第118話 ヤシマダンジョン1


『ナイツオブダイヤモンド』に帰ると、俺たちを待っていたシャーリーに迎えられた。シャーリーに聞くと、昼食時いろいろあって食べ残したサンドイッチを夕飯代わりに食べたそうだ。その昼食時、初めて学校で友達ができたそうだ。良かった、良かった。


 夜遅く食事をするのは体に良くないと聞いたことがあるので、シャーリーは育ち盛りではあるが、そのまま寝かせることにして、俺とアスカだけ下のレストランで軽く食事をした。その後、俺は風呂に入り、少しだけ砂で汚れた体を洗った。




 翌日。シャーリーに向かって。


「俺とアスカは王都に一番近いダンジョンに一週間ほど出かけてくる。その間シャーリーのことをみてもらうようアルマさんに頼むから、そこから学校に通ってくれ」


 と言ったところ、


「『ナイツオブダイヤモンド』でなら、私一人で大丈夫です」


 と、シャーリーが言うので、今回は少し多めのお小遣こづかいを渡し、お試しで留守番るすばんさせることにした。


『ナイツオブダイヤモンド』の支配人さんにくれぐれもよろしくと念を押して頼んだところ、警備の人員を増やして対応してくれるといってくれた。ありがたいことである。


 学校に向かうシャーリーが乗った馬車を見送り、いったん冒険者ギルドに寄って依頼の確認書を提出して、達成報酬ほうしゅう大金貨三百五十枚をいただいた。


 その後、アスカと俺は、ドラゴンを文字通りりに行くべく、ヤシマダンジョンに向かうことにした。



「毎回西門を通るけど、南門からの方が近くないのか? ヤシマダンジョンは王都から南東にあるんだろ?」


「南門は荷馬車専用ですので、一般人の通行は後回しになります。貴族の私たちならすぐに通してくれるのでしょうが、荷馬車を止めてしまうのも可哀想ですから、西門から走って行きましょう。西門を回っても、私たちなら数分程度の差ですので」 


「ふーん。ところで、いまさらだが、ヤシマダンジョンはどんなダンジョンなんだ?」


「一言で言えば、普通のダンジョンです。深淵しんえんの迷宮ではないと思いますから、深くとも100層程度のダンジョンでしょう。出てくるモンスターは、50層でただのドラゴンですから、最深部まで潜っても、それほど強いモンスターはいないと思います」


「ダンジョンの罠なんかないの? 俺はテレポーターに引っかかって運よくアスカに出会ったわけだけど、下手へたしたら『いしのなかにいる』こともあり得たんだろ?」


「罠については、マスターのミニマップで確認できますから、見つけ次第しだい私が破壊します。ですので何も問題ないと思います」


「安心したよ。それじゃあ急ぐか」


「はい。マスター」


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。



 西門を通り過ぎるときだけスピードを緩め、門衛もんえいのおじさんに軽く会釈えしゃくしたくらいで高速走行した結果、二時間弱でヤシマダンジョンに到着してしまった。


 ヤシマダンジョンの入り口には、冒険者ギルドの出張所しゅっちょうじょがあり、そこでダンジョン産の素材を買い取っているようで、ひっきりなしに人が出入りしている。

 その出張所の裏の方では、素材を積んだ荷馬車や、から馬車が出たり入ったりしてたいそうにぎやかだ。キルンの冒険者ギルドの閑散かんさんさが懐かしい。あそこも迷宮都市と言われるくらいだからダンジョン前の支部はここ以上に活況かっきょうだったんだろう。俺も一度は見たことあるはずだが全く記憶にない。あの頃の俺はテンパっていたのだろう。


 ダンジョンの出入り口の手前には、小さな店が立ち並び、王都で買い忘れた冒険者用に装備品などを売っているようだ。もちろん食べ物の屋台なども出ている。近くの小さな店の看板かんばんが気になり、店名を読む。


「ダンジョンに必要なものは何でも当『ボルタッ』商店で!」 


 この店で買ってはいけないような気がする。伝説のボッタクリ商店の臭いがする。


「アスカ、なんか買っていくか?」


「特に必要なものはありません。マスターの収納には、どのくらい食料が残ってますか?」


「二人なら、出来合できあいの物だけで、二、三カ月は持つんじゃないか。食材まで含めると見当もつかん」


「でしたら、すぐにダンジョンに入りましょう」


「そうだな」


 このダンジョンの入り口前では、黒い渦に入ってダンジョンに進む冒険者のパーティ、渦から現れ、ダンジョンから帰って来たパーティーなど、ひっきりなしの人の出入りがある。ダンジョンから出て来た人たちは一様いちようにパンパンに膨らんだリュックを背負っているのが特徴的だ。


 騎士の人たちに連れられてキルンダンジョンに入った時は、これほどの人はいなかった記憶があるので、あの時は、騎士団が一時的に勇者一行を訓練するため占有せんゆうしてたのかもしれない。


 それはそれとして、俺たちも他のパーティーに続いてダンジョンの出入り口、黒い渦の中に入っていった。



 入った先は、入り口前のちょっとした広場より格段かくだんに広い空洞で、ダンジョン特有の淡い光の中、何組もの冒険者パーティーがその中で打ち合わせのようなことをしていた。


 俺たちは、そういった連中を無視して、下にくだる階段を目指し進むことにした。通路には、いたるところに横道に入る穴が開いており、慣れていなければ迷うこともあるのだろうが、迷わず進む冒険者たちに付いて行けばとりあえず階段があるのだろうと思い、その流れに乗った。


 大きな荷物を背負って出口を目指す冒険者のパーティーとすれ違うことも多い。足元を見ると、冒険者たちによって、り減った跡がはっきりわかるので、この跡をたどっても2層への階段に行きつけると思う。


 さすがに1層ではモンスターに出くわすこともなく、予想どおり簡単に2層への階段にたどりついた。一般の冒険者は危険性の低いわりに稼げる5層から9層で素材となるモンスターを狩ったり、3、4層で採掘できる鉱石で生計を立てている人たちが多いということだ。


 そういった関係で、ダンジョンで獲れた素材や鉱石を専門に運搬するポーターを生業なりわいにする人も結構いるそうだ。生計が立てられるなら危険を冒して深く潜る必要はないのでもっともな話だと思う。


 それでも冒険者の中には、冒険したい人もそれなりにいるわけで、十数年前、Aランク冒険者からなる当時王国最強と言われていたパーティーが50層のボスに挑んだことがあったらしい。


 らしいというのは、生還者せいかんしゃが一人もいなかったからだ。ただ一人49層に逃げ帰ることができた冒険者が、こと切れる間際に、ドラゴンのことを言ったとか言わなかったとかという話で、50層のボスはドラゴンだろうという噂がひろまったようだ。


 それ以降、最深部を目指そうという冒険者の数は減り続け、近年では20層まで潜ることができる冒険者もほとんどいなくなったそうだ。ヤシマダンジョンの現在の到達とうたつ階層は当時と変わらず50層。攻略こうりゃく階層は49層ということになっている。 by アスカペディア。


 深淵の迷宮の七百数十層で、ボスを張ってたアスカさんが、50層かそこらのボスをしているチンピラにどうこうできるわけないから、まさに大船おおぶねに乗ってサーフィンしてるようなもんだ。大船でサーフィンしたら逆に危ないかも?



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