第181話 餅つき大会1


 これからのことも考えてベッドと寝具を余分に購入しておいた。ラッティーに子ども用の机を買いたかったのだが、子ども用の机は家具屋に置いていなかったため、アスカに作ってもらうことにした。材料はベッドの大量購入のおまけで家具屋さんに無料で分けてもらった。


「マスター、ラッティーの机や椅子いすはすぐ作れますから、次は本屋に寄ってみませんか? いつも同じ教材では飽きてしまいますからラッティーに本を買ってやりたいんですが」


 これでは、なんだか、来年小学校に上がる子どもをもった若い夫婦みたいだな。本屋の次はランドセルか?


「いいんじゃないか。子ども用に限らず屋敷の居間にでもいろいろ本を置いてやればみんな楽しめるだろ」


「そうですね。一部の者は最近妙な本を購入してこっそり回し読みなどをしてるようですが、そういった本も用意しますか?」


「なんだ、そのこっそり回し読みしてるという本は?」


「マスターは気にしない方が良いと思いますよ。ヒントは、『男の人同士』? ですか」


「だいたいの想像は付いた。それは用意する必要はないだろう」


「わかりました。それじゃあ、本屋はこちらです」



 そういえば、王都で本屋に入るのは初めてかもしれない。アスカに連れられて入ったその店は、かなり立派な建物で、大きくて分厚い本が一冊ずつ机の上に並べられていた。通常は、本というものは注文するもので、本屋の良しあしはその注文にいかに迅速じんそくに答えることができるかなのだそうだ。うちの女性陣が回し読みしているという本も注文して手に入れたのならそれはそれでごうの者と言えるだろう。


 俺にはどういった本があるのかなど全くわからなかったのだが、アスカが適当に何冊か本を注文していた。本屋さんがその本を仕入れ次第、屋敷に運んでくれるそうだ。代金は先払いだったのでその場で払って店を後にした。やはり、本は高価な物のようで、結構なお値段だった。


 次に回ったのは、商業ギルドで、ブレゾのパンプキン商会のことをリストさんに話し、継続的にコメやその他の穀物をギルドで仕入れてもらうことにした。ついでにスパイスもお願いしたかったのだが、実物は屋敷に全部おいてきていたし、名前なども分からなかったので無理かと思ったが、アスカがちゃんと名前を覚えていてくれたので、これも数か月後には王都で手に入るようになるはずだ。


 からいものがダメな者もカレーの辛さは別らしく近いうちにまたカレーが食べたいとのお声を屋敷のみんなからいただいている。好きなだけ食べさせてやりたいのだが、カレー用のスパイスが残念ながらあと二、三回カレーを作る分しかない。商業ギルドで仕入れ始めて王都で購入できるようになるのはまだ先の話なので、ラッティーのこともあり、近いうちにブレゾに買い出しに行ったほうがよさそうだ。




 いよいよ年の瀬が近づいてきた。ラッティー用のベッドや寝具、ちいさなタンスなんかをシャーリーの部屋に準備出来たので、ラッティーはシャーリーの部屋で寝起きしている。午前中はアスカの部屋で勉強をしているのだが、アスカに作ってもらった子供用の机に向かって、熱心に本を読んだり、字を書いたりしている。ラッティーの勉強のための本や、ヨシュアたちのための錬金術の本はすでに注文していた本屋から届けられている。


 ヨシュア、マリアの錬金組はマリアが戦力化し始めた関係で、ポーション作りのスピードと品質が上がって来たようだ。あまり大量にポーションをおろすわけにもいかないので、午前中だけポーションを作り、毎日コンスタントにPAポーションをはじめスタミナポーション、ヒールポーションなどを卸している。まさにわが家の収益源である。二人は午後からは、屋敷の掃除などを手伝うか、何もなければ手渡した錬金術の本を二人で読んでいるようだ。わからないことがあればアスカに聞いているようだが、俺にたずねに来ることはめったにない。いや一度もない。やはり、俺には遠慮えんりょがあるようだ。




 シャーリーの学校は年始三日ほど休みになるという。まさに、正月三が日さんがにちが休みになるだけで、その日が日曜であっても振り替え休日があるわけではない。


 年末と言えば年末なのだが、みんなは普段と変わらずそれなりには忙しい仕事をこなし生活を送っている。


 要するに、そわそわしているのは俺だけで、しかも俺は気持ちだけそわそわしているだけなので別段忙しいわけではない。


 こうやって人を使って働かせてみて、資本家の何たるかを学んだような気がした。


 とはいえ、それだけでは、ただの搾取さくしゅ者としての資本家である。俺は資本家ではあるが搾取するつもりはない。労働者にたいする収益還元をちゃんと行う立派な資本家に俺はなるんだ!


 というわけで、今日きょうは一部の人を除いてお休みだ。一部の人はだれかというと、厨房関係のゴーメイさんと、ミラ、ソフィアのハート姉妹だ。彼らにはやってもらわなくてはならない仕事があるので、今日は半日、仕事についてもらうことになっている。



「みんなー、今日は11時からもちつき大会だ! 朝食はほどほどにな」


 朝食時に今日の予定をみんなに告げる。昨日きのうの夕食時にも今日は休みで特別な行事を行うことをみんなには告げているのでとくに問題はないのだが、特別な行事の内容については厨房関連の三人にしか言っていないので、俺の餅つき発言に顔を見合わせるものが複数いる。厨房関連の三人も他の者に今日のことは漏らさなかったようだ。


「最近よく食べるコメの別の種類にモチゴメというのがあってそれを炊いて重たい棒みたいなものを使ってつぶしてね上げるとモチという名前のケーキ状の食べ物が出来るんだ。それにいろんなものをつけて食べる。モチを作るところから食べるところまでをみんなで一緒にすることを餅つき大会と言っているんだ」


 分かったようなわからないような説明を聞いたみんなも、どうやらそれがみんなでなにか食べる行事であると理解してくれたようだ。



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