第83話 ヨシュア・ハルベール
私の名前は、ヨシュア・ハルベール。ハルベール家の三女ということになっている。昔の名前はただのヨシュア。
私は五歳で両親を事故で亡くした。それまで彼らからひどく
すぐに私の住んでいた地方都市のとある奴隷商に
十三歳の時、ハルベール家に買われ、王都に住むようになった。ハルベール家では家事をするようなことはなく、貴族が身に着けてしかるべき教養を
私はそれからすぐに侍女として王宮へ通うようになった。
通いで王宮での雑務を二年ほど続けていたところ、突然当時七歳のリリアナ王女
リリアナ殿下は、色白でまるで
殿下付きになって、
手紙には、一日一回緑色の液体を爪の裏に塗り、乾いたら爪の裏に乾燥物ができるので、その乾燥物をリリアナ王女の飲食物に少量入れるようにとの指示だった。もし問題が起きた場合は、黒い方のポーションを必ず飲むようにとも書いてあった。
私は、何も疑問に思わず、考えもせず、手紙で指示された通り、緑色の液体を左手の薬指の爪の裏に塗って乾燥するのを待つ。濡れているときは緑色だった液体が乾くと透明になった。王族専用の
緑色の液体が無くなるころ、痩せた女がやって来て古い瓶と新しい瓶を交換していった。そういう生活を六年続けた。昔は体だけは
三カ月ほど前にひいた
「ヨシュア?」
殿下が私を呼んだ。その声は弱々しく聞き取りにくい。
「はい。リリアナ殿下」
「お姉さまは、今どのあたりにいらっしゃるかしら。ケホ、ケホ」
殿下は目を閉じて、この日も同じ質問を繰り返す。
「マリアさまは勇者さまたちと北方諸王国に向かわれてまだ
私は同じ答えを返す。
「そう」
殿下はそう答え黙ってしまった。眠ったのだろう。苦し気な
その夜、
殿下の汗で濡れた下着と
翌日の殿下の変わりように驚いた。殿下が自分でベッドから立ち上がろうとしたので、慌てて手を貸した。自分一人で歩けるというので、いつでも手を貸せるよう寄り添う形で、部屋の中を二人で軽く歩いた。
それから数日たち、殿下に薬を
殿下がどうしても二人にお会いになりたいというので、私が二人を迎えに行った。
二人はまだ若い男女だった。二人とも着ている服は立派だったが、男の方が貴族ではありえない
女の方は、私から見ても美人だったが、何か
帰りに車寄せまで案内を買って出たが女の方に強い口調で
二人に会った殿下はひどく感動したようだった。その日から私は、なんとなく控えていた例の作業を再開した。
それから、数日してまたあの二人の錬金術師が殿下の部屋にやって来た。殿下にテラスでお茶の用意をするよう言われたのでそのようにする。用意が終わると殿下とその二人がテラスに出てきた。
そのとき女の方の錬金術師と目があったような気がした。彼女は私の左手を見ている。男の方も見ている。二人は殿下に内密な話があるようで私は
お茶会も終わり、二人の錬金術師達が殿下に別れを告げ退出した。私は片付けを同僚に頼み、自室に急いだ。
部屋の鍵を閉め、机の引き出しの奥から小さなポーション瓶を取り出す。ハルベール家は疑われるのだろうが私がいなければ
実の両親が事故で亡くなっていなければ、私はつらい生活の中で、もっと早く死んでしまっていたと思う。侍女となって八年、殿下付きになって六年。あっという間だった。最期にリリアナ殿下に別れの
「この部屋がヨシュア・ハルベールの部屋か。うん? 鍵がかかっているぞ!
部屋の外に誰か来たようだ。
私は瓶の蓋をあけ、中に入った黒い液体を一気に飲み干した。
握りしめていたはずの手から
目の前が暗くなってゆく……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます