第91話 収納士、砂虫を屠(ほふ)る
しばらく砂の上の道なき道を進む。陽は既に西の地平線に沈み、星が
「アスカ、砂の中。だいぶ深いところにいるよな」
「結構いますね。われわれの足音に反応したんじゃないですか」
「そうなんだろうな。一匹だんだんこっちに近づいて来てる。ここで待ち受けよう。ところでこいつらどうやって砂の中を移動してると思う?」
いったん立ち止まって砂虫を待ち受けることにする。
「おそらく、体表を
「大きいというとこの前のドラゴンくらいか?」
「長さは、おそらくあのドラゴンの四、五倍はあるかと」
『黒龍ソーンダイク』は五十メートルはあったから砂虫は二百メートルはあるってことか。
砂虫が体全体を砂から出してくれれば、魔石奪取の一撃で終了なんだけど、首から上しか砂の上に出さんよなー。
久しぶりに、アスカの
来た!
ザザザザザー!
砂虫の先端部が百メートルほど先の砂の上に現れ、持ち上げられた砂が崩れ落ちる。十メートルはある
「アスカ!」
アスカが一歩前に出る。足を止めていた俺たちを見失って動きを止めていた砂虫が俺の声に反応したようだ。砂の上では、移動速度は限られるようでゆっくりうねりながらこちらに近づいて来る。ゆっくりと言っても俺たちから見てのことだが。
俺が中学のころ読んだSFだと、こいつに似たモンスターは確か水に弱かったような。試してみるか。
水の入った
アスカも様子を見てくれている。砂虫はまだ五十メートルも先だ。
ここで異変が起きた。急に砂虫が暴れだしたのだ。
ドドドド、ザザザザー、ドーン……
樽を飲み込んだ砂虫は、砂の下にいたであろう体の大部分を砂の上に出して大きく波打たせている。悶え苦しんでいるようだ。デカい。二百メートルじゃきかんぞ、三百メートル近くないか?
全身を砂の上に投げ出した砂虫の体の前から三分の一辺りに魔石があるのが感じられる。
「勝ったな。魔石奪取アンド収納!」
俺の収納庫に砂虫を取り込んだ。『フッ』俺は悦に入ってエアー前髪を、右手でかきあげた。ファンタジー世界でSFが通用したようだ。
「マスター、先ほどの砂虫が暴れた振動で、周囲の砂虫が集まって来ています」
ミニマップを確認するとすごい勢いで砂虫と思われるモンスターが近づいてきている。一、二、三、四、……、十一。
多すぎだろ。収納の中の水樽は全部で九個。二個足りない。足りない分はアスカだよりでいいだろう。水は全部使っても飲み水にはまだ果汁の入ったコップもかなりあるし、最悪純水製造装置もある。
「アスカ、砂虫が十一匹で水樽が九樽しかない。二匹頼む」
「はい。マスター。砂の上に出た部分を輪切りにします。これで、おそらく
ザザザザザー! ザザザザザー!
一度に二匹口を開けて俺たちの方へ向かってきた。先ほどの砂虫が暴れて
二匹の口の中に水樽を置いてやる。すぐに樽は飲み込まれていき、
ザザザザザー! ザザザザザー! ザザザザザー! ドドドド、ザザザザー、ドーン・・・・
今度は三匹現れた。もだえ苦しんでいる先ほどの砂虫にぶつかってめちゃくちゃになって来た。
でたらめに暴れまわる砂虫たち。魔石を見つけた端から魔石奪取アンド収納コンボで片付けていく。
ザザザザザー! ザザザザザー! ザザザザザー! ドドドド、ザザザザー、ドーン・・・・
また、三匹だ。こいつら勝手に怪獣大決戦始めちゃったよ。
結局、砂の上に出てきて怪獣大決戦を始めた端から、コンボで決めて水樽を使わず全滅できた。
「やっぱりこいつら頭悪かったな」
アスカに頼むまでもなかった。
「頭がある程度回れば、私に挑んでは来ません。
近くにはもう砂虫の反応はないようだ。結局十二匹の砂虫がいま俺の収納庫の中にいる。大きさは二百メートルから三百メートルの間だろう。奪取した魔石はかなり大きなものだったが元の体の大きさの割には小さい。
そんな調子で、クエストマーカーの指す方向へ真夜中の砂漠の中を進んでいった。
数回砂虫に出くわしたが、同じように
「アスカ、今何時だ?」
「午前二時少し前です」
「どこまで進んだ?」
「先ほど休憩した分岐点から四百キロほど進みました。そろそろミニマップで北の
それから、十分ほど進んでやっとミニマップに砦らしきものが現れた。マップ上そのすぐ先にあるのが『魔界ゲート』なのだろう。
盛り上がった砂丘の上から望むと砦がすぐそこだ。砦は周囲を砂色の
塀の中には
「夜が明けるまでここで休憩して、それから砦に行こう」
「はい。マスター」
砂の上に布を広げ、飲み物、食べ物を並べ食事を始める。
「砂虫って何かの素材でも取れるのかな。捨てるにせよデカすぎで場所を選ぶぞ」
「何かの役には立つのでしょうが、死骸は普通では移動できませんし、表皮が非常に厚く硬いため砂漠の真ん中での解体は難しいようで素材として活用したという記録はないようです。しかし、表皮そのものは非常に
「ふーん。中の肉は食えるかな?」
「食べられると思います。
「これだけあれば、何人分になるかな」
「腐らなければ、一匹食べるのに一万人でも数カ月かかるでしょう」
「そんなにか、というよりそれだけしかもたないのかという感じだな。人間はほんとによく食べるよな」
「そこの砦では、資材の運搬が
「そうだな」。これって、変なフラグじゃないよな?
しばらく仮眠をとり、目覚めると東の空が白み始めていた。二、三時間は寝たようだ。
「アスカ、俺の寝てる間に何かあったか?」
「何もありません。砦の中は依然動きが有りません」
「夜も明けて来たんだから、そろそろだれか起きだしてくる頃だよな?」
確かにミニマップ見る砦の中は人は二百人ほどいるようだが動きがない。人が動き出してから砦に行こうと思ったが、何だか
「アスカ、砦に行って見よう」
「はい。マスター」
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