第182話 餅つき大会2


 だいぶ前に河を渡ろうとアスカが作ったいかだの丸太を使って前日うすきねを用意した。杵は大人用のものだけでなく女、子ども用の小型のものも用意している。もちろん作ったのはアスカだ。


 乾燥していない生木なまきの臼と杵なのできれいに洗って日陰で干しておいた。ある程度生木の独特な匂いはとれていると思う。最後にうすの周りをロープで二カ所できつく縛っているので、臼が割れることは無いと思う。


 そのほかの準備として、先日仕入れたアズキで汁粉とあんを作ってもらっている。あんは汁粉の汁をとろ火でゆっくり潰しながら蒸発させたもので、作るのに結構な時間と手間がかかったようだ。もう一つ用意できたのが甘くしたきな粉だ。大豆をフライパンで炒った物を粉にひいて砂糖を少し加えて作った。これで安倍川あべかわモチができる。


 ショウユ?も手に入っているので磯部焼きいそべやきが食べたかったが、海苔のりが手にはいらなかったので断念した。手に入れたショウユがモチに合うようならセンベイはそのうち作れると思う。




 屋敷の表にテーブルとうすを置いて準備万端。集まったみんなはその丸太を輪切りにして削ったような臼の外観に奇異きいの目を向けている。臼の横にはボウルに入れた手水てみずを用意している。


「よーし、みんな。それじゃ、餅つき大会をはじめるぞ」


「わーい」パチパチパチ。


 とりあえず、みんなも歓声を上げてくれた。これがシーンとしたままだと非常に気まずいものだが、うちのみんなが空気を読んでくれたおかげで何とかなった。


 歓声と拍手が上がっているところに、ちょうど蒸し器で蒸しあげられたモチゴメがザルに入れられて、ミラの手によって厨房から運び込まれた。


「ミラ、そこの臼の上にあけてくれ」


 臼と言ってわかったかどうかは不明だがちゃんと臼の中にかしたモチゴメがざるから入れられた。モチをつく情景を知っているのはアスカだけなので、最初の餅つきはアスカがつき手でおれがモチを動かす係り、返し手かえしてだ。


「俺とアスカで一通りモチをついていくからみんなよく見ておいてくれよ。俺たちのあとはみんなで順番についていくからな」


 アスカは一度手水てみずの入ったボウルにきねの先を入れ水で湿らせ、その杵で湯気を上げるモチゴメをこね回していき、いい線モチゴメがからまってきたところでもう一度杵の先に水を付け、アスカが掛け声をかけながらモチをつき始めた。もちろんすごく力を調整しての餅つきだ。


「ほい」ペッタン。


「はっ!」


 杵が持ち上がったところで、すかさず横にずれたモチを真ん中になるよう折り返して位置調整する。 


「ほい」ペッタン。


「はっ!」いちど、手に手水をつけ、モチを折り返す


「ほい」ペッタン。「はっ!」


「ほい」ペッタン。「はっ!」


「ほい」ペッタン。「はっ!」


「ほい」ペッタン。「はっ!」


 ……


 こんなものかな。庭に出したテーブルの上には大きなトレーが置いてあり、その上にモチゴメを粉に挽いたものを広げている。その粉の上に出来上がったモチの大きなかたまりを乗っけて、はしの方から5センチくらいの玉になるようにちぎっていきそれを平たくしていく。


「みんな、温かいうちに食べないと硬くなるからな。こっちがアンコ、そっちの黄色いのがきな粉。好きな方をくっつけて食べるとおいしいぞ。どっちも甘いからな」


 みんなができ上がったモチを皿に取ったアンコやきな粉につけておそるおそる口に運んだ。


「なにこれ、おいしーい。でものびるーー」


 なにも語尾ごびまで伸ばさなくてもいいからな。早く食べるようにせかしたせいもあり第一陣のおモチはすぐになくなってしまった。



「つき方は、だいたい分かったろ? 次はだれか俺たちに代わってモチをついてくれ」


 一度見ただけでは難しかったのか互いに顔を見合わせている者が多い。


「つき手はモチをつくとき返し手の手をついてしまうかもしれないと思うかもしれないが、恐れる必要はない。きねが返し手の手をついてしまう寸前すんぜんに私がちゃんと、返し手の手を切り飛ばしてやるから少なくとも手をついてしまうことはない」


