第177話 朝は日本食? グフフ


 昨夜、みんな遅くまで起きていたのだが、だからと言って日課のランニングをサボるわけにはいかない。まだ暗いうちから起き出して、かるく準備体操のラジオ体操をした後、屋敷の周りをみんなで走り始めた。


 ラッティーはさすがに昨日の疲れが出たようで、ぐっすりアスカのベッドの上で眠っているということだったので、寝かせたままにしている。


 軽く10周走って今日の朝食前の運動はおしまい。いまでは、シャーリーもブーツ『ミチバシリ』のおかげもあってか四人娘に混ざって完走できるようになっている。


 走っているときはそれなりに負荷もかかるのでつらいのだろうが、みんなと一緒に走ってみんなと一緒にゴールするとそれなりに気分のいいものだ。


 別に指示したわけではないが、ヨシュアとマリアもいつの間にかこの朝のランニングに参加するようになっており、二人ともわれわれからだいぶ遅れるものの最初から完走していた。


 根性のある連中が一生懸命いっしょうけんめいやっているところを見ると気持ちがいい。走り終わった者も、最後の者が走り終わるまで門の前で待っているので、ある意味プレッシャーにはなっている。無理はする必要はないが、これくらいはいいだろう。ヨシュアとマリアも、このまま続けていれば、もう一カ月もしないうちに楽に完走できるようになるだろう。


 走り終わるころに、ラッティーが門の外まで出てきて、俺たちの走っている姿を見て驚いていた。仕事でもないのに走っている人など普通見ることはないから、なおさらだろう。それに、貴族さまの俺とアスカが走っていたのも驚いた一因いちいんかもしれない。もし、アスカと俺の本気の走りをみたらそれこそたまげるだろうな。


 みんなで軽く整理体操をして、ラッティーを連れ、さーて、今日の朝食は何かな。そんなことを考えながら、食堂に向かった。


 あれ、このにおいはなんだ? なんなんだ? すごく懐かしい匂いがして来たぞ。


 食堂に顔を出すと、ミラ、ソフィアのハート姉妹が今日の朝食をテーブルの上に並べている。


 深めの皿の上に、真っ白ではないいが、ご飯が湯気を立てて盛られていた。その横には平たいお皿の上に、魚が乗っている。そして、スープ皿によそってあるのは薄い黄土色っぽい液体だ。


 自分の席につき、みんなが揃うのを待つ。スープ皿に入って湯気を立てていたのはやっぱり味噌汁だった。煮干しの香りもする。味噌汁の実は、見えている限りではネギが浮いているのが分かる。平たい皿の上に乗っていたのは、魚の干物だった。形は、アジによく似ている。ブレゾで買ったものなのだろうが、いつの間に買ったのか覚えがない。左隣に座るアスカを見ると、うなずいたので、これもアスカが買っていてくれたらしい。ありがたや、ありがたや。


 普段の食事は、木製のナイフとフォーク、それにスプーンを使っているので今日もテーブルの上には、それが置いてあったが、


「マスター、どうぞ」


 そういって、アスカが俺に渡したのは、木で作ったおはしだった。木で作った無垢むくはしだが、俺の実家で使っていたものと同じ大きさのはしだった


「アスカ、ありがとう」


 なんだか、鼻水と涙が出てきてしまった。無表情でもほほ笑むことができるんだ。アスカは今確かにほほ笑んだ。


 テーブルの上には、大皿の上に、ソーセージやハム。バターロールのようなパン、ボウルに入ったグリーンサラダなどが置いてある。ピッチャーにジュースも入ってコップと一緒に置いてあるのだが、俺は今日はそんなものはいらない。ご飯と干物と味噌汁で十分だ。


 いつもは俺の向かいにシャーリーが座るのだが今日はラッテイーが座って、アスカの向かいにシャーリーは座っている。


「みんな揃ったようだし、いただきます」


「いただきます」


 みんなも、そろっていただきますを言って、朝食が始まった。


「何? このおさかな。おいしい」


「お皿の上の白いのと一緒に食べるともっとおいしいみたいよ」


「この白いのんでるとだんだん甘くなってくるんだ」


「このスープもかわったスープだけど、白いのに良く合う。中に入ってるのはダイコンかしら。柔らかくなってて味がしみてる」


「白いのはゴハンって言うんですって」


「あれ、ショウタさんとアスカさんは何だかかわった棒を使って食べてる」


「あの棒でお魚の骨を器用にとってるみたい。すごく器用よね。アスカさんは何でもできるから当然だけど、ショウタさんもできるのは驚きだわ」


 そうかよ。おれができて悪かったな。


 シャーリーがアスカと俺の使うはしに興味を持ったようで、


「ショウタさん、ショウタさんの使っているその二本の棒はなんていうんですか?」


「これは、はしっていうんだ。俺の昔いた国では普段はこのはしを使って食事をするんだ」


「シャーリー、おまえも欲しいのか? 使うのには少し練習は必要だが直ぐに慣れるだろう」


「アスカさん、是非ぜひお願いします」


「シャーリーならそう言うだろうと思ってもうおまえの分は作っている。ほら」


 アスカが俺の箸と比べ幾分短くて細い箸をシャーリーに手渡した。


「アスカさん、ありがとうございます」


「今からすぐ使うことは難しいから、夕食から練習するか」


「はい」


「ラッティー、おまえの分もちゃんとあるぞ、ほら」


「わたしにも作ってくれたんだ。アスカさん、ありがとう」


「今の私に対する感謝の言葉を忘れるなよ。シャーリーが学校に行ってしばらくして、そうだな9時からはラッティー、私と勉強だからな。今日から文字の読み書きだ。食事を終ったら、9時まで、よーく体を休めておけよ」


 ラッティーは今のアスカの言葉に別に特別な反応はしなかったが、その代わりに四人娘たちは、急に食欲がなくなったようで、早々に自分たちの使った食器を下げて、二階の自室に戻って行った。別にあの連中に対して言った言葉ではないはずだが、アスカに体で覚えさせられたことを思い出したんだろうなと妙に感心してしまった。


 ラッティーにもある程度の常識と教養は必要だ。ましてこの国とは違う国で過ごしてきたんだから常識もこの国に合わせる必要がある、あと二、三年もしたら、ラッティーも学校にやるつもりだから、せいぜいあと1時間ばかりの心の平安をかみしめておけ。


 

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