第196話 再びブレゾへ

[まえがき]

ここから、アトレア編となります

◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 商業運航も順調にスタートを切ることができて万々歳ばんばんざいだ。


 王都、キルン間を週二往復。王都側からの出発となるため、王都からキルンへは、日帰りも可能にはなるが、キルンでの三時間ほど着陸したのちの出発となるためかなりせわしい日帰りとなる。イエロー四人娘たちは基本週一勤務なので、かなり余裕のあるシフトとなっている。


 搭乗とうじょう勤務のない残りの六日については、二日間は自由時間としているので、残った四日間は鍛錬のかたわら図書館などで勉強をしているようだ。



 最初のカレーライスから、二度ほどカレーライスを屋敷でみんなに出したところ、スパイスが底をついてしまった。三度はいけると思ったが、一回当たり厨房ちゅうぼうで作るカレーの量が増えたらしい。よく食べることはいいことだ。


 カレーの材料を仕入れるだけならブレゾまで片道6時間ほどなので日帰りも可能なのだが、ラッティーのこともあり、今回もしばらく留守にしてブレゾに飛ぶことを屋敷のみんなに伝えて出発した。




「『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」



 一度行ったことのあるブレゾの街だ。あまり緊張することもなく、副操縦席に座って前方の景色を眺めていたら、眠くなってしまった。まぶたを重く感じ始め気が付くと居眠いねむりをしていたようだ。居眠りしながら見た夢は、


『カレー粉の材料を買うためブレゾに再度訪れたショタアスの二人。材料は簡単にかつ大量に手に入れることが出来たのだが、ラッティーの誕生の秘密を探るべく街の中を探訪するも手掛かりはない。そんな中、暴漢ぼうかんに襲われた俺たちは思わぬ糸口をつかむ……』


 みょうなナレーション付きの夢だったが、ナレーションだけでその先の展開が何もなかった。



 前回来た時のように、町の外壁から5キロほど離れた草地に『スカイ・レイ』を着陸させ、すぐ収納し、ブレゾの北門に急いだ。



 先に、宿屋を取っておこうと前回の宿屋に入っていくと、ちゃんとあの少女がカウンターの後ろに座っていた。


「お嬢さん? 二人部屋を一晩頼めるかい?」


「はーい。二人部屋お二人で一泊、今日の夕食と明日の朝食付きで銀貨2枚でーす。あれ? この前のお客さんだ。今回もご利用ありがとうございまーす」


 ちゃんと、俺たちのことを覚えていてくれたようだ。


「それじゃそれでお願い」


「夕食は6時から10時まで、朝食は6時から8時まででーす。お部屋にご案内しまーす」


 ……


「こちらになりまーす。ごゆっくりー」


 今回お嬢さんに連れていかれた部屋は、3階の角部屋かどべやだった。部屋の中には、前回泊まった二階の部屋と同じ作りでベッドが二つと小さな丸テーブルと椅子が2脚。あとは小さな箪笥たんすが二つ並んで置いてあった。


 一応部屋の中を確認して、


「それじゃあ、先にスパイスを商店街で仕入れてくるか? その後は、その辺をぶらぶらしていたら何か情報が手に入るかもしれないからな」


「了解しました」


 ……


 宿屋を出て、商店街に向かう。


 すでに一度来たことがある場所なので駆けていくことも可能だったが、あまり目立ったことをしても仕方ないので、おとなしく歩いていくことにした。


 前回来た時と同じように、夕食時の買い物客でにぎわっている商店街のなか、アスカが前回スパイスを仕入れた店に案内してくれたので、そのお店で、スパイス購入ミッションは簡単にクリアされた。買った量から言って20回はカレーが作れる量だとアスカが言うので、それだけあれば三カ月はもつだろうから、そのころには王都でもスパイスが手に入るはずなので、その量で納得した。


「それで、これからどうする? やみくもに歩き回っても仕方ないけど、商店街の中を見て回りながら、聞こえてくる噂話うわさばなしなんかをチェックしていくか?」


「そうですね。一回りして、宿屋に帰ればちょうど夕食時でしょうから、まずはそれでいってみましょう」



 そういうことで、夕食の買い物客でにぎわう商店街を、アスカと二人でぶらぶら歩いて回ったのだが、もう何年も前の、それも隣の国のお姫さまの話などそうそう耳にすることなどできるはずもなく、そのまま宿に戻ることになった。




 宿屋に戻り、宿屋の食堂の隅のテーブルでアスカと二人で夕食をとっていたら、隣のテーブルから商人風の四人組の話し声が聞こえてきた。


「アトレアの王さまがもう長くはないらしいといううわさだな」


「そうだな、即位そくいされたのが四、五年前。まだ若い王さまだよな。即位前、一人娘のお姫さまが行方不明ゆくえふめいになってそれから体を悪くされたそうだ」


「そうだったな。お姫さまは当時5歳だったか? かわいそうだよな。王さまが亡くなったら、次の王さまはどうなるんだ? 跡継あとつぎの子は行方不明だったお姫さまだけだったと思うぞ」


「今の王さまの弟が次の王さまになるんじゃないか。それだとまたあの国はもめそうだな」


「あちらに行くのは、少しひかえた方が良いかもな」


「だな」



 商人たちの話では、ラッティーの父親と思われる今の王さまが病気で先が長くないようだ。こうなると話は別だ。一応アスカの意見も聞いておこう。


「アスカ、どうすればいいと思う?」


「私たちにできることは二つ。一つはラッティーをアトレアに連れていき、父親である今の王さまに会わせること。もう一つは、マスターのポーション、おそらくエリクシールでなければならないでしょうが、そのポーションで王さまを助けることでしょうか。先に王さまを助けた後ラッティーを会わせる方が無難ぶなんだとは思います」


「そうか。それなら、王さまを助けてラッティーに会わせるしかないな。しかし、俺たちがそう簡単によその国の王さまに会うことができるかな?」


「それは、Aランクのギルドカードとエリクシールの実物を見せれば簡単だと思います。エリクシールが輝くポーションだということは今ではだれでも知っていることですし、そのエリクシールを作ることのできるのは、坊主頭のAランク冒険者であるマスターただ一人だということもほとんどの人が知っています」


「坊主頭も役に立ったわけだな。いわゆる俺のアイデンティティーになったわけか。アハハハ。よし、明日は、アトレアに行ってみよう。アスカ、アトレアの場所は分かるか?」


「このブレゾから100キロほど西にある都市国家です。私たちなら走っても3時間はかかりませんが、飛空艇で行きましょう」


「そうだな。朝食をここでとったら、早めに出よう」


「わかりました」


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