 今のアスカの言葉にみんな引いて静かになってしまった。それはそうだ。


「今のは冗談だ、ちゃんと杵を止めてやる」


 アスカ、下手な冗談はやめた方が良いぞ。空気を読まないのはお前の特技かも知れないが、時と場合があるんだからな。おっと、時と場合を気にしないから、空気を読まないのか。納得なっとく


 次のかしたモチゴメが炊きあがったようで、ソフィアが熱々のモチゴメの入ったザルを運んできて、臼の中にあけた。


「それじゃあラッティー、おまえがやってみるか。おまえ用に小さな杵もあるからな」


「わたしがやっていいのー? やってみるー」


「それじゃあ、アスカ、ラッティーの後ろから、杵を支えてやってくれ。俺だったら少々のことは何ともないから、もう一回返し手をしてやろう。いいか、ラッティー。さっきアスカがやってたように掛け声をかけながらつくんだぞ」


「はい」


「よし、いい返事だ。最初は俺とアスカである程度ついておくから、それからラッティーがついてくれ。それじゃあアスカ」


「はい」


 最初、さっきのように周りから真ん中にモチゴメを押しつぶしていき、ころあいを見て、


「ほい」ペッタン。


「はっ!」


「ほい」ペッタン。


「はっ!」


「ほい」ペッタン。


「はっ!」


「それじゃあ、アスカ、ラッティーと代わってラッティーの後ろについて見ててくれ」


「いきまーす。ほい」ペッタ、


「ううー」


 杵がモチについて持ち上がらなくなったようだ。アスカが後ろからラッティーの手をもって杵を持ち上げてやったら、モチがどこまでも伸びてくる。


「おおー」


 周りで見ているみんなも先ほど食べてみてモチとはかなり伸びるものだと知ったが、ここまで伸びるものだと始めた知ったせいで一様に驚いている。


 ラッティーは四、五回杵を振ったら力尽ちからつきたようでガックリ来ていた。妙なところで自分の非力を公開してしまうと、うちには鬼のアスカさんが控えていて特訓することになりますよ。まだ、骨格こっかくのできていないラッティーに無理な特訓はさすがのアスカもしないと思うが、ある程度の骨格が出来あがったうえで非力なままだったら容赦ようしゃない特訓が待っていると思うぞ。


 その回は結局アスカが続きをついてモチをつきあげた。すぐに、テーブルの粉を敷いたトレーに運んですぐに丸いモチを作っていく。そして、今回もすぐになくなってしまった。好評でなにより。


 次からは、ハウゼンさんがつき手、リディアが返し手。サージェントさんがつき手、エカテリーナが返し手。といった具合で何のかんので、みんな餅つきを楽しむことが出来た。シャーリーは俺がつき手でシャーリーが返し手になった。信頼のあかしってことだな。


 かなりのオモチがつきあがり、モチゴメも蒸かし終わったようで、最後の蒸かしたモチゴメをもって厨房組三人が出て来たので、最後の餅つきをハート姉妹でめて餅つきは終わり、後は食べるだけだ。


 みんな、お腹を膨らませて今日の餅つき大会は大成功で終わったのだが、モチの腹持ちの良さが初めてだったせいで、うーうーおなかをさすってうなっている者が何人も発生した。三時のおやつの時間は汁粉のつもりで、ゴーメイさんに準備を頼んでいたのだが、これだとあした以降だな。

 


 余った大量のモチは、カビさせてはいけないので俺がちゃんと収納しておいた。それと、それなりのモチとアンコをサージェントさんに王宮に届けさせた。


 あの勇者たちは今でも嫌いだが、それでも日本人だ。これから正月を迎えるにあたりモチくらい食べたいだろう。リリアナ殿下におすそ分けで食べ方を紙に書いて送ったのだが、勇者連中にも食べさせてやるよう一筆添いっぴつそえている。




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