第92話 北の砦


 朝になっても動きのない北のとりで不審ふしんに思い確認に動くことにした。


 砦に近寄りよく見ると、砦を取り巻く外壁は砂岩さがんでできているのか、砂をどうにかして固めた物なのかはわからないが、砂色の石でできていた。門の扉は閉まっていたが、外壁の高さが肩までしかないので、飛び越えて中に入ろうと思えば簡単である。八角棒で突いても簡単に崩れそうだ。


「おーい! 誰か出てきてくれー!」


 陽も昇ってるんだから早く起きて仕事しろよ。


「おーい! だれかー、いないのかー?」


 門の前で叫んでいたら、外壁と同じ砂色の石でできた兵舎へいしゃ?から兵隊さん?が現れた。兵舎の屋根と扉だけは木製のようである。


「どこの者だ?」


 ざした門の扉の内からその兵隊さんに誰何すいかされた。


「砦に物資を届けに来たBランク冒険者のショウタと同じくBランク冒険者のアスカです」


 話しながらギルド証をかかげて兵隊さんに見せる。


「本当に物資ぶっしを届けに来たのなら大歓迎だいかんげいだが、どこにもその物資とやらが見えないが」


大容量だいようりょうのアイテムバッグに持てるだけ持ってきたんです」


 収納を説明する必要はないだろう。


「そうなのか? アイテムバッグでは、大した量は運べんだろうがそれでもありがたい。中に入ってくれ」


 ゴソゴソなにやら門を開けようとかんぬきを外し、外開きの扉を押し開けようとしているのだが、力が入らないようで苦労している。


「おーい誰か来てくれ。物資が来たが扉がひらかん!」


 兵舎の中が騒がしくなり四、五人の兵隊さんが出て来た。


「門を開けなくても外壁から入りますから大丈夫ですよ」


 そういって俺とアスカがぴょんとへいを飛び越えて中に入ると、


「冒険者もBランクくらいだとその防壁ぼうへきくらい簡単に飛び越えられるんだな」


 妙に感心してくれた。


「改めて、王都冒険者ギルドの依頼を受け、この北の砦に物資を運搬に来たBランク冒険者のショウタと同じくBランク冒険者のアスカです。物資の受け取り責任者の方はいらっしゃいませんか?」


 兵舎から出て来た兵隊さんが俺たちをめずらしそうに眺めている。


「おい、誰かローゼン隊長を呼んで来い」


 周りにいた兵隊の中で一番若そうな人が、真ん中の大きなやぐらの脇の建物に走って行った。しばらく待っていると騎士らしい人が数人の従兵を従えこちらへやってきた。


「ここの砦の責任者をしている第3騎士団副長のローゼンだ。物資を運んでくれたそうだが?」


「はい。王都冒険者ギルドの依頼を受け、この北の砦に物資を運んで来たBランク冒険者のショウタと同じくBランク冒険者のアスカです。物資を引き渡したいので、担当者の方をお願いします」


 先ほどと同じ答えをする。


「そうか、アイテムバッグで運んできてくれたそうだが、とにかくありがとう。俺が物資を確認しよう」


「それでしたら、こちらが今回運搬した品目のリストです。受け渡しを確認していただき問題がなければ、ここにサイン願います」


 そういって出発前の商業ギルドの倉庫でもらった書類の束を渡した。


「ずいぶん沢山というか、とんでもない量だが本当にこんなに運んできたのか?」


 もっともな質問にうなずきで返す。


「荷物を出す場所を教えてください。そこに順番に出していきますから、ローゼンさんは書類と突き合わせていってください」


「食料もこんなにあるのか?」


 書類をめくっていたローゼンさんの声に、周りを囲んでいる兵隊さんたちはざわめいた。


「わかった、倉庫はこっちだ。お前たちは俺についてきてくれ」


 兵隊さんたちと一緒に倉庫に向かう。


「すまんな、見苦しいところを見せて。みんなここのところメシをまともに食っておらんのだ。補給が途絶とだえて一月半ひとつきはん。今は一日の分の食料は通常時の三分の一だ。水だけは魔道具で何とかなってるんだけどな。物資がないから作業はできんし動き回れば腹もへる。それでみんな昼間もじっとしてるんだ」



