第188話 お正月1


 屋敷の女子たちと熱い夜を過ごし夜食のおしるこ食べて、そして年が明けた。


 こちらの世界では早寝はやねが基本なので、早起きも基本になる。俺はまだ暗いうちから起き出して、表に出て軽く柔軟をしていた。きょうから三日間は朝のランニングは中止するとみんなに言っているので、他のみんなはまだ寝ているか、朝の支度したくでもしているのだろう。


「マスター、きょうは一段と早いですね」


 朝の支度も人一倍早いアスカが俺に合わせて表に出てきてくれた。


初日の出はつひのでおがもうと思ってな。少し体を動かしておこうか。アスカ一緒に走ろう」


「はい、マスター」


「けさは他の連中がいないから少しスピードを出して、港の方に行ってみないか? 水平線からの初日の出はつひのでが見えるかも知れないからな」


「それなら、もうだいぶ明るくなってきましたから、急ぎましょう」


「よーし。スタート」



 久しぶりにアスカと高速走行したら10分もかからず、港の岸壁がんぺきについてしまった。今日の元旦は、漁師りょうしの人や荷役にやくの人といった港で働いている人たちも休みを取っているらしく、中小型船が停泊しているだけの港は閑散かんさんとして人がほとんどいなかった。


「マスター、あと数分で日が昇ります。忘れていましたが、マスター、明けましておめでとうございます」


「アスカ、明けましておめでとう。今年もよろしくな」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」



「おっ、ご来光らいこうだ!」


「いつも見ている太陽と同じもののはずなのに、特別なものに見えます」


「ほう。すごいな、アスカ。最近、急に人間ぽくなって来たんじゃないか?」


「さあ、どうでしょう。自分では今のところ自覚できません。もしそうだとすると、人と接する機会が増えたことで、私の中の思考回路が最適化されていったためと思います」


「じゃあ、これからますます人と接する機会が増えるだろうから、ますます人間に近くなるんだな」


「思考は人間に近づくと思いますが、決して人間にはなれません」


「それはそうだ。今のままでも、これから先何かが変わってもアスカはアスカで俺のアスカだろ」


「はい、マスター。ありがとうございます」


「そろそろ、屋敷に帰るか。誰にも言わずに出て来たから、屋敷の連中が心配しているかもしれないからな」


「はい」




 帰りも、結局10分かからず屋敷にたどり着いた。


 全員に集合をかけ、


「これから、みんなで『ナイツオブダイヤモンド』へ朝食を食べに行くぞー。支度を急げー!」


「『ナイツオブダイヤモンド』ってあの『ナイツオブダイヤモンド』ですか?」


「『あの』かどうかは知らないが、商業ギルドの前に立ってる大きな宿屋の『ナイツオブダイヤモンド』だ」


「ほんとですかー」「やったー」「私初めて」……


 あれ? 連れて行ったことなかったかな? まあ、喜んでくれるなら結構、結構。


 最近はこればかりだな。これから屋敷に誰もいなくなるので、みんなが支度をしている間俺は戸締りを確認していった。


 しばらくしたら、支度を終えたみんなが玄関前のホールに再集合したので、


「用意はいいな。その前に、みんなにお年玉だ。お年玉というのは、新年最初のお小遣いのことだ。みんな、今年もよろしくな。中身はみんな一緒だから、順番に受け取ってくれ」


「やったー」「うれしー」「ありがとうございます」


「ええー、こんなにー」「うそ、こんなに」


 みんなに小袋に金貨を1枚だけ入れたものを配っただけなのだが、ことのほか喜んでもらえた。


「ショウタさん、わたしお金を貰っても使うあてもないし、こんなに良くしてもらってるのにこれ以上必要ありません」


「ラッティー、おまえの机の中に入れてちゃんと仕舞しまっておけば将来役に立つことがあるはずだからマスターから貰っておけ。ほらこれも」


 そう言って、アスカが取り出したのは、見た目は小さな宝箱だった。縦長のスリットが上に開いているところを見ると宝箱の形をした貯金箱らしい。木の塊を加工して周りを動物たちが取り囲むような浮彫うきぼりが施されたその貯金箱はもはや工芸品で、とても金貨一枚で買えるような代物しろものには見えなかった。


