第120話 ヤシマダンジョン3-19層


 10層でボスゴブリンをたおして出て来た宝箱の中には『ゴブリンのふんどし』が入っていた。不要と思った『ゴブリンのふんどし』だが、貧乏性びんぼうしょうの俺は一応収納しておくことにした。 中身がなくなった宝箱は、次のボスのリポップに備え、しばらくするとダンジョンに飲み込まれてしまうそうだ。


 ボスをたおした後現れた11層への階段を下りると、いわゆる迷宮。薄暗く発光する謎石材でできた通路からなる迷路となった。


 周りには冒険者はいないらしい。さて、困った。とりあえず、まっすぐ進むか。ミニマップを見ると、モンスターは単体で迷路の中を徘徊はいかいしているようだ。


「アスカ、ミニマップの中の黄色い×印は何だと思う?」


 ミニマップの中に見慣れないマークが何個か見える。


「何らかの罠だと思います。見つけ次第、破壊しますから大丈夫です」


 やっぱり罠があるんだ。


 どこに12層への階段があるのかわからないので、このまままっすぐ行けるところまで行って見よう。


 さすがに罠のあるダンジョンでは走らない方が無難なので、走りはしなかったが、それでも速足はやあしで進む。たまに出会う罠は、すべて落とし穴で、近づく前にアスカが、落とし穴のふたを破壊してしまうので真ん中あたりに穴だけ開いた通路状態になる。それをよけながら、近づいて来るモンスターを魔石奪取からの収納コンボでたおしてゆく。出会うモンスターは、大きなムカデや蜘蛛くも。あまり近くで見たくはない虫類だった。それでもGが出るよりはましだ。


 二十分ほどまっすぐ進むと、前方に階段が見つかった。階段から階段まで直通してたようだ。何この親切設計。まあ、あんまり難解なんかいな迷路だと誰も下への階段に行きつけなくなるからこうなったんだろうな。 


 とは言うものの、11層に俺たち以外の冒険者の姿はなかった。10層を超えて下へ進むには、普通なら泊りがけの準備が必要となるので、生活がかかっている冒険者には無駄な出費も増えるし、時間当たりの収益性を考えると9層までで活動していれば十分なのだろう。


 キルンでもそうだったが、基本的にBランク以上の冒険者の数は非常に少ない。ほとんどの冒険者がDランク、良くてCランクの冒険者なのだ。よほどの変人でない限りBランク以上を目指すものはいない。キルンで斥候せっこう職をしていたBランク冒険者のゴランさんは希少きしょうな存在だったわけだ。


 12層から18層まで親切設計のおかげで、苦労もせず、19層へ。


 その間に出会ったモンスターは、相変わらずの虫系統。最初は単体でいたものが、層がくだるにつれて群れるようになり、15層あたりからは種類の違うモンスター同士でも群れてくるようになった。結果はどちらにしても一緒だったが、群れた虫はそれなりにグロい。見つけ次第、詳細が目に映る前に、収納まで完了してしまうよう心掛けた。



 途中13層で一度、男女二人ずつ四人組の冒険者のパーティーが三匹ほどの大蜘蛛おおぐもと戦っているとことに通りがかった。こういう場合は下手に手を出さない方が良いだろうとラノベ知識で判断し、少し離れた後ろの方で見学することにした。


「アスカ、前で戦っている連中をどう思う?」


「そうですね、戦っているつもりで武器を振り回してるんでしょうが、武器に振り回されてるようにしか見えません。武器を武器らしく振るうこともできないようなのでモンスターに挑むのはまだ早いんじゃないでしょうか」


 俺もそう思う。


 とにかく見てて危なっかしい。ほれ、前衛の一人が他の二匹と比べ一回り大きな蜘蛛に大剣で切り付けたところ軽くかわされた。大剣はそのまま床にたたきつけられ、その拍子で先端が折れて飛んでいってしまった。あらら。


 もう一人の前衛が、蜘蛛くも威嚇いかくするように槍を突き出してくれたおかげで、大剣を持つ前衛が無事に引くことができたようだ。


 ここで、こちらを振り向いた一人に目が合った。


「撤退するぞ! ファイアーボールを打ち込んでくれ」


 短剣を持ったそいつが大きな声で仲間に合図する。


 短めの杖を持った魔術師らしき後衛が、ファイアーボールを三匹の蜘蛛の真ん中に撃ち込んだ。


 ファイアーボールは見た目は派手な魔法だったが威力不足だったようで、蜘蛛の方はひるんだだけで、大したダメージは受けなかったようだ。


「今だ!」


 その掛け声で、四人組が一斉に俺たちの方に走って来た。その後ろを三匹の大蜘蛛が追ってくる。


 見る間に、四人組が俺たちの前を走り抜けていった。最後に走り抜けていったファイアボールを撃った魔術師が去り際に、


「悪く思わないでね!」


 そういっていたが、俺たちの普段着姿を見て目をいていた。



「マスター。彼らは、モンスターが手に負えなくなって、われわれにモンスターをなすり付けて逃走したようです」


「ああ、そういうこと」


 なすり付けは本来禁止されるべき行為だが、命のかかった状況では仕方のないことだとは思う。しかしされた方は普通ならたまったもんじゃない。俺とアスカだから何とも思わないというか、あの連中で足止めされていた状況が解消されたので逆にありがたいくらいだった。


 しかし、ヤシマダンジョンの冒険者はレベルが低すぎるな。俺でも、八角棒で簡単にたおせそうな蜘蛛に苦戦してるんだもんな。


「私が鍛えたのですから、マスターは自分で思っている以上に強いんですよ」


 そうなのかなあ、全く自覚はないが、蜘蛛を見てチョロそうだと感じるくらいには強くなってるのか。


 八角棒を使っても良いが、蜘蛛の体がいつかの熊の頭のように爆散ばくさんすると困るので、いつものようにサクッと魔石をいただき、そのまま収納してやった。戦闘時間わずかにコンマ二秒。



 19層では、これまでの直進すればいいような造りではなく、階段を降りたら、すぐに二方向に分かれる分岐に出くわした。右に行くべきか左に行くべきか悩みどころだ。


「アスカ、どっちだと思う?」


「それは、もちろん左です」


「根拠は?」


「ありません」


 そこでキリッ! ってされても。


「マスター、前の二本のうちどちらかが20層への階段につながっているならば、どちらを選んでも先に進める可能性は二分の一。ですが、両方の道がつながっていれば、確率は100%です」


「それで?」


「現に、目の前の二本の道がここでつながっているわけですから、結局はどちらを選ぼうが先に進めるはずです」


「えっ! そうなの?」


「そうなのです。ただ、大回りになるかならないかの違いだけですから」


 そういわれればその通りだけど。なるべく大回りしたくないじゃん。

 

 わかったようなわからないようなアスカの解説を聞き、結局左を選んで進むことにした。進む先の罠を破壊し尽くし、出会うモンスターを瞬殺しゅんさつしながら進んでいった。これって、ダンジョン側から見ると俺たちはひどく迷惑な連中だよな。 


 そんなことを考えながら速足はやあしで進んでいると、マップの先に階段が見えて来た。


「マスター、ちゃんと階段がありましたね」


 ここで、ドヤ顔するか?


「そうだな、さすがはアスカ」


 とりあえず、持ち上げとけば問題ないだろ。


「階段前で、少し休んでから20層に下りて行こう」




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