第213話 鉱山

[まえがき]

ここからは、鉱山編になります。

◇◇◇◇◇◇◇




「ショウタさま、冒険者ギルドのスミスさまがいらっしゃいました。小応接室にお通ししています」 


 アスカと居間でくつろいでいたら、ハウゼンさんに来客があったむね告げられた。


 冒険者ギルドの職員のスミスさんがわざわざうちに来たということは、なにか王都の冒険者の中だけでは手に負えないようなことがあったのだろうな。


 アスカとそろって小応接室に入り、軽くお互いあいさつをしてソファーに腰をおろした。


「突然、お邪魔じゃまして申し訳ありません」


「気にしないで結構ですよ。それで、今日のご用件は?」


「はい。今回も、お二人のお力をお借りしたい案件が発生しまして、こうしておうかがいしました」


「その案件とやらを、おっしゃってみてください」


「王都の南にあるアルト山地の中腹に、かなり昔に廃山はいざんとなった鉄鉱石の露天掘りろてんぼり跡地があるんですが、近年開発された土魔法の術式じゅつしきで調査した結果、その露天掘り跡地の地中、斜め下部に良質かつ巨大な鉄鉱石の鉱体こうたいが見つかったようです。

 そこで、採掘の前段階として、露天掘り跡から調査坑道こうどうを伸ばして鉱体に向かったのですが、途中で空洞に当たりました。その空洞を現地の作業員が調査したところ、調査中にモンスターに襲われたようです。

 作業員たちは命からがら逃げだすことができたそうで、そのあとすぐにモンスターが坑道から出てこないよう、一度調査坑道を封鎖した後、坑口を監視するため見張り小屋を置いたそうです。幸い、いまのところモンスターは外には出てきてはいないという話です。

 モンスターの見た目は、仔牛こうしほどもある巨大なアリだったそうですが、なにせ素人しろうとの証言ですから大げさに報告された可能性はあります。

 その鉱山一帯を所有しています、王国鉱山・冶金やきん省から、うちの王都冒険者ギルドに調査依頼が出されたのが二週間前です。ギルドでは、すぐにBランクの冒険者パーティーを調査に派遣したのですが、未だ連絡が取れていません。

 坑口を見張っていました者も冒険者パーティーが坑道の中に入るところは確認したようですが、出てきたところは確認していません。そういった状況ですので、ギルマスのギリガンさんの判断でこの案件は最高、最強のAランク冒険者のショタアスのお二人にお願いしようということになり、こうしておうかがいしました」


 ほほう、俺たちが、最高、最強のAランク冒険者とな。おだてのツボをスミスさんは心得こころえているようだ。


「ええと、依頼内容は、連絡の取れない冒険者パーティーの安否あんぴの確認とその空洞の調査でしょうか?」


「冒険者パーティーの安否の方はできればで構いません。今回は空洞の調査と、モンスターの排除はいじょをお願いします」


「アスカ、どうだ?」


「特に問題はないかと思いますが、

 スミスさん、その坑道ですが、通気の方は大丈夫なのでしょうか?」


「申し訳ありません。調査坑道そのものの通気は問題なかったと思いますが、その先の空洞の方は確認されていません。一応、現地の作業員が調査しようとしたところを見ますと、通気は問題ないとは思います」


「分かりました。

 マスター、特に問題ないかと思います。出てきたモンスターがどの程度の物かはわかりませんが、どのみちモンスターなどどれも同じですから。また、マスターが坑道内の毒ガスや低酸素ていさんその大気を呼吸し意識不明となっても、エリクシールがある限り回復できますので問題ないでしょう」


 意識不明くらいエリクシールがあれば大したことないのかもしれないが、毒ガスなんぞ吸いたくはないぞ。とはいえ、


「そのご依頼をお引き受けいたしましょう」


「ありがとうございます。報酬額ほうしゅうがくは未定ですが、国からの依頼案件ですので期待していただいて大丈夫だと思います。これが、その露天掘り跡の位置と、調査坑道の坑口の位置です」


 簡単な地図をスミスさんに渡された。ちょっと目には、王都からそんなに離れていないようで、アスカと二人一時間ちょっと駆ければ到着しそうな感じだ。


「それでは、よろしくお願いします」


 そう言い残して、スミスさんが帰って行った。


「それじゃあ、俺たちも準備を始めよう。新たに必要なものは、坑道内を照らすカンテラのような物だな。後何かあるか?」


「水、食料は従来通りマスターの収納に大量にあるでしょうから、魔石で光るカンテラを予備も含めて数個買っておけばそれで十分ではないでしょうか」


「そうだな、調査坑道の先の空洞がどれほど広いのか分からないから見当もつかないが、モンスターがいたとするとそれなりに広いんだろうな。慢心まんしんはまずいが、アスカがいる以上大したことにはならないだろうから、いつもの魔道具屋に行ってカンテラと何か面白そうなものでもあれば買って、明日にでもその空洞調査に行ってみよう」


「はい。マスター」



 そのあと、二人で例の魔道具屋を訪れた。最近ご無沙汰ぶさただったので、魔石で光るカンテラを数個購入したあと、店内を見て回ったところ、真っ赤なマントに銀のラメが思いっきり入ったマントを見つけてしまった。そのマントを手に取って、アスカを見ると、黙って顔を横に振って俺の手にしたマントを掛けてあったハンガーに戻されてしまった。何も言っていないのにな。



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