第189話 お正月2、サヤカとモエ


『ナイツオブダイヤモンド』のレストランで最後に注文したデザートをみんな食べ終わったところで、


「それじゃあ、そろそろ出るか」


「はい」


「アスカ、みんなを連れて先に帰ってくれ。俺はここで用事を済ませてから追いつくから」


「はい。マスター」


 先に、アスカたちを屋敷に帰した。


 俺はロビーの受付で支配人さんを呼んでもらい、先日アスカに作ってもらったミスリル製のドラゴン像を今までのお礼だと言って渡しておいた。アスカフィギュアは30センチほどのものだったが、このドラゴン像は全長が60センチほどで、台座もミスリル製という超豪華仕様ちょうごうかしようとなっている。


 ひどく支配人さんに恐縮きょうしゅくされたが、何とか受け取ってもらった。これをガラスケースに入れてロビーに飾るそうだ。アスカの作品が王都で一番の宿屋と言われている『ナイツオブダイヤモンド』で世に出るわけだ。


 つぎは、商業ギルドだ。こちらは、ギルド長のリストさんは不在だったが、リストさんの秘書のポーラさんに会えたので、『ナイツオブダイヤモンド』で渡したドラゴン像とはポーズ違いのドラゴン像をこれまでのお礼だと言って渡しておいた。


 こんなものでいいか? あとは、アルマさんと、ボルツさんのところだが、そのうちでいいな。それじゃあ、屋敷にもどろう。少し時間がかかったからもう追いつけそうにないが、とりあえず全力で駆けていくか。




 全速でアスカたちを追いかけたが、屋敷に着くまでには追いつけなかった。たまに全速で走るのも悪くはないが、人通りも多くなった今の時間は少々迷惑度合いが大きかったかもしれない。


「ただいま」


「マスター、お帰りなさい」


 玄関に入ると、そこでアスカが待っていてくれた。


 みんなはもう解散したようで、思い思いなことをして過ごしている。


「さて、アスカ。今日は、シャーリーとラッティーを連れて、久しぶりに王都の街中まちなかに出てみるか?」


「それはいいですね。二人を呼んできます」






 一方こちらは、時間がさかのぼり、大みそかの夕方の勇者パーティーの二人組。賢者サヤカと聖女モエ。


「ねえ、モエ、わたしたちがこの世界によばれて8カ月もたったんだね」


「そうね。この世界に来てから何年も経ってる気がするけれど8カ月なんだね」


「きょうは大みそかだよ。これでゆうごはん食べて、夜になったらもう寝るしかないんだよ」


「そうね。最近はやってるリバーシも飽きちゃったしね」


「モエ、わたしにかちにげはよくないよ。だからもう一回しようよ」


「えー、さすがにもう飽きたよ」


「そろそろ、ゆうごはんじゃない? わたしたちも食堂に行こうか」


「そうね。今日は何かしら?」


「モエ、今日は『そうね』ばかりじゃない」


「そうね。アハハハ」


「なにそれー、アハハハ」





 ヒカルとサヤカとモエの勇者三人組は、王宮の一角にある専用の食堂で食事をとっている。魔剣の後遺症から徐々に回復しつつある勇者ヒカルはこのところ訓練をそれなりにこなし、ちゃんと食事も時間でとるようになっていた。


「あれ、ヒカルじゃない」


「サヤカか。どうだ?」


「どうって? わたしならいつもどおり元気いっぱいよ」


「フン。ごちそうさん。俺は部屋に帰る」


「なによ。あんたから話しかけてきたんでしょ!」


「サヤカ、よしなさいよ。それより、さっき侍女の人に聞いたんだけど、今日きょうは特別な夜食があるんですって」


「モエ。あなた、ごはんを食べる前から夜食はないんじゃない? 太るよ」


「だいじょーぶ。私は太らない体質なの」


「それは、むねだけじゃん?」


「なによ、あなただって私と変わらないじゃない」


「モエさん。きょういがおんなじでも、わたしのBとモエさんのAでは天と地ほどのさがあるのよ。天と地、天と地、天・と・地。あれれ? モエって聖女Aだったんだ」


「もう。うるさいわね。さっさと食事するわよ」


 ……


「ふー。食べた、食べた。今日も満足。夜食は部屋に届けてくれるそうだけど、サヤカ、一緒に食べる?」


「うん。そしたら、モエの部屋でリバーシしながらまってようよ」


「わかったわよ。リバーシは三回だけだよ」


「あたしはモエの部屋にいるってじじょの人にいっておくね」


 ……


「ねえ、モエ。ようしゃってことば知ってる?」


「だって、サヤカ弱すぎだよ。勝たせてあげようと思っても勝たないんだもの」


「ぶー。それじゃあもう一回」


「さっきので九回目だったじゃない」


「切りのいいところであと一回。それで、十回でちょうどいいでしょ」


「それじゃあ、今度がほんとの最後よ」


 ……


『失礼します。夜食をお届けに参りました』


「はい、いてます。どうぞ。

 サヤカ、夜食が来たみたいよ。

 そこのテーブルの上に置いてもらえますか」


「どうぞ。リリアナ殿下からの差し入れだそうです。なんでも、リリアナ殿下に親しい方からのお届けものだったようで、勇者さまたちにもおすそ分けで配ってくれということ言づけがあったようです。それでは、失礼します」



「ええ、なにこれ? お汁粉しるこじゃない、え、えー。サヤカ、どうしよ。お汁粉だよ。涙が出て来ちゃった」


「ほんとだ、おしるこだ。おいしそう。いただきまーす」


「サヤカ、あなた感動が薄いわね」


「あら、そう? すっごーく、うれしー。これでいい?」


「もう。できればお椀とお箸で食べたかったけど、仕方ないわね。あら、おもちも入ってるわよ」


「ほんとだ、すごーい。どこのだれがリリアナ殿下に届けたんだろ?」


「誰だろ? 機会が有れば聞いてみたいわね。私たちにもってことは、私たちのことを知ってるってことよね。でも今はこのお汁粉を味わって食べましょう。今日はいい大みそかになったわね」


「そうね。こうしておしるこを食べていると日本にいるみたい。これでテレビでもあれば最高だったわね。それじゃあ、食べながらリバーシするわよ」


「サヤカ、あなた本当に元気よね」


「それだけがじまんなの」


「ほめたわけじゃなかったのに、そこまで言われたら返せないわ。ねえ、サヤカ、明日から三日は訓練ないみたいだけど、お正月はどうする?」


「そうね、街に出て、なにかおいしいものでも食べて買い物でもしようかな」


「ようするに、いつものお休みと一緒ね。なにかお正月らしいことってないかしら?」


「どうなんだろ。こっちの人たちのお正月のすごしかたが分からないからお正月らしいといっても分かんないよ」


「じゃあ、明日あしたはお正月だから、少し遅くまで寝てそれからお城を出て街に繰り出そう」


「それでいいから、さいごのもう一回はじめるわよ」


「はいはい」



[あとがき]

中森明菜 少女A

https://www.youtube.com/watch?v=sTn6eaiYN1w

いい曲ですよ。

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