第105話 河童✖(ばつ)


 俺たちは、かごかきよろしく毛布で簀巻すまきにした女をかついでアルマさんの家へ走った。荷物はまっすぐ肩でかついでいるのだがどうしても走る振動で中央部分が上下してしまう。この状態で女が気絶から覚めると、嘔吐おうとして窒息ちっそくするかもしれないと思いいたったが、その時は荷物の様子から判断できると思いそのまま走りとおした。


「ごめんくださーい。ショウタでーす。アルマさんいらっしゃいますかー?」


 荷物をアスカと二人で担いだまま大声で玄関口でアルマさんを呼ぶ。アルマさんがいなくてもいつもならフレデリカ姉さんがドアを開けてくれるのだが?


 改めてミニマップを見ると、どうやら二人とも不在のようだ。さて困った。


「屋敷の裏に回って、裏庭で尋問じんもんしませんか? 裏庭ですとおそらく人目は有りません」


「そうだな。二人が帰ってきてから事情を話そう。事後承諾じごしょうだくしてくれると信じて裏庭で尋問じんもんだ」


 えっちらおっちら荷物を担いで裏庭へ。


 適当な木の下の近くに簀巻すまき女を降ろし、毛布をはがして上半身にかぶせた袋をとる。口に突っ込んでいたタオルも取って木に寄りかからせて座らせた。口に突っ込んでいたタオルはここに捨てるわけにもいかないのでちゃんと収納しておく。あとで忘れず捨てなくてはいけない。


 まだ気絶している女を起こそうとほほをぺちぺちしているのだが、なかなか起きてくれない。


「マスター、その女の周りにマスターが収納しているゴブリンを並べてみてはどうでしょうか。臭さで目が覚めるかも知れません」


 いい考えだと思うが、人様ひとさまの庭を異臭いしゅう汚染おせんするのはまずくないか?


「マスターが、アルマさんにドラゴンの血をいくらか上げれば、許してくれると思いますよ。それにアルマさんはマスターや私と違い本物の錬金術師ですから異臭には慣れていると思います」


 異臭に慣れているかはわからないが、賄賂わいろは有効だろう。


 俺たちは風上にって、ゴブリンの死体を女の周りに出してゆく。女が臭いに反応し始めた。風上にいても嫌なにおいが漂ってくる。二匹目、三匹目、四匹目。このくらいでいいか。


「ブハ! ブファ! ゴホ! ゴホッ!……」


 もぞもぞ動き始めた女が今度はむせ始めた。


 ゴブリンをすぐに収納して女に近寄る。


 細目の女が目をいて俺たちをにらみ、立ち上がろうとするが下半身の入った布袋が邪魔じゃまで立ち上がれないようだ。


「状況は見ての通り。お仲間は重たい頭がどっかに行っちまって今頃肩こりが治ってるんじゃないか? お姉さんも肩こりなら直して上げれるよ。どうだい?」


 少しおどしてやろ。


「お姉さんの雇い主について教えてくれるかな? どうかな? あれ、お姉さん肩がこってるのかな?」


 俺をにらみつけるだけで黙っている。


「マスター、しゃべらないようなら、生かしていても仕方ありません。ここで殺しても、細切こまぎれにして下水に流せば問題ありません」


 また怖いことを言う。お姉さん体をこわばらせたよ。


「殺すのは、とりあえずなしだ」


 そう言うと明らかにほっとしてるよ。このお姉さん、素人しろうとなのか? ドラマに出てくる俳優はいゆうさんはもっとしっかりしてたぞ。


「アスカ、今何時だ?」


「午前十時二十分です」


「俺は、少し小腹こばらがすいたから串焼きを食べるけどアスカもいるか?」


「はいいただきます」


 アスカに串焼きを一本渡し、俺も一本取り出してかぶりつく。女は俺たちを見上げている。


 適当に取り出した串焼きは、牛肉の間に野菜が挟まり甘辛あまがらいたれが掛かっていた。こいつはキルンで買ったやつだな。ゆっくり味わって食べ、手に残った串をもてあそぶ。串の先っちょを意味ありげに細目の女に向けてみたり。ねらいは先端せんたん恐怖症きょうふしょうなんだけど。この女がそうかは知らんけどね。


 アスカはとうに食べ終わっている。


「アスカ、河童かっぱって分かるか?」


「はい。マスターの表面知識を導入していますから」


「そしたら、このお姉さんの髪の毛、河童かっぱ頭にできる?」


「おかっぱでなく、河童ですか? どちらにせよ、簡単です」


 これからは、散髪屋じゃなくてアスカに俺の髪も刈ってもらお。


「河童の方だ。それで、河童にった部分に『×ばつ』印、髪の毛を少し残して書けるかい?」


「問題ありません」


「全体的に俺ぐらいに短くして、それから行って見よう」


「了解しました」


 陽の光りで銀線がわずかにきらめいたかと思うと、肩まであった女の黒髪がバッサリ落ちて、坊主頭が出来上がった。俺と違うのは、頭頂部が丸くり上げられ、短く残った髪で『×』印が付いているところだろう。これは、ひどい。


 すごいインパクトだ。細目の陰気臭いんきくさい女の顔にこれほど似合わない髪型があったとは。


「お姉さん、もう行っていいよ。自分で袋から出てどっかへ行きな」


「マスター、よろしいのですか?」


「良いんじゃないか。俺たちの脅威きょういになるようなヤツがこの辺にいると思うか? また来るようならそれはそれでいいだろ」


「確かに、マスターの仰る通りです」


 そうこうしてるうちに女は袋から抜け出し、裏庭から走り出ていった。もちろんミニマップで行き先を確認中である。


 それなりに遠くまで行ったので、


「アスカ、そろそろ追いかけるか?」


 黒幕くろまくを何とかしないとシャーリーに危害きがいが及ぶ可能性があるのだ、逃がしはせんよ。


「はい、マスター」


 それはそうと、最近アスカと息が合って来たな。マスカレード仮面効果かな?



 ミニマップを確認しつつ女を追っていると、女の動きが止まった。どこかの屋敷の中に入ったようだ。アルマさんの屋敷からそれほど遠くなかった。ということは、女の逃げ込んだのは、屋敷街やしきがいか。しかし、あの女、自分も含めて『それなりにできる』とえらそうなことを言ってたが、ほんとに素人しろうとだったな。





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