第168話 ラッティー1
座り込んでいる少女に向かってアスカが説得を試みている。何気にアスカはこういうのうまいよな。
「おまえが食べたいものがいくら高くても問題ない。しかもおまえが食べられるだけ食べていい。それで許してくれるか?」
「許してやらないこともない」
「そうか、それは済まないな。それじゃあ、われわれと一緒に付いて来てくれ。その前に、おまえの名前を教えてくれるか?」
「わかった。俺の名前はラッティー、ネズミのラッティーだ」
「ラッティー、いい名前じゃないか。私の名前はアスカ、こっちの髪の毛を短くした男性が私のマスター、ショウタ・コダマだ」
女の子の名前としては首をかしげるような名前だが、人の名前をどうこう言えるほど俺は偉くないのでただうなずいて、
「ラッティー、ショウタだ。よろしくな」
アスカは子どもを
『もしもし、わたしよ、わたし。お母さん大変なことになったの……』なんてね。
いや、アスカそんな目で俺を見るなよ。これはほんの冗談だから。ホントにどうなってるんだ。以心伝心? こればっかりはナゾだよな。
「マスター、この子を食事に連れて行こうと思いますが、良いですよね」
「ちゃんとしたところで食事をするなら、身だしなみを整える必要があるぞ」
ラッティーを改めて見ると、ぼさぼさの髪の毛は泥だらけで元の色が黒っぽいということしか分からない。着ている服はみすぼらしく、かなり汚れている。もちろん足は
「私もそう思いますので、この子に衣服をまず買ってやり、そのあと、公衆浴場で体の
俺たちの会話を聞いて、少女は目を丸くしている。俺たちの話していることがうまく理解できていないようだ。それはそれで都合がいい。
「まず、子供服を売っているような店に行かないとな。アスカ、場所はわかるか?」
「はい、表の商店街に出てすぐのところに程度の良さそうな古着を売る店がありました」やっぱり知っていたか。便利だからいいんだけどな。
「それじゃあ、そこに行って、着替えをそろえてから風呂屋に行くか。風呂屋の場所も分かってるんだろ? アスカがこの子と一緒に風呂に入って面倒見てやれよ」
「もちろんです」
風呂屋の場所のことなのか、風呂に一緒に入ると言っているのか、どちらの返事なのかは判断できないがどっちもイエスなんだろう。
ラッティーもおとなしくついて来ているので、問題なく古着屋の前に到着した。ラッティーの見た目はあまりによろしくないので、店の中に連れて入るのは断念し、アスカがラッティーの服を
「ラッティー、おまえは今何歳なんだ?」
「俺は自分が何歳だか全然わかんない。知ったところでどうにもならないだろ? それで腹が
「そうだな」
ラッティーの言葉を聞いて、なんだか、すこし悲しくなってきた。簡単に恵まれない子、とかひとことで済ますことはできない何かを感じたのだが、そのなかで、盗みを含めて精いっぱい生きて来たラッティーが少し大きく見えた。
話すこともなくなって、二人で店の前で待っていると、アスカがそれなりに大きな荷物の包みを持って出て来た。
「ラッティーに似合いそうな服がちょうどありましたので予備も含めて買ってきました、あとブラシやタオルといった日用品もです。それと、マスターが忘れると困るので、一応シャーリーへのおみやげに、このあたりの海で採れたという貝をあしらった
さすが、アスカだ。よく気が付いてくれた。すっかりお
それに、ラッティーの服の予備か。そうだな。着替えは必要だ。俺だけなら絶対に思いつけなかったな。ほんとうによく気が付くヤツだ。
俺がうなずいたら、アスカが笑ったような気がした。気がしただけだ。
アスカから荷物を受け取りその場で収納したら、収納をあまり見たことがなかったのかラッティーは驚いていた。
「坊主頭のあんちゃん、あんちゃんはすごい商人なのか? いまのはアイテムバッグなんだろ? 俺は初めて近くで見た」
「まあ、商人ではないが、似たようなもんだ」
「ふーん。坊主頭だけど悪人には見えないからまあいいか」
「着替えもそろったことですし、お風呂屋さんに行きましょう」
「ほんとに俺も風呂に入るのか? 俺はいままで一度も風呂なんかに入ったことないぞ」
「ラッティー。心配しなくてもアスカがおまえの面倒を見てくれる。任せておけば間違いない」
「アスカ、俺のことを頼んだぞ」
「ラッティー、私のことはアスカさんと呼べ。マスターのことはショウタさんだ。いいな」
「うん。わかった」
「うん、じゃない。はい、だ」
「はい。アスカさん」
素直ないい子じゃないか。
「それで、アスカ、風呂屋はどっちだ?」
「こちらです」
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