第82話 ショタアス探偵団解散


 とりあえず実行犯は何とかできる。その先は? 専門家の宰相さいしょう閣下に丸投げだな。


 殿下にいとまを述べ退出した。誰かにお前は毒をられていたんだぞと言われれば不安に思うのが当然だろう。ましてや十三歳の少女だ。殿下は名残惜なごりおしそうにされていたが、問題を解決するため俺たちもやることはやらねば。



 先ほど殿下の部屋まで案内してくれた侍女の人に連れられ、車寄くるまよせのある出入り口に向かう。


 通路が交差した場所で、右側を指し、


「この先は何があるのですか?」


「この先には王族のみなさま用の厨房ちゅうぼうがございます」


「それでは、こちら側は?」


 左手を指す。


「そちらは、私共わたくしども侍女の私室が続いています」


「ありがとうございます」


 どちらの方向にもうっすらと薬物の痕跡こんせきが続いている。


「殿下のお食事のお世話せわはどなたがされておいでですか?」


「殿下のお世話はヨシュアという侍女が長年行っております」


「そうですか」


 ですよねー。二時間半のしゃくを用意したサスペンスドラマが三十分の尺に収まったでゴザル。


「アスカ、そういうことだよな」


「。」


 黙ってうなずくアスカ。


 あとは、リーシュ宰相にチクって一件落着いっけんらくちゃくかな? 尺の関係でどんでん返しがくるかな? これフラグか?


「あの、少しよろしいですか?」


 先を歩く侍女の人を呼び止める。


「はい何でしょう」


「リーシュ宰相閣下に急用がございまして、閣下の元に案内していただけませんか?」


「ご案内はできますが、リーシュさまがお会いになられるかどうかは分かりかねますが」


「リリアナ殿下の件で、コダマとエンダーがお話したいことがあると伝えていただければきっと会ってくださると思いますので」


「殿下の件ですか? かしこまりました。どうぞこちらです」


 方向転換した侍女の人に付いて行く。




 リーシュ宰相の執務室の前で、案内してくれた侍女の人が若い男の人に俺たちの来意らいいを話してくれている。


「リーシュ閣下が先ほどよりお待ちです。コダマ子爵閣下、エンダー子爵閣下、中へお入り下さい。」


 今日リリアナ殿下に会うことを段取だんどりしてくれた本人だもの、状況を知りたくて待ってたわけだ。ということは、何もなくてもこっちにこなければいけなかったのかも。結果オーライというやつだな。


「失礼します」「失礼します」


 アスカも場所はわきまえているようだ。


「待ってたよ、二人とも。それでどうだった」


 挨拶あいさつもそこそこにサリーシュ儀典官ぎてんかんことリーシュ宰相に詰め寄られてしまった。心配だったのだろう。


「お会いしたところ、殿下に薬物の痕跡が有りました。『キュアポイズン、 ランク3』をお渡しし、その場で飲んでいただいたところ、解毒はできたようです」


 少しは安心したかな。いや逆か。


「実行犯は、殿下の侍女のヨシュアという方です。薬物の痕跡が彼女の左手の爪の先に有りました、薬指です。殿下への給仕中、薬物に汚染おせんされた飲食物が誤って付着したような量ではありません。そこに薬物を仕込んで、殿下の食べ物などに仕込んだのでしょう。本人も若干じゃっかん汚染されていますので、健康を崩している可能性があります。

 殿下には念のため『キュアポイズン、 ランク3』のポーションを予備としてお渡ししています。同じ薬物なら、このポーションで解毒可能です。ただ、殿下にこれまでポーションをお渡ししている薬剤方やくざいがたの人が信用できませんので、今後殿下にそれ以外のポーションが必要な事態が起こった場合は、アルマ・ベーアさんにお話してポーションを用立ててもらうのが良いと思います」


「そうですか。お手数をおかけしました。後は私の方で対応します。それと前回はエリクシールで、今回も殿下を害する犯人を突き止めてくれて本当にありがとう。あと、コダマ殿、エンダー殿、お二人にこれを」


 学生証のようなカードを渡された。


「これを正門で提示すれば王宮に自由に出入りできます。持っていてください。時間があれば、今日のように殿下と茶飲み話でもしにお越しください。殿下には友人と呼べるものが今までいませんでしたので、友達になってやってください。殿下の大叔父おおおじからのお二人へのお願いです」


 深く頭を下げるリーシュ宰相。


「「はい。わかりました」」


 とりあえず、俺たちのディテクティブ・ストーリーはハッピーエンドで終わったようだ。『剣と魔法の世界』では、圧倒的に探偵有利と実感した五日間だった。



 ただ、第1側妃そくきが連れて来たというパレアナ・カフカと第1側妃本人のこの件への関与は不明のままだ。王女の毒も早期ならキュアポイズンで何とかなるようなものだったわけだから、薬剤方が試しにキュアポイズンを王女に飲ませなかったのも不自然だよな。まあ、後はリーシュ宰相次第だ。



「マスター、ショタアス探偵団終わりましたね」


 それはヤメイ! と言っとるだろ。



 宰相執務室を後にして、車寄くるまよせのある出入り口に向かった。すぐに待たせていた箱馬車が来てくれたので、乗り込もうとしたのだが、なにやら王宮内が騒がしい。


「王宮内で何かあったのかな? アスカ、どう思う?」


「さっそく、リーシュ宰相が実行犯を捕まえに動いたのではないでしょうか」


「さすが、動きが早いな。ちょっと行ってみるか」


 御者ぎょしゃの人にもう一度待ってもらうことにして、王宮に取って返した。


 なにやら騒ぎが起きているあたりをミニマップで見ると、先ほど説明を受けた侍女の私室の辺りだ。


「アスカ、急ごう。何かあったみたいだ」


 まさか王宮内をいつものつもりで走るわけにはいかないので速足はやあしでそちらに向かった。





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