 話しを聞きながら、大き目の建屋たてやに案内された。ここが倉庫らしい。この大きさだと、全部は出せないな。


「ここに順番に出していってくれ」


 とりあえず、出せるだけ出していこう。


 収納庫に入っている物資を順次出してゆくのだが、俺自身袋入りの物資ということしか考えてなかったので中身は知らない。鑑定すればわかるが面倒なので確認は先方任せだ。


 ローゼンさんは十人ほどの兵隊さんを倉庫に引き連れてきていたので一回当たり百個ずつ排出することにした。百個の袋が目の前に出てきて兵隊さんたちは驚いていたが、中身を早く確認してくれというと、急いで袋の紐をほどき中身の確認を始めた。


 ちょうど最初に出した荷物は食料だったらしく、兵隊さんたちから歓声かんせいが沸き起こった。


 最初の百個の確認が終わったので、また百個の袋を出す。もう一度百個の袋が出てきて歓声が止まった。確認を急がせる。確認作業も慣れたろうと思い、次は二百個。まだまだ収納の中には袋が入っている。


「おーい、だれか、袋の確認にもう二十人ほど呼んできてくれ。ホントにこの書類分の物資が出てきそうだ」


 確認する人の数が三十人くらいに増えたので、五百個ずつ袋を取り出すことにした。これを数回繰り返したら、倉庫が一杯になった。


「他に物資を入れて置ける場所は有りませんか? あと三分の二くらい残ってます」


「少し休憩きゅうけいさせてくれ。俺も含めて腹が減ってつらい。倉庫は隣だ」


「それなら食事を先にしてください。私たちはそこらで時間をつぶしていますから」


「一緒にメシを食わないか?」


「私たちは、夜明け前に一応食べていますので。遠慮しときます」


「そうかい。わかった。

 それじゃあ、休憩にするぞ。だれか給仕所きゅうじしょに行って、食料が半年分は補給されたと伝えてこい。遠慮せずに朝メシを作るように言ってくれ」


 若い兵隊さんが走って出ていき、後の人たちは三々五々さんさんごご倉庫を出ていった。



「アスカ、食べ物が不足してるのは本当だったな」


「マスター、しっかりフラグが回収できましたね」



 四十分ほどで、みんなが走って戻って来た。食事を作る時間を考えたら相当急いで食べて来たのだろう。気を使わせたようだ。


 隣のからの倉庫にどんどん袋を出してゆく。そのころには五十人ほどで袋の確認をしていた。それ以上では動きが取れなくなって非効率になる。


 あと三分の一を残して、その倉庫も満杯まんぱいになった。始めは、次から次に取り出される袋の量に驚いていた人たちも、黙って確認作業をしている。こういうもんだと思えばいいんだよ。


「ローゼンさん、あと残り三分の一です」


「分かった、隣の倉庫に頼む」


 作業を再開して倉庫二棟分、全部で三棟分の資材を収納庫から取り出した。兵隊さんたちの確認作業も終わったようだ。


「どうなってるのかはわからんが、お前さんのアイテムバッグは他のアイテムバッグとは比べものにならんな。凄すぎる。足元に並べるんじゃなくて好きなところに物が出せるのもすごい。まさか、お前さんエルフの収納魔法を使ってるんじゃないよな?」


「まあ、色々ですよ、いろいろ」


「まあ、いい。ここまで運んでくれてありがとう。助かった。確認は終わった、問題はない」


「それじゃ、その確認書類の表にサインお願いします」


「わかった。ほらよ」


「ありがとうございます。それでは私たちはこれで失礼します。あと、せっかくここまで来たので、『魔界ゲート』を見ていきたいのですがいいですよね」


「観光名物じゃないが、好きにしろ。それじゃな、気を付けて帰れよ。

 おっと、忘れてた。この手紙を王都の第3騎士団本部に届けてくれないか? 第3騎士団本部は王宮内にある。王宮の正門の受付にでもことづけておいてくれれば騎士団に届くはずだ」


 ローゼンさんから手紙を受け取った。手紙は王宮にでも行って誰かに渡しとけば何とかなるだろう。


「分かりました。それじゃ。頑張がんばってください」




「アスカ、『魔界ゲート』を見に行くぞ」


「はい、マスター」




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