第125話 ボルツ新工房1


 俺は最近になって知ったのだが『飛空艇の建造を一時中断していたタチアナ・ボルツが資金援助を受け、ついに飛空艇を完成させた』と、王都では話題になっていたらしい。


 何度かボルツ邸から飛び上がってゆく飛空艇の姿が目撃されている以上仕方のないことだと思う。そのせいで、いろいろな商会や、国関係、騎士団などからも問い合わせに人がボルツさんのところにやってくるようになり、仕事が邪魔じゃまされるようになってきたそうだ。


 とりあえずの対応として、今ある飛空艇は、リリアナ殿下をエリクシールで救ったコダマ子爵が所有しているもので、新しく開発する飛空艇もその予定であるというと、問い合わせにやって来た人たちも納得してくれたようで、作業の妨げになるほどではなくなったそうだ。

 

 特に商会関連については、商業ギルドから各商会にコダマ子爵関連の事柄に個別に折衝せっしょうは避けるよう指示が出たようで、それ以来商会関係の人がボルツ邸を訪れることはなくなったようだ。


 騎士団の方は、騎士団のギリガン総長から飛空艇のことは当面諦めるよう指示が出たらしい。


 そういった、引き合い?っぽいところがあるのなら、これは、事業になるんじゃないかと高校生実業家の俺は考えたわけだ。


 事業としていくには、飛空艇の生産体制の強化が必要になる。


「ボルツさん、十一月には私たちの屋敷が完成するんですが、そっちに引っ越して一緒に住みませんか? それで、ここを一大作業場にしません? 次の2号機は『スカイ・レイ』より大型になるわけですから、今のままのガレージだと手狭てぜまだと思うんですよ。それで、ボルツ工房とか看板かんばんかければいいんじゃないですか?」


「そうやなー、今も屋敷の方に住んどるわけでもなし、作業場の中に今みたいにちょっとした住むとこさえあればええんやからな。けど、引っ越すのはどーもなー。ショウタさんの屋敷に住むのはなしやけど、屋敷の方は取り壊して新しゅう作業場を作るのはええかも知れんな。……よっしゃ、決めた。そうしょ」


「わかりました。それならアスカと私で、今の屋敷はすぐに取り壊せますよ。屋敷の中のもので必要なものを指示してもらえば、全部収納してしまいますから」


「あんたの収納、ほんまにすごすぎやわ。『スカイ・レイ』は今、乾燥かんそう待ちやさかい、今から取り掛かってもええか?」


「それじゃあ、いっしょに行って、ちゃっちゃと大事なものを収納していきましょう」



 ボルツさんと一緒に屋敷の中を見渡して歩いたが、結局、家具と木箱を数点収納しただけで、作業は終わってしまった。金目かねめのもので手で持てるような物はすでに粗方あらかた売り払ってしまっていたそうだ。


 いったん屋敷の外に出て、


「ボルツさん、屋敷をこのまま収納しちゃいます。一気に行きますからびっくりしないでくださいね。そっちの二人も少し下がっててください」


 手伝いの二人も仕事の手を休めこっちに来ていたので、少し離れるよう注意しておく。


「もう任せたよって。ショウタさんの好きにしてええわ」


 状況が状況なら男子高校生が反応するような言葉をボルツさんからいただいた。


『収納!』


 びっくりするなと言われても、目の前の屋敷が土台を残して消えればびっくりするよな。


 ボルツさんと手伝いの二人のくちアングリが面白いようにそろっていた。


「アスカ、屋敷の土台を壊して、きれいに整地できるか?」


「土台を壊すのは簡単ですが、私では、整地は難しいと思います。マスター、砂虫の輪切りを取り出して、それを転がしたらどうでしょう」


 言っているはしから、アスカによって屋敷の土台が粉々になってゆく。


「それじゃあ、端っこの方に輪切りを出すから、アスカが転がしてくれ」


「はい。マスター」


 屋敷の土台のあった場所の隅の方に砂虫の輪切りを出す。幅十メートル、高さ十数メートルの砂虫の輪切りでできたローラーをアスカが器用に転がし、整地が進んでいく。これはなかなか。


 かなり効率のよい整地方法せいちほうほうだ。二回ほど繰り返して砂虫ローラーを転がし整地作業をしたら若干土地がくぼんでしまった。あんまり変なものを王都内で見せびらかすのも良くないので、作業後はすぐに輪切りは収納した。


 ボルツさんたち三人のくちアングリは継続中である。


「ボルツさん! ボルツさん!」


「はっ!」


 やっと三人が再起動してくれた。


「整地は終わりましたから、後は業者を入れて、新工房の設計ですね。ボルツさん、建築業者のあてが無いようなら私の方で業者を手配できますが」


「そうなん? それならショウタさんに頼むわ」


「あしたでも来てもらって、設計を含めて見積もってもらいましょう」


「そうやな、頼むわ」


「それじゃあ、われわれは帰って業者の手配をしてきます」


 そう言って、俺とアスカはボルツさんを残し、『ナイツオブダイヤモンド』にいったん戻ることにした。





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