第142話 マスカレードイエロー始動


『ダンジョンガラス』を手に入れて、ボルツさんの新工房の横の空き地に『スカイ・レイ』を降ろしたら、午後一時。休憩を終えたボルツさんたちが昼からの仕事に取り掛かるところだった。アスカと俺は、『スカイ・レイ』の中で早めの昼を済ませている。



 さっそくお土産みやげの『ダンジョンガラス』をボルツさんに見てもらう。五十センチ角にしたものでも結構重いし、切り取った面は鋭いので、俺が手で持っている。


「これがお土産か?」


 ボルツさんはそういって、手の甲で軽くコツコツと『ダンジョンガラス』をたたいてみて、


「硬そうやな」


「ハンマー程度じゃ壊れませんよ」


「ほんまかー? よっしゃ、そこに立てかけて置いてーな。そこのハンマーでたたいてみるわ」


 新工房の柱に立てかけて置いた『ダンジョンガラス』に、両手に持ったハンマーを振り上げて、思いっきり振り下ろすボルツさん。 


 小柄なボルツさんが意外と力持ちなのでびっくりしたが、立てかけていた『ダンジョンガラス』の方は、ゴン! と鈍い音を立てたあと、ずれて倒れただけだった。


 その代り、反動が持ち手に来たボルツさんはハンマーを投げ出して手をフルフルしている。


「痛ったー! なんや、これガラスとちゃうん? 相変わらず、とんでもないもん持ってくるなー。これなら窓以外にも使えるかも知れんな。もうちょっと軽ければ文句なしやったな。まあ、こんどの加速器は出力も上がっとるし問題ないやろ」


「アハハ! 量が必要ですから、今回はこれで行きましょう」


 ボルツさんはよっぽど手が痛かったのかいまだにフルフル手を振っている。



 新しい飛空艇用の透明素材も手に入り、次は、操縦士と乗務員。操縦には、アスカ以外だと、正副操縦士二名が必要なので、予備人員も考えれば、二人×二組で、四名必要だ。二組いればローテーションもできて便利だ。何分なにぶん新しい仕事なので、物覚えが良くで手先の器用な人を探す必要がある。


