第159話 ハムネア脱出3


 本心はどうだかわからないが、何とかアリシア殿下と侍女のハンナさんが変身セットを身に着けてくれた。


 思った通りこの二人、なかなか似合っている。こうなると、まさに宝ジェ〇ヌだ。これはいい。後ろにヒラヒラの羽根でも付ければなおよい。この姿を写真に記録しておきたい。どこかにカメラないかな。


「それでは準備もできたようですし、ギルドを出て近くの外壁から脱出しましょう。ギルドを出るまでは、そのままの格好かっこうでいてください。ギルドを出てしまえば、私とアスカで何とかしますから大丈夫だいじょうぶです。ソニアさん、われわれがギルドを出たら後はよろしくお願いします」


「わかった。くれぐれも殿下のことを頼む」


「了解しました。それでは、お二人とも急ぎましょう」



 アスカ以外の三人は階段をギルマスの部屋まで上ると思っていたようだが、この日のためにちゃんと一階に出入り口を作ってあるのだ。


 後ろからついて来ているギルマスのソニアさんを振り向くと微妙な顔をしている。何か言いたそうな顔をしているがここは知らん顔作戦だ。


「こんなところにあながあいている!」


 ハンナさんがこの程度のことで驚くものだから、知らん顔はできないらしい。


「みなさん、今は殿下の脱出が最優先です。細かいことは気にせず急ぎましょう」


 細かいことかどうかの判断は人それぞれ。今はこれで良し。ここの修理代は必要経費と思ってもらおう。


「殿下、ギルドの酒場では多くの者たちがいますので、そちらにお顔を向けないようにして出口へ急ぎましょう」


 二人がうなずいたのを確認し、アスカの作った壁の孔を潜り抜けた。


 孔の外には、先ほどついて来てくれたギルドの職員さんが俺の言ったことを守って律義りちぎに待ってくれていた。ギルマスのソニアさんを見て何か言いたそうだったが、アリシア殿下と侍女のハンナさんの変身姿を見て固まってしまったようだ。おとなしくしてもらう分には問題ない。こんなところにも、マスカレード仮面のご利益があったことが団長として素直に誇らしい。


 アスカと俺が受付カウンターから外に出ると、酒場の方の騒ぎが一気に止んだ。何かあったのかと思いそちらを見るとそこにいた連中が露骨ろこつに顔をそむけた。そんなに脅した覚えはないのだが、みんな触らぬ神にたたりなしとでも思っているのだろうか。どうも失礼な連中である。それでも好都合ではあるので、そのまま出口まで急いだ。


「ソニアさん、いままでかくまってくれてありがとう」「ありがとうございます」


「めっそうもありません。お二人ともご無事で。コダマ殿、エンダー殿、くれぐれも殿下たちおふたりをよろしくお願いします」


「殿下たちのことは任せてください。それではソニアさん、失礼します」


 そう言って、ソニアさんを残しギルドの外に出た。




 ギルドの扉の近くに見回りがいないことはミニマップで確認済みなのでさっそく帝都からの脱出開始だ。


「殿下、失礼します。アスカはハンナさんを頼む」


 そう言って有無を言わさず、俺は小柄なアリシア殿下をお姫さま抱っこした。アスカもすぐにハンナさんをお姫さま抱っこしたので、


「舌をかまないよう口は閉じていてください」


 そう注意したのだが、走り始めたとたん、やはり声は漏れてしまうようで、


「ひょえー」「ふえー」


 何だかお姫さまらしからぬ声を上げる二人を抱いて、夜の帝都をひた走るアスカと俺。時速40キロは無理だが30キロ近くで走っている。なるべく揺れないように駆けているのだが、どうしても少しは揺れてしまう。そこは勘弁かんべんしていただくしかない。


 女性の体をこのような形で抱っこしたのは初めてだがアリシア殿下の体が非常に柔らかい。しかもいい匂いがする。女性の体はこんなにも柔らかくていい匂いがするものなのかと感動しながら走ったのだが、見回りを避けながら走ったにもかかわらずすぐに外壁が見えて来た。もうちょっとこのまま走りたかったが止むをえまい。


「アスカ、この辺でいいか?」


「マスター、もう少し走り回った方が良くありませんか? どうせ見回りに見つかっても蹴散らせばいいだけですから、このあたりを駆け回っている分には問題ありません」


 以心伝心いしんでんしんのアスカの提案はうれしいが、ここは我慢がまんしよう。


 ミニマップで見たところ、ここの外壁の先は草地になっているようで、十分な広さがある。そこでなら『スカイ・レイ』を出すことができる。


「アスカ、そこの先の外壁をくり抜こう」


「はい、マスター。……できました」


『収納!』


 暗がりなので、はっきりとは見えないが、外壁の中にちゃんと通路ができ上がった。


 二人を降ろし、


「アスカが先頭で、ハンナさん、アリシア殿下、私の順で孔を潜り抜けます、ハンナさんはアスカの後に付いて、殿下はハンナさんの後に付いて行ってください。暗いので足元に注意してください」


 大分夜目に慣れてきているので大丈夫とは思うが、星明りしかないので足元が暗い。長さ5メートルほどの孔だが、中に入ると真っ暗だ。


「マスター、ここはマスターのファイヤーの出番では?」


 仕方がない。いままでほとんど出番のなかった呪文はこっそり口の中で唱え指先『ファイアー』で足元を照らした。


 少しの明かりでも真っ暗な中だと有効のようで、全員つまずくこともなく外壁の外に出ることができた。抜き取った孔の部分は忘れずに元に戻してやった。


「すぐに『スカイ・レイ』を出す」


『排出!』


 いきなり目の前に現れた『スカイ・レイ』を見て、二人はかなり驚いたようだが、今は急いでもらおう。


「アスカ!」


 アスカがすぐにタラップを下げ、すぐに艇内に入っていき操縦席に座って発進準備を始めた。俺も二人をせかして、一緒にスカイ・レイに乗り込む。


「お二人は、このあたりのシートにお座りください。これから飛空艇は空を飛びますから、落ち着くまでは席から立ち上がらないようにお願いします」


 二人が頷いたのを確認し、俺も助手席についた。


「マスター、発進準備完了しました」


「良し、『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」」


 こうして、なんとか無事、殿下の脱出は成功した。


 まあ、帰るまでが遠足だ。最後まで気を引き締めて行こう。



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