「その箱の上のあなから、コインを入れておけば安心だろ?」


「これももらっていいの?」


「おまえのために作ったものだから当然だ」


「ありがとうございます。アスカさん、ショウタさん」



「それじゃあ、今渡したお年玉をいったん仕舞ってくる者は仕舞って来るように。みんな集まったら、改めて出発だ」


 ……


「みんな、集まったな。それじゃあ、ゆっくり歩いて行こう。出発しゅっぱーつ!」


 シローには少し大きめのおやつのから魔石を与えてやったら、みんながお出かけするのを察したらしく、おとなしく玄関口で見送ってくれた。




『ナイツオブダイヤモンド』への道すがら、


「『ナイツオブダイヤモンド』って?」


 ただ一人『ナイツオブダイヤモンド』を知らなかったラッティーに、


「さっきマスターが言っていたとおりの大きな宿屋で王都で一、二と言われるほどの宿屋なんだ。その一階にあるレストランもなかなかのもので、それでみんな喜んでる。付け加えると、あそこはマスターと私が利用するときには同伴者どうはんしゃも含め何を頼んでも無料だから遠慮しないでいいからな」


「そうなの? それじゃあ毎日食べに行けばいいのに」


 素直な疑問だよな。ここは俺がアスカに代わって、


「それじゃあ、レストランの人に悪いだろ。たまに食べるからおいしく感じることもあるし、ありがたみがある。それに、うちのゴーメイさんの作る食事は、『ナイツオブダイヤモンド』に負けてるわけじゃないからな」


「そうなんだ。わたしは何を食べてもおいしいから、どっちでもいいけど、行ったことのないところに行けるのはうれしい。ショウタさん、ありがとう」


「おお。気にするな」


 そういえば、ラッティーに王都見物をさせたことなかったな。よし。




 久しぶりの『ナイツオブダイヤモンド』。


 おれたち十人がぞろぞろ、玄関ホールを入ると、


 「シャンデリアがきれい」「すごーい」「大きい」「かたそー」それぞれ感想があるようだが、かたそー? 謎の感想だ?


 すぐに俺たちを認めた支配人さんがやって来てあいさつしてくれた。


「ショウタさま、アスカさま。お久しぶりです。きょうは、レストランのご利用ですか?」


「はい。大人数で押しかけて申し訳ありません」


「いえいえ、いついらしても大歓迎ですので、ご遠慮なさらずご利用ください」


「お言葉に甘えてそうさせていただきます」





 レストランでは、見知った係りの人に席に案内され、朝食のセットを注文した。


「みんな、朝食セットでいいだろ。あと、それだけだと足りないだろうから、テーブルの上に置いてある朝のメニュー表から適当に注文してくれ」


「はーい」


 いつものようにみんなそろって返事をしてくれた。テーブルの上の朝のメニューが書かれた紙をみんなでのぞき込んで、ああでもないこうでもないといいあっている中に混じって、ラッティーが自分の意見を言っているところが面白い。


 それぞれ、別オーダーの料理も決まったらしく係りの人に告げていた。


 朝食セットの方はすぐに用意され、運ばれてきたので、


「「いただきます」」


 みんなそろって、しかも元気いっぱいに大きな声をだしたものだから、周りの別のお客さんたちが驚いてわれわれの方を顔を向けたが、若い女の子たちの姿をみてほほ笑んでいた。



「あー、おいしかった。ごちそうさま」


 ラッティーが、一番最後になったがちゃんと残さずに食事を終えた。そういえば、最初見た時はかなり痩せていたラッティーだがすこし肉がついてきた気がする。あれからそんなに日数は経ってはいないが小さな子だけにそういったところは早いのかもしれない。うちにいる限りは病気の心配はないからこのまま成長してくれるだろう。


「これからお茶が出てくるから、各自デザートを頼んだらいい。ここのお勧めはモンブランだ。わたしはショートケーキを二つ頼むがな」


 アスカならそうだろうよ。



[あとがき・宣伝]

異世界ファンタジー、ダークファンタジーっぽいコメディー?

『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020 もよろしくお願いします。

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