第208話 アスカ造船5、内装


 アスカも暗くなる前には作業を終え屋敷に戻って、夕食前に俺と同じように風呂に入ったようだ。


 夕食時、


「マスター、配線、配管などは終わりましたから、後はブリッジとキャビンの内装ないそうでほぼ完了します」


「もうそこまでできちゃったんだ。まさに、アスカ造船だな」


 気のせいか、アスカの鼻の孔が少し広がったか? さすがにそれはないか。


「アスカさん、向こうの新しい建物で作っていた船が完成したんですか?」


「あと、もうすこしだ。板材を使って内装をしていくだけだからな」


「シャーリー、もう少しだ。明日にでも完成する。次のシャーリーの休みの日にはみんなで海に行けるぞ。そこで、試運転だ。ラッティーもその日は勉強しなくてもいいからな」


「アスカさんも、ショウタさんも錬金術師じゃなかったの? 錬金術で船が作れるの?」


 ラッティーの素朴そぼくな疑問である。


「ラッティー、そういった錬金術がもしかしたらあるかもしれないが、実は、アスカと俺は、厳密げんみつには錬金術師ってわけじゃないんだ。いまは、アスカと二人で材料を加工して船を作ってるんだ。冒険者だってやってるだろ? まあ、たいていのことはアスカがすごいからできてるだけだけどな。言ってしまえば、何でも屋だな」


「ふーん。でも、二人はエリクシールが作れる大錬金術師なんだよね?」


「錬金術にしても、お金を稼ぐため錬金術を始めたら、ひょんなことから、エリクシールの素材が手に入った上に、その作り方が偶然ぐうぜん俺とアスカに合った作り方だっただけだ」


「そんな偶然なんかで、エリクシールができるものなの?」


「ラッティー。私とマスターがこうして一緒にいるのも相当な偶然だし、ラッティーがこの屋敷でこうやって食事をしているのもいろいろなことが偶然重なった結果だ。だがな、ただ偶然をあてにしていては、良い結果となる偶然はやってこない。漫然まんぜんと偶然をあてにしていたら、せいぜい、鳥のフンが頭の上から降ってくるくらいだ。良い偶然を手繰たぐり寄せるためには努力が必要なんだ」


「でも、わたしは何も努力なんかしてなかったけど」


「いや、ラッティーは立派とは言えないかもしれないが一人でちゃんと生きていただろ。それも努力の一つだったわけだ」


 なんだか、アスカが説教を始めて無理やりいい話に持っていった。いつかのような妙な幻獣げんじゅううんぬんといった作り話でないだけましか。


「ふーん。そうだったんだ。じゃあ、今は、むかし以上に頑張ってるから、もっといいことが起こるのかな?」


「もうラッティーにはいいことが起こっただろ?」


「そうだった。アハハハ。ショウタさんとアスカさんありがとう」


「だから、それはラッティーが努力した結果なんだからな。まあ、話しは戻るけど、明後日あさってには、今造っている船をみんなにお披露目ひろめできるだろうから楽しみにしててくれ。なあ、アスカ」


「大丈夫です。明日中には必ず仕上げます」


 あれ? ちょっと、アスカにプレッシャーをかけてしまったかな。アスカが気にするわけはないな、できなければできないというだろうし、できるからできるといったんだろう。まさに俺とアスカは信頼のきずなで結ばれてるな。



 みんなに期待を持たせつつ、翌日。


 午前中のアスカはよほどのことがない限りラッティーの家庭教師をしている。


 そのあいだ、俺自身は、船の中のようすを確認していた。ちゃんと、ブリッジには舵輪だりんもついていたし、そのわきに大きいレバーが二つ小さいレバーが二つずつ色違いで付いた魔導加速器のコントロールボックスが置いてあった。舵輪を挟んでその反対側には、羅針盤らしんばんをセットする円柱形をした台が作られていたので、港の船具屋せんぐやから買った羅針盤をその上に置いたら、ピッタリくぼみにはまった。




 昼食を終えた後しばらく休憩して、アスカと二人、われらの造船所にやってきたところだ。


「それでは、マスター、船舶用木材をお願いします」


 いまのところ一番広い第二甲板のいたところに船舶用木材を出してやった。その木材をアスカは素早く細長い板に加工して、むき出しの外板がいはんの手前に張り付けていき、すぐに第二甲板での作業は終わった。その後は、上甲板じょうかんぱん、その上のブリッジといった具合に板の張り付けが進んで行き、間もなく終了した。


 船底部には、水が溜まるので内張りの板は張らないそうだ。また、船底の竜骨部分には孔を貫通させて、船底にたまる汚水ビルジがポンプにつながるパイプぐちまで流れるようにしている。


 また、船の重心を下げて復元性ふくげんせいを高めるためのバラストタンクとして、大き目の四角い箱が砂虫の皮で作られた。海に出た時に、このタンクに海水を満杯になるよう入れることになる。そして、二列ののぞき窓の各々の外側には向かい合って座ることができるよう長椅子もながいす作られた。


 船底部の細かい作業の次は、第二甲板の内装。


 第二甲板には、寝室、台所、トイレ、シャワールーム、物いれなど仕切り壁を作り、寝室には狭めの三段ベッドを壁沿いに四つ、計十二人分作った。台所、トイレ、シャワールームには、それぞれ、キッチンセットに食器棚、船舶用のトイレ、シャワーセットを取り付け配管する。


 アスカの作った食器棚の中には、一緒に作った木製の皿やボウル、ナイフやフォークが収められている。また、要所要所ようしょようしょには、魔道具の照明を取り付けていく。


 上甲板のキャビンはワンルームの居間兼食堂になる。ここでも、必要な家具はアスカがあっという間に作ってしまった。


「マスター、こんなところでしょうか。明日お披露目ひろめする前に、狭めのベッド用寝具と居間用にクッション、タオルといったものを買いそろえておきましょう。まだ、夕食には時間がありますから、急いで行けば、今日きょう中にそろえることができます」


「よし、それじゃあ急いでいくか」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る