第166話 商店街にて


 アスカと二人、商店街に入って店先みせさきに並ぶ商品をのぞきながら歩いた。この通りにはこの時間帯、馬車などは入ってこないようで、どの店も店先を大きく道路に張り出させて、自慢の商品を陳列ちんれつしている。八百屋、果物屋、乾物屋かんぶつや、雑貨屋に魚屋。肉屋はさすがに、通りには肉を並べていなかった。


 そういった商店の他に、喫茶店や食堂なども並んでいる。ようするに、むかしの日本の少し田舎の商店街のような雰囲気ふんいきだ。ハーフ・エルフと言っても、少しだけ耳が横長なだけのただの人だ。生活がそんなに変わっているはずないものな。


 料理人のゴーメイさんへのおみやげにと思い、目に付いた食材を、適当に買い歩いて行く。日本でも見たことがあるような食材がちらほら目に付いた。


 特に海産物関係の乾物だ。こちらの世界に召喚される前に食材などは全く興味がなかったので、実際のところ、よく似てるかも? といった程度で実は全く違うものかもしれない。


 期待値の大きな食材として、小魚こざかなを乾燥させたもの。用途を店の人に聞いたところ、スープの出汁だしに使うそうだ。まさに「ニボシ」だ。しかし、素人の悲しさでこれを「ニボシ」だと言い切れる自信はない。


 もう一つの期待の品は、海草を乾燥させたもの。大きくて黒い海藻かいそうを乾燥させて折りたたんだもので、表面に白い粉を吹いている。これは、「コンブ」じゃないか。用途を聞いて見るとやはり出汁を取るようだ。しかし、残念なことに、海苔のりに似たものは見つからなかった。


 えーい、面倒だ。そう思って、ものを大量に購入してしまった。


 その中には、醤油しょうゆっぽいものや、みりんぽいものもあった。どちらも調味料としてこの国では使われているそうだ。味噌みそっぽいものも見つけることができた。収納庫の中に入れておけば腐ることもないし無駄むだにはならないだろう。それに最近は、金回りもいいし、ちょっとくらいの贅沢ぜいたくもいいだろう。


 アスカも、珍しくなにやら買い物をしている。黄色っぽいものや、茶色っぽいものをそれなりの量買っている。何を買っているのかわからないが、ここは一般的な商店街だし、変なものではないだろう。渡されるまま、確認もせず適当に収納していった。



 そうやって買い物をしながら歩いていたら、買い物客と店の人との会話といったものでがやがやしていた通りに怒声どせいが響き、なにやら騒がしくなってきた。


 その声のした辺りを振り返って何事かと見ていたら、小さな袋を抱えた子どもがこちらに向かって駆けてくる。


 そのまま、俺たちの目の前を子どもが駆け抜けていったのだが、お世辞せじにも清潔とはいえない身なりだった。そして、その後を大声を上げながら、大の大人だいのおとなが追っかけて行った。


「アスカ、どう思う?」


「どうも、最初に駆けて行った子は、それを追いかけていた先ほどの男の持ち物をひったくって逃げていたようです」


「あんな、小さな子がひったくりか。親はいるんだろ?」


「おそらく、いまの子は孤児だと思います。生きるためにやむなく盗みを犯したのでしょう」


「そうなのか? この国じゃあ、孤児奴隷の制度はないのか?」


「そういった制度のある国はアデレート王国だけのようです。よく、アデレート王国に他国からやって来てわが子を捨てる人も多いそうです」


「それは、たまらんな」


「それでも、なんとかやりくりしているところは、さすがにリリアナ殿下の父王がすぐれた王さまで、それを支える、リーシュ宰相以下の官僚団が優れているからでしょう」


「ふーん。政治のことはよくわからないけれど、やっぱりアデレート王国はすごい国なんだな」


「そのようです。少なくとも、この大陸では一番安定した国のようです」


「ところでどうする? ああいうのを見てしまうとな、何とかしてやりたくなってしまうんだが」


「今の感じですと、あの子は無事に逃げおおせるとおもいますが、マスターはどうしたいのですか?」


「そうだなー。先回りしてその子を捕まえて改心かいしんさせるか」


「マスター、そういった子供はおそらくですが心もすさんでいると思います。そんな子を改心させることは至難しなんわざになると思います」


「とはいえ、見捨てられないだろ? まあ、やってみようじゃないか」


「マスターなら、そう言うと思っていました。その先もだいたい予想済みです」


「予想済み?」


「いえ、今のは忘れてください」


 俺の何を予想したのかは知らんが、アスカのヤツ、イッチョ前に俺を試したのか? ずいぶん、アスカも偉くなったものだ。いや、もとからこうだったような気もする。もう思い出せないな。


「それじゃあ、行くぞ」


「はい。マスター」



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