第185話 大みそか1、リバーシ大会


 そんなこんなで、年も暮れていき今日は大みそか。大みそかといって理解できるのはこの世界では俺とアスカとあの勇者一行の三人ぐらいか。


 年越しソバはないし、除夜の鐘じょやのかねもない。もちろん、紅白〇合戦もないので、この世界の大みそかはさびしいものだ。普通ならな。



 先ほど学校から帰って来たシャーリーは、明日あしたから三連休。屋敷の連中も実家がある連中には休みを与えているので、今屋敷にいるのは、俺、アスカ、シャーリー、ラッティー、ヨシュアにマリア、それに四人娘で10人だ。食事については、ゴーメイさんとミラが作ってくれていた三日分の特別料理を俺の収納庫に収納している。その他にも俺の収納には温かい料理が相当量入っているので食事に困ることは無い。


 ラッティーも明日から三日間はアスカの特訓から解放されるようだ。俺も眠っていたダンスのセンスがアスカによって呼び覚まされたらしく、気分はアスカダンス道場でのタンゴの免許皆伝めんきょかいでん、すでに師範代しはんだい並みの腕前だ。クイック、クイック、スロー、クイック、クイック。何をしていても、頭の中はこれが響いている状態になってしまった。


 ほかのダンスも習っておいて損はないとアスカが勧めるのだが、タンゴをものにしてしまった以上、最初のころの弱気は吹き飛んでしまい、必殺技は一つ。二つあってはもはや必殺技とは言えない。などと謎理論なぞりろんを振り回してアスカを断念させた。何のかんのと言っても、よっぽどのことがない限りアスカは俺に逆らうことなど有り得ないからな。よっぽどのことが重なることはままある。


 そういうことなので、俺もこれから三日間時間が空いているわけだ。


 大みそかの今日の夜食は、お汁粉を用意している。ゴーメイさんに言って用意してもらったお汁粉の入った大鍋を収納しているだけだがな。先日の餅つき大会でついたおもちも収納しているので中に入れるオモチはつきたてでまだ熱い。おわんがないので少し締まらないがスープ皿でもいいだろう。


 夕方には自宅や身内の家に帰る者たちが挨拶あいさつをしながらめいめいうちに帰っていった。帰り際にボーナスという訳ではないが、各自にひと月分の給金を持たせてやった。まあ、いわゆるモチ代だな。みんな喜んで受け取ってくれた。それはそうか。


 残った俺たちも早々に風呂に入って、ゴーメイさんが用意しておいてくれたいつもの洋食風の夕食をいただいた。


 そして、夜7時。


「ようーし、みんなー。大みそか恒例こうれいリバーシ大会を開催するぞー。ジャジャーン!」


 なぜに、恒例かというと、これから毎年大みそかにこれをうちの行事としてやって行こうと思っているからだ。大みそかについては、一年の最後の日だとみんなに説明している。


 この前、ラッティーの机をアスカに作ってもらおうと思って木材を手に入れたのだが、机と椅子をアスカが作った余りの板がだいぶ残っていたので、これでリバーシの盤面と駒が作れるんじゃないかと思いついた。


 その時、どうせなら屋敷のみんなも遊べた方が良いだろうと、余った板でできるだけのリバーシのセットをアスカに作ってもらったところ、結局、5セット分のリバーシの盤面ばんめんと駒ができた。盤面は板を四角く切って格子状の刻みを入れるだけだったのでこちらはアスカがすぐ作ってしまい、駒の裏面だけ黒くペンキを塗るのに、手のいていた連中を総動員して塗ったので、ペンキ塗りも意外と早くできた。


 ペンキ塗りを手伝ってくれた連中も、いったい自分たちが片面を黒くペンキで塗っている丸い板がなになのかわからなかったろうが、今日その謎が明かされて驚くわけだ。


「このまえ、みんなにペンキを塗ってもらった丸い板があったろ、あれを使ったリーバーシというゲームを行いたいと思います。試合はトーナメント方式で優勝者には俺から賞品を授与じゅよいたしまーす。ゲームのルールはみんな知らないと思いますから、いまから、俺とアスカで模範対戦をするのでそれを見て覚えてくださーい」


「あのう、ショウタさん」


「シャーリー、なんだ?」


「あのう、リバーシならみんなルールを知っていると思います」


「え?」


「ですから、リバーシならみんな小さなころから遊んで、ルールくらい知っていると思います」


「なんだってー!」


 この世界にはリバーシがないから流行はやらせてやろうなどとよこしまな考えを持っていたわけではないが、これは初耳だった。


「アスカ知ってたか?」


「はい、雑貨屋で何度も見たことが有りますから」


「それじゃあ、言ってくれても良かったじゃないか」


「マスターが、楽しそうでしたので気の毒で言えませんでした」


 そうですか。いらん心配をさせたようだな。


「みんなルールを分かってるんなら、問題ない」


「あのうショウタさん」


「あ、ラッティーはルールを知らなかったか?」


「うーん、それって、白と黒でお互いに挟んで、自分の色が挟まれたら裏返って相手の色にする遊び?」


「なんだ、ラッティーも知ってたのか」


「それじゃあ、みんな知っているんだったら、二人組を作ってそれで対戦だ。その前に俺とアスカが模範対戦をするからな。アスカ、俺はいくらアスカでも容赦ようしゃしないから、アスカも全力でこい」


 俺とアスカが模範対戦をするテーブルの周りにみんなが集まって来た。


 盤面には黒丸2つと白丸2つが互い違いたがいちがいに真ん中に置かれている。


「それではマスター、マスターが先攻後攻せんこうこうこうを決めてください」


「それじゃあ、俺は後攻こうこうだ」


「分かりました。それでは……」


 ……


「うーん、置けないなー」


「マスター、そこに置けますよ」


「そこに置いたら、すみが取られるじゃないか」


「でもそこしか置けませんよ」


「チッ!」


 ……


「パス」


「それでは、私はここに」


「パス」


「それでは、ここに」


「パス」


「はい。これでマスターの駒は全部なくなりました」


 アスカさん、少しは空気を読もうよ。みんな俺を可哀そうかわいそうな人を見る目で見てるよ。シャーリーとラッティーの俺を見る目がつらい。


「おほん、アスカのすごさが今の模範対戦で分かったと思う。われわれ二人はトーナメントに参加しないので安心してくれ」


 ある意味安心かも知れないな。間違って俺に勝ってしまうと、気まずいだろうし。忖度そんたくして負けるのも俺が相手だと技術的に難しいかもしれない。俺とアスカが参加しない事にはすごい意義いぎがあるわけだ。



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