第124話 スカイ・レイ改修


 アスカと俺はドラゴンをってくるという目的を達成し、一気にヤシマダンジョンの50層から1層まで駆け上がった。そして、その勢いのままシャーリーの待つ王都の『ナイツオブダイヤモンド』まで駆け戻った。



「アスカ、今何時だ」


「午前七時三十分ですから、まだシャーリーは部屋にいると思います」


昨日きのうは日曜で、一人でさびしい思いをしてたんだろうから、学校に行く前に間に合ってよかった」


『ナイツオブダイヤモンド』のカウンターに立ち寄り、支配人さんにわれわれが帰って来たことを伝えた。


 がやがやとアスカと喋りながら、スイートのドアを開けると、制服に着替えたシャーリーが迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。ご主人さま。お帰りなさい、アスカさん」


 久しぶりに聞いたよ。


「ただいま、シャーリー」「ただいま」


「お茶の用意をしますからお待ちください」


「シャーリー、もう学校だろ? アスカと俺はけさ何も食べてないから、一緒に下のレストランに行こう。そこでシャーリーはお茶でも飲んで迎えの馬車を待ってればいいよ。荷物を忘れないようにな。それじゃ、行こうか」



『ナイツオブダイヤモンド』の一階にあるレストランに行き、アスカと俺は朝食メニューを、シャーリーは紅茶を頼んだ。


 ちょうど食べ終わったころ、シャーリーを迎えに来た馬車が到着したので、エントランスの先の車寄くるまよせで見送り、俺たちはいったん部屋に引き上げた。俺は少し疲れが出てきたようなので、風呂にも入らずそのままベッドに直行して昼まで寝ることにした。



 昼過ぎまで寝ていた俺は、そろそろ起きようと思い目を覚ます。


 次にすることは、ドラゴンの目ん玉から、堅い表面の角膜を引っぺがして、『スカイ・レイ』の展望窓キャノピーに加工することだ。 ドラゴンの大きさなら何とかボルツさんのところでも出せそうかと思ったが、ボルツさんのご近所を驚かせては問題が起きそうなので、以前砂虫の皮をいだ川原かわらに行くことにした。ついでに飛空艇用の砂虫の皮も補充ほじゅうしようと思う。


 三十分ほどで川岸に着いたが、人目があったので、十分ほどかけて人目のない川原まで川岸をのぼった。


「アスカ。最初に砂虫の輪切りを出すから、先に砂虫の皮を補充してしまおう」


「はい。マスター」


 前回同様、砂虫の真ん中あたりの胴体を排出した。砂虫の前の方三分の一には、口から入った砂を排出するためと思われるスリットが何カ所も入っていたので、飛空艇用の素材にするのに適さないようだ。


 出した砂虫の輪切りから、すぐに砂虫の皮ががれ落ち、輪切りがごろりと半回転して皮のカーペットができ上がった。肉の部分を収納したら、アスカはすでに皮のカーペットの薄切りも完了したようなので、それも収納。慣れたものである。


「次はドラゴンを出すからな」


 六匹収納したドラゴンは全て同じ大きさのレッドドラゴンだったので、適当に選んだドラゴンを排出した。そいつは最初に寝たまま魔石を抜かれたドラゴンだったようで、目をつむったまま死んでいた。


「目をつむってて、やりにくそうだな、どうする?」


まぶたを切り取って、角膜かくまくを取り外しましょう」


「角膜を取り外したら目ん玉はどうなるんだろうな。目ん玉がドロリってことはないよな?」


「別にそのままだと思いますが、やってみればいいでしょう」


「じゃあ、アスカ、やってくれ」


「はい。マスター」


 スパッ! とまぶたが切り取られて現れたドラゴンの目は明後日あさっての方を向いていた。意外と大きく、少しグロいが大したことはない。


 すぐにアスカが髪の毛で角膜を丸く切り取ったが、ドラゴンの目はドロリと崩れだすことはなかった。

 

 切り取られたドラゴンの角膜は、直径五十センチほどで真ん中が膨らんだ円板まるいたで、これならいいキャノピーにできそうだ。軽く水洗いして干しておけば何とかなるだろう。 


