第119話 ヤシマダンジョン2-10層


 ヤシマダンジョンの2層は、1層と同じく洞窟どうくつあみの目状に張り巡らされた構造らしいが、ここでも、迷いもなく進む冒険者達にくっ付いて、対向たいこうして出口を目指す大きな荷物を持った冒険者をけつつ、くだり階段を目指す。本当は、走って前に進みたいのだが、さすがにマナー違反だろうと思い、アスカと二人たらたらと歩いていた。



 3層に降りると、洞窟の色合いが、赤茶けて来た。3層は鉱石の採掘さいくつが行われている階層ということで、これまで一緒に進んできた冒険者のうち、多くの者が思い思いの方向に散っていった。


 次の4層も鉱石の採掘が行われている階層で、こちらは洞窟が全体的に黒ずんだ色合いだった。3層、4層とも鉱山化が進み、モンスターがポップすることがめったにないそうで、ポップした場合でも、水スライムと呼ばれる、つるはしで簡単にたおせるようなモンスターしかポップしないので危険度はかなり低い。


 3、4層で多くの冒険者が散ってしまい、5層への階段を目指す冒険者の数はだいぶ少なくなってきた。


 5層以下に潜る冒険者は、モンスターの素材採取が目的のため、それなりの防具や武器で身を固めている。間違っても普段着でぶらぶら歩いているものはいない。アスカも武器こそ双刀を腰の後ろでクロスしているが、普段着でスカート姿というダンジョンをなめ切った格好かっこうだったため、俺たちはかなり目立つ二人組だ。


「なんでか、妙に視線を感じるな。アスカはどうだ?」


「やはり、普段着ふだんぎでダンジョンに来ているのはわれわれだけのようですから、それで目立ってるのでは」


「そこまで目立ってるんなら、この際、マスカレード仮面で行くか?」


「マスター、お願いですから、それはやめましょう」


 初めてアスカから泣きが入った。


 5層に下りると、そこは、いわゆるフィールド型ダンジョン。かなり広い空洞の中。天井もかなり高いところにあり、その1部が明るく輝いて太陽の代わりをしているようだ。足元は草原。風まで吹いている。


「アスカ、ここはまた、すごいな。ダンジョンの中にこんな世界があるとは」


「ここの5層は、だいたい、直径十キロほどの円形の空洞らしいです。それらしい冒険者について行きましょう。あっちの方から大きな荷物を持って、こちらに歩いて来る人がいますから、多分その方向に歩いていく冒険者について行けば正解でしょう」


「そうみたいだな。それにしてもモンスターと出くわさないな。ミニマップの広域モードでも、赤い点は、少ししか見えないぞ」


「まだ、5層ですから」


「今何時になった?」


「午前十時です」


「そろそろ、人もまばらになって来たから、走るか? あっちに向かって走って行けば、下り階段もミニマップに映るだろ」


「はい、マスター」


 前方を、歩いている冒険者のパーティーを追い抜き、さらにそのまた先のパーティーをといった具合で、十分もしないうちに、ミニマップ上に、階段らしきものが現れた。


「この調子でどんどん行くぞ!」


「はい、マスター」




「とうとう、モンスターに一度も遭遇そうぐうせずに、10層に降りる階段に着いちゃったけどこんなんでいいのか?」


「ダンジョンも色々ですから。3層と4層の鉱石の採取でこのダンジョンは回ってるんじゃないですか?」


「どうでも良いか。さて、10層は一つの区切りだけど、ボスとかいるのかな?」


「10層はボス部屋のようです。10層に降りればそこがボス部屋です。その先に11層への階段があるはずです。何が出てくるかはわかりませんが、モンスターに確実に出会えますよ」


「10層に降りる前に、いい時間でもあるし、昼にするか?」


「いま、午後零時十五分です」


「1層から9層まで、8層降りるのに、三時間かかったわけか。これが早いのか遅いのか?」


 そう言いながら、ダンジョンのゆかに四角い布を敷き、サンドイッチと飲み物を出していく。


「マスターのクエストマーカーが出てくれれば早いんですけどね」


「そうだよなー。あれって出たり出なかったりで、いまいち仕様しようが分からん。クエストマーカーが今まで出たのは、冒険者ギルドで依頼を受けた時がほとんどだったな。クエストマーカーと冒険者ギルドに関係があるとは思わないけどな」


「それなら、マスターの高い『運』で何とかなるんじゃないですか?」


「そううまくいくかな?」


「さあ」


 なんだよ。『さあ』って。




「さて、そろそろ10層におりて、ボスとご対面するか」


「はい、マスター」



 少し緊張して、階段を降りると、体育館ほどの広さの石造りの部屋に出た、やや暗い。暗がりの中で、真ん中に立って鎧を着けてるように見えるのがボスなんだろう。そいつの脇に子分っぽいのが十匹ほど並んで立っている。ボスの体格はそれほど大きくない。子分の方は俺の肩より低い。なんだ? この臭い。


 こいつらゴブリンじゃん。俺の緊張きんちょうを返せ!


 それでも、たおさないといけないので、魔石奪取のコンボで収納しちゃったけどね。また耳切りするのかと思うとうんざりだな。


 そうだ、いいことを思いついた。今のゴブリンをもう一度取り出して、耳だけアスカに切り取ってもらお。『盗賊のダガー』はボルツさんに貸し出し中だから、ちょうどいい。


「アスカ、今たおしたゴブリンをもう一度ここに出すから、そいつらの右耳を切り取ってくれるか? 切り取ったらこの袋に入れてくれ」


 先ほどのゴブをもう一度床に出し、布袋をアスカに渡す。


 音もなく切り飛ばされたゴブの耳が、アスカの持った布袋に集まってくる。アスカの髪の毛便利だよな。


「マスター、終わりました」


「ありがと」


 袋を受け取り、ゴブの死体と一緒に収納する。


 ボス部屋に下りた時には、なかったはずの階段がボス部屋の向こうの方にあるのに気付く。ボス討伐で出現したのだろう。


「ボスがリポップするまで、下り階段はあのままなのかな?」


「そうだと思います」


「ふーん。たまたま今回ボスがいた訳だな。タイミングによってはボス階層は何もない階層になるんだ」


「マスター、ボスのいたところに宝箱があるようです。どうします?」


「どうせ、ゴブをたおしてもらえる宝箱じゃ期待できないんじゃないか? 一応鑑定だけはしてみるけど。鑑定!」


『ゴブリンのふんどし』

ダンジョンの大蜘蛛おおぐもの糸で編まれた布を使用した豪華ごうかなふんどし。

こげ茶色。

形状:使用者に合わせサイズが変わる。 

速さ+2 巧みさ+2

特殊:臭いに対する耐性が上がる。身も心もといいたいが心だけゴブリンになった気がする。


 こんなのだれがめるんだよ!



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