第129話 確認飛行2


 そんなこんなで、確認飛行という名の遊覧ゆうらん飛行当日。



 シャーリーの友だちのエメルダさんは、北方諸王国群のなかのある王国からの留学中のため、飛空艇に乗ることの了承りょうしょうを彼女の両親からは得られなかったが、一緒に住んでいる侍女じじょが了承してくれたそうで、けさ早くから『ナイツオブダイヤモンド』に来ている。エメルダさんのうちは侍女のいる家らしい。まだボルツさんのところに行くには早いので、リビングでくつろいでいるところだ。


 要所ようしょを飾る白いレースと光沢こうたくのある濃い緑色の生地で高級感あふれるワンピースを着たエメルダ・ルマーニ。彼女の頭には、とても帽子の役目は果たしていないと思われる、真っ赤な色をした小さな山高帽やまたかぼうが斜めにちょこんと乗ってピンで留められている。

 

 リアル縦ロールお嬢さまには俺もさすがに驚いた。彼女の豪華ごうかさは誰にも負けないが、胸の方はシャーリーと類友るいともだった。まだ十二、三。望み無きにしも非ずかのうせいだけはある



「ルマーニさん、まだ時間が有りますから、お茶でも飲んで時間をつぶしましょう」


「コダマ子爵さま、私のことはエメルダと呼んでください」


「それじゃあ、私のことは、ショウタでお願いします」「わたしはアスカで」


「それではショウタさんとアスカさん。シャーリーさんに以前エリクシールって白く光ってるすごくきれいなお薬だとうかがったんですが?」


「見てみますか? これがエリクシールです。作るのはそれなりに面倒ですが、材料はいくらでもありますからそんな大したものじゃありません」


 エリクシールを収納から一本取り出し、エメルダさんに手渡した。


「これが、エリクシール。白く輝いてますわ。学校のみんなにもそうですが故郷こきょうのみんなにも自慢じまんできます」 


 うっとりとした顔で手に持ったエリクシールを眺めている。


 すぐに返してくれとは、言えない雰囲気になってしまった。


「そろそろいい時間なので、したりて馬車に乗りましょう」


 その言葉で、はっとわれに返ったエメルダさんにエリクシールを返してもらい。みんなでそろって馬車の待つ一階に下りて行った。



 車寄くるまよせで待たせていた箱馬車に乗り、ボルツさんのガレージに向かう。御者の人はいつもの人なので、行く先を告げるだけで馬車は走り出した。


 ボルツ邸の屋敷跡地にはすでに砂利じゃりが運びこまれ、きれいに整地された上、土台の建設が始まっていた。各所に打ち込まれたくいには糸が張ってありこれから建つ建屋の輪郭りんかくを示している。今日も資材を運ぶ荷車がひっきりなしに出入りして大勢の人が朝早くから働いていた。


 その先で飛行準備を済ませた『スカイ・レイ』の前に立つボルツさんたちに挨拶あいさつする。


「ボルツさん、みなさん、おはようございます」「おはようございます」……


「今日は、シャーリーのほかにシャーリーの友だちのエメルダさんを連れてきました」


「エメルダです。よろしくお願いします」


「エメルダちゃん、すっごくお嬢さましとんな。わたしはボルツや、よろしゅうな。それじゃあ、ショウタさん、『スカイ・レイ』の整備は完璧かんぺきや、さっそくみんなで乗り込もうな」


 みんなでぞろぞろと『スカイ・レイ』のお尻にある短いタラップをのぼり、それぞれ座席に着く。


 アスカが正操縦士席、その右の副操縦士席が俺、シャーリーとエメルダさんが並んで俺の後ろ、ボルツさん達三人がアスカの後ろに並んだ座席に着いた。


「上昇中は席から動かないでください」 


 別に危険ではないと思うがお約束なので、一応注意しておく。


 みんなが席に着いたのを確認し、お待ちかね、



「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」


 アスカの復唱ふくしょう。足元の床がわずかに振動しているのが分かる。


 噴気音ふんきおんとどろかせ、南向きに着陸していた『スカイ・レイ』が上昇して行く。南の山並みが遠くに見える。 



「高度千、水平飛行に移ります」


『スカイ・レイ』がゆっくり前に進み始めた。


「速度、二百五十で安定」



「皆さん、もう立ち上がっても大丈夫ですよ」 


 そう言うと、みんな立ち上がって左舷さげんに三つあるキャノピーに集まって、その先に見える王都と、セントラル湾を見て息をのんでいる。


 シャーリーが座席から動かないエメルダさんを心配して


「エメルダさん、具合が悪いんですか?」


「シャーリーさん。何だか久しぶりに馬車酔ばしゃよいになったみたいな感じで。でも目をつぶっていれば大丈夫だいじょうぶですから」


 俺も気付いて、エメルダさんの席に行くと、座席に座って目を閉じている。顔色も少し悪いような気がする。 


 乗り物酔いだとかだとキュアポイズンが効きそうだから「キュアポイズン、 ランク3」を渡しておいた。


「これを飲めば多分気分が良くなると思うよ」 


 ポーションを受けとってすぐにそれを飲んだエメルダさんも、


「ポーションを飲んだら何だか、すっきりしましたわ。ありがとうございます」 


 具合ぐあいが良くなって、少し顔を赤らめたエメルダさんに礼を言われた。フラグでも立ててしまったかな? と思ったのだが、すぐにシャーリーと外の景色を見ながらおしゃべりを始めてしまった。フラグはまぼろしだったみたいだ。



「アスカ、予定もないし、どうせだからこのまま、キルンの方まで行って見るか?」


「そうですね、ここからですとキルンまで五百キロですから、昼前には到着します。着陸場所はどのあたりにしますか?」


街中まちなかに降りるのは、まずそうだから、南門の近くにするか。あそこなら草地だし、街道を通ってる人も他の門と比べて少なそうだからな」


「了解しました」


 俺は、スチュワードよろしく、収納からキルンの家で使っていたワゴンを取り出し、飲み物の入ったコップを並べみんなに配って歩く。


 最近はスチュワードもスチュワーデスもひっくるめてキャビンアテンダントというらしいが、日本人的にはしっくりこない。本当はスチュワードのことだって男のスチュワーデスって言った方がよくわかると思うけどどうかな?


「お飲み物はいかがですか?」


「はいいただきます」


「どうぞ。飲み終わったコップは後で回収しますのでよろしくお願いします」 


 まんま男のスチュワーデスやってみました。


 ボルツさんたちは、左右両舷りょうげんとも山並やまなみと空しか見えない景色に飽きたのか、操縦席のアスカの後ろに立って、アスカと今後の改善点かいぜんてんのようなものを話し合っていた。





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