「次行くぞ」


 切り取ったまぶたと角膜とドラゴンを一緒に収納し、次のドラゴンを排出する。


 次のドラゴンは、目をいていたので、そのまま角膜を切り取ることが出来た。角膜の大きさは、一匹目と全く同じだった。


 ボスモンスターはクローン養殖ようしょくでもしてるのかな? 三匹目以降も二匹目と同様目を剝いていてくれたためすぐに作業は終了し、十二枚のドラゴンの角膜が手に入った。



「アスカ、お疲れ。それじゃあ、ボルツさんのところに行くか。後は乾かしてみて透明度とうめいどが落ちなきゃいいな」


 一応適当にねぎらっておけば、いいだろう。




 先ほど切り取ったドラゴンの角膜をボルツさんのガレージの隅に並べて置いたところ、手伝いの二人もやって来て眺めている。


「これがドラゴンの角膜かいな。あんたらいっつも、えらいもん持ってくんなー。乾かしてみて、このまま透明やったらキャノピーにバッチリやな。操縦席前に四枚、本体上面に一枚、胴体左右に各三枚、後ろのタラップの上に一枚。こんなところかなー。乾かしてみてキャノピーに使えると分ったら『スカイ・レイ』の外板を丸く繰り抜くのをアスカさん頼むでー」




 翌日。馬車で登校するシャーリーを見送った後、すぐにボルツさんのガレージに行く。


「ショウタさん、アスカさんおはよう」「「おはようございます」」


「ボルツさんおはようござます。皆さんもおはようございます」「おはよう」


 最近は、ボルツさんの屋敷の裏の道からガレージに直接うかがうようにしている。


「どうです? ドラゴンの角膜。キャノピーにできそうですか?」


 さっそく聞いてみる。


「ええ塩梅あんばいや。全然くもっとらんよ。厚さの方もほとんど変わっとらんようやな。十二分に行けるで。アスカさん、さっそくやけど、この図面の通り外板に穴をあけてくれへんか?」


 図面を受け取ったアスカがそれを一瞥し、すぐに作業に取り掛かった。


「今までのガラス製の前面キャノピーは取り外して、いまは、砂虫の皮を張って乾くの待っとるんよ。乾いたら、四カ所丸くくり抜いて、新しいキャノピーをはめることにするわ」


「ボルツさん、外板のき終わりました」


 話しているうちに作業が終わったようだ。手に丸く切り取り終えた八枚の外板を抱えてアスカが戻ってきた。


「それじゃ、ドラゴンの角膜をめて、砂虫テープで固定してくる。砂虫テープえろー便利やなー」


 それは良かった。


「アスカさん、午後になったら、前面に張った砂虫の皮もそれなり硬うなるやろうから、さっきの図面通り四カ所アナあけてな」


「はい。ボルツさん」


 アスカに任せておけば大丈夫。



 アスカは疲れ知らずだからいいが、ボルツさんがあの小さな体で独楽鼠こまねずみのように働く姿に感動するな。


 いつも手が空いている俺は、いったん手のいたアスカを連れ、みんなが働いている中、昼食の準備でもしようとボルツさんの台所を借りることにした。


 食材は、キルンの借家から王都に向かうときに家にあったものをそのまま全部収納して持ち歩いているため、野菜や肉などそれなりに持っている。台所に入り、食材を並べていると後ろからアスカが、


「マスター、何をするつもりですか?」


「ちょっと時間があるから、みんなの昼食を俺が作ろうかと思ってるんだけど」


「マスター、やめませんか? みんなは『ナイツオブダイヤモンド』のお弁当を期待しているようなので、マスターの手作り料理がおいしくても、残念がると思いますよ」


 万が一とはなんだ、ほんとに失礼なヤツだ。


「わかった」


 広げた食材をもう一度収納することになった。



 昼時間になり、ご要望通り、みんなに『ナイツオブダイヤモンド』のお弁当を配った。みんなの嬉しそうな顔を見ると俺が昼食を作らなくてよかったんだと理解はできるが納得なっとくができない。責任者を呼んで来い! だれが責任者かなのかは知らんが。



 昼食を終え、短い休憩の後、さっそく前面キャノピー取り付け場所の砂虫の皮を切り取り終ってアスカが戻って来た。


「アスカさん、仕事速ようて助かるわ。すぐにドラゴンの角膜を取り付けるさかいな。

 ショウタさん、あしたの朝には、砂虫の皮もドラゴンの角膜もある程度安定する思うけど、余裕よゆうを見て明後日あさってやな、『スカイ・レイ』の改修かいしゅうが完了するのは」


明後日あさってが楽しみですねー」


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