったことを話しているうちに、ほとんどの者が食事を終えたらしい。アスカに目配せしたところ、


「ペラを呼んできます」


 そういって、アスカは自室で待つペラを迎えに行った。



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