第123話 ヤシマダンジョン6-50層 ドラゴン戦


 深夜になってしまったが、ドラゴンがいるという50層にりて行くことにした。周回しゅうかいしたいので、ドラゴンをたおしてから寝るほうが効率的と思ったからだ。


 階層ボスのドラゴンといっても、いつかの黒龍より弱いやつなんだろうと思うと気が緩んでしまう。


「気を引き締めて行くぞ!」


 両手で、自分の頬をたたき気合を入れる。


「はい。マスター!」


 アスカも気合が入ったか?


 階段を降りた先のボス部屋は、直径百メートルほどのドーム型の部屋で、天井は野球のフライでは届かないくらい高い。その部屋の真ん中に、赤っぽい色で、直径五、六メートルほどの物体があった。首と尻尾を丸めたドラゴンのようだ。俺たちが階段を下りてきたことに気付きづかないのか動きはない。このまま魔石を抜き取って収納してもいいが、寝てたらそのまま死んじゃったでは、ちょっとかわいそうなので、少し様子を見ることにした。


取りあえず、『鑑定』ぐらいしてやろう。


『レッドドラゴン』


レベル5相当。

物理防御力:50

魔法防御力:50


PA    165/165    


MP    380/380    

スタミナ  1300/1300    


体力    1180/1180    

精神力   120/120     

素早さ   70/70     

巧みさ   40/40


 普通だな。確かに20層にいたオーガ・ロードなどよりずいぶん強いのだろうが、どちらにせよ五十歩百歩。


「アスカ、どう思う? こいつ動かないんだけど」


「わたしたちを、十数年前ここに来た冒険者パーティー程度と見くびってるんじゃないですか? こういった低位のドラゴンは頭が悪いくせにプライド的なものでも持ってるんですかね」


「このまま魔石抜いちゃってもいいのかな?」


「バカは死んじゃったら直りませんが、そこのバカは案外直るかもしれませんよ」


「そんなことはないだろ。死んだらおしまいだよ。そんじゃ時間も押してるし、悪く思うなよ」


 『魔石奪取!』さらに『ドラゴン収納!』悪く思う間もなく収納されちゃったな。結局あのドラゴン寝てただけだった。俺たちの気合きあいは何だったんだろう。


「アスカどうする?」


「まずはそこに見えている宝箱をいただいて、それから考えましょう」


 ドラゴンをたおした後に出てきた宝箱は、金色で今までで一番豪華だった。ミニマップに黄色い×印が現れたところを見るとこの宝箱には罠があるようだ。


『鑑定!』


宝箱


罠:石化せきかの呪いLv4


内容物:「灼熱しゃくねつのマント」



「灼熱のマント」


レッドドラゴンの幼体ようたいの皮で作られた真っ赤なマント。

自身の体温を超える熱を遮断しゃだんする。



 おお、「灼熱のマント」


 良いじゃないか、これはマスカレードレッドの装備品だな。周回してたら、そのうちブルードラゴンが出てくるかもしれない。それで青いマントが手に入れば、マスカレードブルーに変身へんそうしたときマスカレードレッドとお揃いだ。


 あれ、アスカさん? どったの? 変な目で俺を見るなよ。アスカのヤツ、何か感じたかな?


「石化の呪いLv4とあるけど、俺の場合、Lv4までの呪いが無効だったはずだから宝箱をそのまま開けても大丈夫なんだよな?」


「石化といっても、即死そくしはないでしょうから、もしもの時のために、エリクシールを用意しておけば万全です」


「それもそうだ。アスカ、エリクシールを持っててくれ」


 あと二本あるエリクシールのうち一本をアスカに手渡しておく。


「それじゃ、開けるから、アスカは少し下がっていてくれ」


 宝箱の罠はテレポーターでりてるからなー。まあ、エリクシールもあるし大丈夫だろ。


 そっと宝箱を開けてみる。なにやら胸のあたりを掴まれたような気がしたがすぐに治まった。


 今のが呪いだったのかもしれない。手足を確認してみたが、どこも石になってはいないようで一安心。箱の中から真っ赤なマントを取り出しアスカを呼ぶ。


「アスカ、こっちへ来てくれ」


「仮面も帽子もけませんよ」


 チッ! 読まれてたか。


「ここにいたらリポップしないかもしれないから、さっき現れた階段を下りていって、リポップを待とう。下で軽く食事をしてひと眠りしたら、リポップしてるんじゃないか?」


「そうですね。そうしましょう」



 51層に下りて、階段のすぐそばに腰を下ろす。いつもの布を敷いて軽く食事を二人でとり、俺は毛布を数枚出して寝る準備をする。ミニマップを見るに周囲にはモンスターは今のところいないようだ。


「アスカ、俺は寝るから後は頼む。六時に起こしてくれ」


 五時間も寝れば十分だろう。ブルードラゴン、リポップしててくれよ。




「マスター、六時です」


 アスカに起こされた。夜遅く食事をしたので胃がもたれている。


「まだ食事はいいか。アスカは何か食べとくか?」


「いえ、必要ありません」


「それじゃあ、50層に戻って、リポップしてるか確認するか」




「いたぞ! だけどまたレッドドラゴンみたいだ。ハズレだ」



 ドラゴンをくじみたいに扱うショウタだった。



 結局六時間間隔で、あと四回周回してみたものの、リポップしたのは全てレッドドラゴンだった。


 計六個の宝箱の中から見つけたのは、寝坊助ねぼすけドラゴンの「灼熱しゃくねつのマント」を含め


「灼熱のマント」×3


「灼熱のブレーサー弓矢用のこて」×1


「灼熱のブーツ」×2


だった。


「灼熱のブレーサー」、「灼熱のブーツ」どちらも、レッドドラゴンの幼体の皮で作られたもので、効能も「自身の体温を超える熱を遮断しゃだんする」ということで、「灼熱のマント」と同じものだった。


「灼熱のブレーサー」なんか、腕に着けるとキリッ! としてカッコいいと思うぞ。


「アスカー」


「着ません」。そうですか。




「とりあえず、ドラゴンの目ん玉も六匹分十二個手に入ったから王都に帰ろうか」


「はい。シャーリーも心配ですから、急ぎましょう」



 それから俺は、来た道を全部覚えているアスカに先導され、一気にダンジョンの階層を駆けあがって行き、丸一日、二十四時間で1層まで走破してしまった。


 8層くらいからぼちぼち、ほかの冒険者にも出会うようになり、下の層から駆け上がって、駆け抜けていく私服姿のわれわれを見て何事かと驚いていたが、別にモンスターが後ろから追ってきているわけでもないので、最後にはほっとしていたようだ。



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