第197話 アトレアへ


 ブレゾの隣の都市国家アトレアに飛んで、病気をわずらっているその国の王さまをポーションで救おうということになった。十中八九、その王さまはラッティーの父親なのだろう。


 違っていれば単なる人助けに終わってしまうが、ラッティーの背中に刻まれているというもんのこともあるから間違いないはずだ。



 ブレゾの外壁から少し離れた今回の着陸地点にアスカと二人で駆け戻り、すぐに収納から排出した『スカイ・レイ』に乗り込んで、アトレアに向かった。


 西に向けてアトレアに飛ぶこと10分ほどで前方にアトレアの街並みが小さく見えてきた。それから15分ほどで、アトレアの街の手前5キロほどの草むらに『スカイ・レイ』を下ろした。


 すぐに『スカイ・レイ』から出て収納し、上空から確認済みのアトレアの街に入る門をアスカと目指す。



 たどり着いた先のアトレアの門もブレゾと同じで、衛兵のような人が数人門の両側に立っていたが、素通すどおりできた。


 街の中に入り、通りを歩きながら、


「直接、王さまのところへ行けばいいのかな?」


「王宮に相当するやかたがこの通りの先にあるようですから行ってみましょう。マスターと私ですから何とでもなります」


 いつも通り力強いアスカの言葉だが、物騒ぶっそうな話はなしだからな。


 通りを行きかう人の顔つきを失礼のない程度に軽く見ると、ブレゾと同じハーフ・エルフの人たちだ。同一種族の隣国同士は仲が悪いと聞くが果たしてどうなのだろうか?


 アトレアの王さまは自分の娘が行方不明になっているわけだから必死に探したと思うが、ほんの100キロ先のブレゾにいたのが分からなかったのだろうか? 妙な話ではある。


「ここアトレアやブレゾ以外にハーフ・エルフの子どもがいてはかなり目立ちますからすぐに保護されるでしょう。

 ここからは、私の推測ですが、何らかの事情で、ラッティーをやかたから連れ出した人物がいて、その人物は、ラッティーのためにアトレアから隠れてブレゾに住んでいたのではないでしょうか。理由は館に留まっていては害される恐れがあったとか。その人物が何らかの理由で亡くなった後、ラッティーが孤児こじとなりあのような生活を送っていたのではないかと思います」


「まさに、2時間ドラマだな。可能性はなくはないが、それが真実だとしても今さらどうしようもないな。いやそうでもないか。もしそうなら、『やかたに留まっていてはがいされる恐れ』の原因がまだ残っているようなら、取り除く必要があるか」


「館で王さまに会うことができた後にその辺は確認していきましょう」


「そうだな」


 ……


「あれだな?」


「そのようですね」


 小国の王さまの居館きょかんだけあってそこまでは大きくない三階建ての四角い館がそれなりに広い敷地の中に建っており、敷地の周りにはへいなどはなく、敷地自体は砂利敷きだった。


 守衛といった人もどこにも立っていなかったので、誰に取り次いでもらえばいいのか分からない。


「困ったな、直接玄関で名乗るほかなさそうだな」


「そうですね」


 車寄せを兼ねた玄関の扉は開け放たれていたので、


「お取り次ぎ願えませんか?」


 王さまに取り次げとはさすがに言えなかったので、誰にというところを飛ばして、大声で館の中に向かって取次ぎを頼んでみたのだが、誰も出てきてくれない。これにはまいった。


 まさに想定外だったのだが、


「人が出てこないようなら、仕方しかたがありません。そのまま中に入ってしまいましょう」


「え? そんなことをして大丈夫だいじょうぶなのか?」


「普通ならば、捕まるでしょうが、マスターと私を捕まえることが可能な者がこの国にいるとは思えません」


 俺を捕まえることはできるかも知れないが、アスカを捕まえることのできるようなヤツがこの世界にいるとは思えないな。ならば、


「それじゃあ、入ってみるか」


 俺も、大概たいがいだな。この程度のことでは、あんまりビビらなくなってきた。


 入り口の先は玄関ホールで、その先は左右に分かれた廊下になっていた。使い込まれた感じの木の縦棒が柵状にはまった守衛室しゅえいしつのような小部屋があったが中には当然誰もいない。


 ここから先に進む前に、もう一度大きな声で、


「すみませーん!」


 と言ってみたところ、右の方の廊下から、誰かがやってくるバタバタした音がしてきた。やってきたのは年配の女性だった。その人は飾り気のない紺色の服の上に白い割烹着かっぽうぎのような上っ張りうわっぱりを着ていた。


やかたでは、大声はひかえていただいておりますので、今後はこのようなことのないようにお願いします。それで、お二方ふたかたはどちらさまでしょうか?」


「申し訳ありませんでした。気を付けます。私は、アデレート王国で子爵をたまっております、コダマと申します」


「同じく、子爵を賜っております、エンダーです」


「アデレート王国? その子爵さまたちが、急に当館にお越しになられて、どういったご用件でしょう?」


 どこか胡散うさん臭いものを見るような目で、値踏なぶみされてしまった。子爵であることの証明するものが何かあればよかったが何もない。


 仕方ない、ラッティーのことをここで出すのはまずい気がするので、いきなりだが、エリクシールでこの難局なんきょく突破とっぱを図ろう。予定通りだけどね。



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