第175話 ご飯よーし、そして、


 ラッティーの部屋はとりあえず、アスカの部屋ということにし、ブレゾでそろえた荷物をアスカの部屋に置いておいた。シャーリーが学校から帰ってきたらラッテイーの話をしてシャーリーの部屋をラッティーと二人で使わせようと思う。ベッドの予備がなかったので、今日はアスカが自分のベッドを使わせるようだ。


 時刻は、午後4時すこし前。シャーリーが迎えのサージェントさんと箱馬車で学校から戻って来たようだ。


「ただいま。ショウタさん、アスカさん、お二人とも何事もなかったようで何よりです。あれ、そちらのお嬢さんは?」


「シャーリーに紹介しよう。この子の名前はラッティーだ」


「ラッティーです」


「ラッティーは、マスターが、今回行ったブレゾの街で買い物がてらひろってきた子だ。よその国の国民を勝手かってに拾ってきていいものかと私はマスターにさとしたのだがな」


 そんなこと一言も言ってなかったじゃないか。しかもラッティーを拾い物みたいに。言っていることは間違まちがいではないにせよ、何かもっと、言いようってものがあるだろ。


 とはいえ、勝手に連れて来たのはまずかったかな? これがもとで外交問題になったとしたら、そうしたら受けて立ってやる。アスカがな。


「ラッティーちゃん、わたしの名前はシャーリー、わたしも昔は孤児こじだったの。仲良くしてね」


「ラッティーです。よろしくお願いします。でも、シャーリーさんも孤児だったなんて」


「このお屋敷には孤児だった子が何人もいるのよ。このお屋敷だけでなく、この国ではそんなことだれも気にしてないから平気よ」


 ラッティーがシャーリーの今の言葉に驚いたようだ。いい国なんだよ、アデレート王国は。


「シャーリー、ラッティーはまだ小さいから、部屋をおまえと一緒にしてもいいかい?」


「もちろん構いません」


「予備のベッドがないので、今日はラッティーにアスカのベッドを使わせるから明日からな」


「楽しみです」


「夕食が終わったら、ラッティーを風呂に連れて行ってくれ」


「それも楽しみです」


「ラッティー、朝からお前も大変だったろうから、アスカの部屋で休んでていいぞ、夕食になったら誰かを呼びにやるから」


「疲れてない。です」


「そうか。それじゃあ、これからうちの料理人のゴーメイさんにブレゾで買って来た食材を渡してくるから一緒に行こう」


「うん」


「ラッティー、『うん』、じゃない。そこは『はい』だ」


「はい。アスカさん」


 もう、アスカのヤツ教官モードに突入してるんじゃないか?


「それじゃあ行こうか。何だかよくわからない物も取りあえずと思ってたくさん買ってきたから、ラッティーなら分かるかもしれないし、ちょうどいい。シャーリーも来るか?」


「部屋に荷物をおいて、着替えてから、厨房ちゅうぼうにうかがいます」


「それじゃあ、俺たちは先に厨房に行っておこう」



 アスカとラッティーと俺の三人で厨房に回った。ラッティーにとっては屋敷内はどこも初めての場所なので、きょろきょろと周りを見回している。まだ新しい屋敷なので初めて屋敷に入った者にとっては木の匂いも新鮮に感じるのだろう。


 厨房に入ると、ゴーメイさんとハート姉妹の姉のミラが今日の夕食の下ごしらえで、野菜の皮をむいていた。


「ゴーメイさん、ちょっといいですか。これなんですが」


 そういいながら、作業台の上に1号米の米俵こめだわらを1つ取り出した。それなりに丈夫な作業台のようで、50キロの重さではびくともしなかった。


 米俵を一度立てて、なわを幾分ほどいてを取り外し、中をのぞくと、やや黄味を帯びてはいるが、それなりに精米されたコメが出て来た。


「ああ、これは、南方の方で食べられているコメですね」


 ゴーメイさんはコメを知っていた。これなら、もうワンチャンでたきき方を知っていてくれ。


「ゴーメイさんはこれの炊き方分かりますか?」


「はい、もう何年も前ですが、何度も炊いたことがありますので問題ありません」


 やったぜ! ゴーメイさんがもし炊けなかったら、『はじめチョロイン、ロリババア、終わり名古屋のヒツマブシ』とかいうイミフな呪文を唱えながら、試行錯誤しこうさくごをしなくてはいけないかと思っていたんだがラッキーだった。ここでも、豪運は健在けんざいだったようだ。


「よかったー。後は、……」


 次から次へ作業台の上にブレゾで買って来た食材を並べていった。ありがたいことにほとんどの食材をゴーメイさんは一度は使ったことがあったようだ。ただ、アスカが知らないうちに仕入れていた、真っ黄色で形は子芋のような食材、茶色やもみがら色の種のような食材には心当たりがないようだった。


「ところで、アスカ。これは、何だと思って買ってきたんだ? おまえのことだから何かしらの理由があったんだろ?」


「ショウタさん、それならわたしが知ってます」


 まさかの、ラッティーの発言。まさかってことは失礼か。


「ラッティー、それじゃあ、これらは何なんだ?」


 黄色い塊やら、赤やら茶色の何かの種のような物、黄緑色おうりょくしょくの乾燥した葉っぱなどが包みの中にいっぱい入っていた。


「全部、うすいて粉にして、煮物料理に入れると、とっても辛いけどおいしい料理が出来るんです」


 えっ! それってまさか、まさかのカレーじゃないか? カレーだよね。


 まだ確定版ではないが、おそらくカレーだ。


「アスカ、そういうことか?」


「はい、以前マスターの記憶の中のカレーからその成分を類推るいすいしたことがあったんですが、その時の成分に酷似こくじした食材をブレゾの商店街で見つけましたので、マスターを喜ばせようと買ってしまいました」


 アスカ、本当にありがとう。もつべきものはアスカさん。アスカ大先生とこれから呼ぶしかないな。今日の夕食はすでにゴーメイさんが仕込み始めているので、明日の昼食にカレーをみんなにふるまってやろうじゃないか。


「ゴーメイさん。ここに出したものはいちどしまっておきます。今日の夕食が終わったらもう一度出すので、みんなで棚やら食材置き場に片付けていきましょう」


「分かりました」




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