「そういうことなんで、アスカ、奴隷屋さんがどこにあるか分かるかい?」


 知ってること前提に聞いてるんだけどね。


「それでしたら、キルンのハットン商会の親会社にあたるハットン商会本店があります」


「ふーん。じゃあ、そこに行って見ようか。商業ギルドのリストさんたちもそうだし、冒険者ギルドのギリガンさんたちもそうだけど、王都とキルンは妙な結びつきがあるな」


「その方が分かりやすいですから」


 何が分かりやすいのかは、俺は知らんよ。




 さっそく、二人で駆けてやって来た王都の奴隷屋さん。アスカの説明だとハットン商会本店の店長は、キルンのハットン商会のハットンさんのお兄さんだそうだ。 


 善良そうなおじさんで、見た目はキルンのハットンさんによく似ている。兄弟なら当たり前か。


「当店の店主をしております、ハットンと申します」


「Aランク冒険者をしています、ショウタといいます」「同じくアスカです」 


 対外的に自己紹介するときは冒険者でいくことにしている。子爵などというと、妙に委縮いしゅくされたら嫌だからだ。とはいえ、今までそんな経験ないんだけどね。


「これは、これは。うわさのショタアスのお二人でしたか。それとも、コダマ子爵閣下とエンダー子爵閣下とお呼びしましょうか?」


「ショウタでお願いします」「アスカで」 


 俺たちの名前も結構王都で売れてきたみたいだ。あれだけ人様を騒がせてたらそうなるか。


「それでは、ショウタさまと、アスカさま。今日はどのような奴隷をご希望ですか?」



「物覚えの良さそうで、手先の器用な人が何人か欲しいんですけど。年齢は十三歳から十五歳くらいまでかな 男女だんじょは問いません」


 ハットンさんが後ろに控えていた店の人にうなずくと、店の人はいったんわれわれのいる広めの部屋から奥に入り、しばらくして四人の奴隷を連れて来た。


「当店に在籍しております奴隷で、お客さまのご要望ようぼうに合う奴隷はこの四名になります」


 キルンの奴隷屋さんでシャーリーの着ていたのと同じような貫頭衣かんとういを着た女の子が四人。体はやや細いが、不健康そうには見えない。みんな可愛い女の子だった。


「右から順に、リディア、年齢は十五歳、値段は金貨七枚。エカテリーナ十五歳、これも値段は金貨七枚。アメリア十四歳、金貨六枚。マリナ十四歳、金貨六枚。となります」




「それではリディアから自己紹介を」


「はい。リディア十五歳。得意なことは読み書き計算と、走ることです」


 この子は即採用そくさいようだ。いや即買いだ。


「エカテリーナと申します。十五歳です。得意なことは、リディアと同じ読み書き計算と、走ることです」


 この子も即買いだ。


「アメリア十四歳です。得意なことは、読み書き計算と、走ることです」


 うん? 何だかみんな一緒?


「マリナです。十四歳です。得意なことは、みんなと同じ読み書き計算と、走ることです」 


 いやー、これはハットンさんに一本取られました。俺たちのことは調査済みだったらしい。参りました。さすがは王都で奴隷商を営み、キルンまで進出してる店の主人は只者ただものじゃない。


「分かりました。ご苦労さま」


 俺がそういうと、店の人に連れられ四人が店の奥の方に戻って行った。


「ショウタさまいかがでしたか?」


 にこにこ笑顔でハットンさんが俺に聞いて来る。


「四名全員購入します」


「かしこまりました。それでは、四人には支度したくをさせますのでしばらくお待ちください」


 代金の金貨二十六枚を大金貨三枚で支払い、金貨四枚をお釣りでもらった。契約書にサインをして、取引は無事終了した。


 例の奴隷ぬしの心得のようなものをハットンさんから聞いて四人の支度を待っていると、四人ともが小さな布袋を持って戻って来た。


 四人揃って、


「ご主人様、これから、よろしくお願いします」


「はい。こちらこそよろしく」「よろしく」


「さっそくだけど、これから、みんなの日用品や着替えを買いに行こう」


「それじゃ、ハットンさん、さようなら」


「ショウタさま、アスカさま。ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」 


 そういって頭を下げているハットンさんを残し、俺たちは表に出て、四人のこれから必要になるものの買い出しに出かけた。



 なぜか最初に向かったのは、例の魔道具屋である。


「この黄色い帽子と、黄色い仮面を四つずつください」 


 黄色い帽子と、黄色い仮面は実はもう買って準備していたのだが、近くを通ると、予備も必要だなと思いつきふらふらと店の中に入ってしまっていた。この店そのものが魔道具の可能性もあるな。


 後ろについてきた四人は何だかよくわかってない顔をしてるけど、そのうち分かるから安心していいよ。 


 あれ、アスカは横向いてるよ。シロー用のレベル1の魔石はまだたくさんあるので今回は買わなかった。


「次は、日用品と衣料品いりょうひんだな。アスカがいつも買ってる店でいいだろ」


 このまえ、シローのブラシを買った女性用用品店に行くことにした。アスカが四人を連れて店の中に入って行き、俺は中に入りにくいので、店の前で待つことに。 


 この前のシローのブラシと違いそれなりの金額が必要と思い、アスカにお金の入った小袋を渡した。考えたら、今まで俺はアスカに銅貨一枚も渡してなかったような。いやちょっとくらい渡してたかな? どちらにせよ、アスカが俺に遠慮えんりょするはずないから、必要なら言うだろ。


 五人が出てくるまで、結構な時間待たされた。みんな大きな包みを抱えている。最初に四人が持っていた布袋はアスカがまとめて持ってやっているらしい。


「みんな、俺が荷物を収納してやるから」


 すぐに四人の荷物とアスカの持った荷物を収納してやった。驚いた四人の目はスルーでいいな。


「だいたい、必要なものはこの店でそろったか?」


 今回もみんな揃って、


「はい。ご主人さま、ありがとうございます!」


 元気なことは、良いことだ。






[あとがき]

応援、フォロー、☆、感想等まことにありがとうございます。

みなさまの反応に気を良くした結果、なろうから転載中の本作ですが、ヨシュア存命等、内容を多少変えてしまいました。それに伴い本作オリジナルのエピソードも増えていく予定ですのでよろしくお願いします。

2020年6月3日

上に関連して、エンディングも変更になりそうです。

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