第79話 ショタアス探偵団始動


 リリアナ王女殿下から、直接エリクシールの礼を言われた。


 アスカはエリクシールだけではありえないほどの回復をした王女殿下の健康な姿を見て、殿下が幼少時より病弱だったのは、そのころから何者かにより、毒を継続的にられていたのではないかと疑念を感じたらしい。


 状況的にはアスカの言う通りだと俺も納得した。とりあえずは、シャーリーを迎えに行くかたわら、王宮に詳しく信頼のおけるアルマさんに相談しようということになった。


 王宮の馬車の車寄くるまよせに戻ると、朝方われわれを乗せてくれた御者の人が待ってくれていた。アルマさんは今は王宮錬金術師だということだったので、御者の人にアルマさんの住んでいるところが分かれば、そちらに行ってほしいと告げると、問題なく送り届けることができるそうなので、お礼を言って馬車に乗り込んだ。


 馬車が王宮を囲む堀を越え、五分もしないうちに停車した。


「アルマ・ベーアさまのお屋敷に到着しました」


 御者の人が馬車の扉を開けてくれた。ああ、俺たち本当に貴族になったんだなと実感してしまった。


 馬車を降りた場所はちょうどアルマさんの屋敷の門の前だった。御者の人にお礼を言って、開けっ放しの門の中に入って行く


「こんにちは、アルマさん、ショウタです。シャーリーを迎えに来ました」「こんにちは」


 しばらくして、玄関の扉が開きフレデリカ姉さんが現れた。


「お帰んなさい。シャーリーは今、夕食の支度をしてくれてるわ。二人とも上がってちょうだい」


「失礼します」「します」


 そういって、通されたリビングに入りソファーに座る。


「アルマは今、仕事部屋。よっぽどエンシャントドラゴンの血が手に入ったのが嬉しかったのね。昨日の夜からずーっと仕事部屋にこもりっぱなしよ。届けた食事は食べてるようだから死んではいないと思うわ」


「それはいいんだか悪いんだかわかりませんが、喜んでいただけて何よりです。ドラゴンの血が無くなったらいつでも言ってください。いくらでもありますから」


「そんなに減るものじゃないし、そもそもエンシャントドラゴンの血の価値が分かってないからそんなこと言えるのよ。おそらく売りに出せば1リットルで大金貨千枚はするんじゃない」


「そんなにするんですか? そもそもドラゴン一匹分丸々持ってるんで有難ありがたみがないんですよ。

 それはそうと、アルマさんにご相談したいことが有るので、仕事の合間にでもお話しできませんか?」


「そろそろ止めさせようと思っていたところだったから、今から連れてくるわ。待ってて」


 リビングでフレデリカ姉さんとの会話が聞こえたのか、台所の方からシャーリーが駆けて来た。家の中で走ってはいけません。


「ご主人さま、お戻りになったんですね。安心しました。アスカさんも。王宮いかがでした?」


 ちゃんと迎えに来るか不安だったんだろうか。他所よそに預けて、悪いことしたかな。


「シャーリー、聞いて驚け、俺もアスカも貴族さまになったぞ」


 ほうけ顔のりすっ子も可愛かわいいもんだ。


「……」


 ご主人さまを、あがめよ、たたえよ。あれれ? シャーリー停止したまま起動しねえや。


「これから貴族さまをお呼びするには、どうお呼びすればよいのですか?」


「貴族を呼ぶときは最後に閣下だな」


「それでは、ご主人さま閣下?」


「冗談だよ。ハハハ、今までのままでいいよ」


「シャーリー、私を呼ぶときはアスカ閣下で良いぞ」


「はい。アスカ閣下」


「冗談だ。アスカさんのままで良い」




「どうしたショウタ? 王宮で何かあったのか?」


 目にくまを作ったアルマさんがフレデリカ姉さんとリビングに入って来た。


「いえ、褒賞ほうしょう式は問題なく、その上二人とも子爵にされました」


「思った通り。王宮も、お前さんたちを手放したくないからな。ひもはつけておって当然じゃろう。今さらそんなことの相談ではあるまい?」


「いえ、そのこともあるんですよ。私たちに紐をつけるなら私一人で十分なところを、アスカまで子爵になったのが不思議と言いますか」


「本来なら、お前さんを伯爵くらいにしたかったんじゃろうな。伯爵に一度にあげてしまうと、ほかの貴族連中の批判なんかも起きやすくなるからの。それで、めいっぱい奮発して、アスカまで貴族にしたんじゃろ」


「そういうもんですか」


「そういうもんじゃ。ほかに何かあるかの?」


「はい。式の後、リリアナ殿下に呼ばれまして、直接お礼をいただきました」


「そうかい。リリアナ殿下は心根の優しい人じゃからな」


「お会いした時、アスカが気付いたんですが、思ってた以上に殿下がお元気だったんです」


「そりゃ、エリクシールを飲めば病気も治れば、元気にもなるじゃろ」


「いえ、エリクシールの効能は、全てを癒やして元通りの体にするだけで、本来の体調を超えて体をよくするわけじゃないんです。つまり、リリアナ殿下はもともと健康な体をお持ちだったはずなんです」


「うーん。なるほど、お前さんたちは、もともと虚弱きょじゃくと言われていた王女殿下が実は虚弱ではなく、健康な体を持っていたと言いたいんじゃな」


「さらに言うと、殿下が幼少のころから少しずつ毒物を摂取せっしゅさせられていたのではと考えてます」


「ほう。……、思い当たる節が無いわけじゃないの。われが、王室の方々を薬剤方やくざいがたを外されたのは、正妃さまの亡くなられた少し後のことだったからのう。正妃さまはリリアナ殿下をお生みになった後、肥立ひだちが悪くすぐに亡くなられてしもうたんじゃ。そのせいでわれは薬剤方を外されたんじゃと思うとったがな」


「今はだれがその薬剤方になっているんですか?」


「名前は、パレアナ・カフカ。王妃殿下の亡くなる数年前に、今の第一側妃が実家から呼び寄せた女じゃ」


 だんだんと繋がってまいりました。


「それで思い出したが、正妃さまの最初の子は十年前に亡くなっておっての。小さいころわれが診ておった頃は元気な王女さまじゃったが、年を取るにつれて体が病気がちになってな、それで十やそこらで亡くなられた。その亡くなった王女を診ていたのもパレアナじゃ」


「何だかすごく怪しいですね。パレアナ・カフカさん」


「そうじゃの。証拠があれば何とでもなろうが」


「実行犯は被害者の近くにいる。そのうち必ずしっぽを出します」


 キリッ! 少なくとも二時間半のサスペンスドラマではキャスティング予算と尺の関係でそうなっておる。これは事実である。


「じゃが、どうすればいいんじゃ?」


「アスカどうすればいいと思う?」


 困った時の、アスカである。


「実は今日、殿下の部屋にうかがった時、お部屋で毒物の痕跡こんせきを感知はしましたが、極めて微量であったため無視しました。今日現在、殿下には毒物の痕跡はありません。したがって、今は実行犯と思われる人物は活動をひかえているものと推察されます。

 おそらく薬物の投与は近いうちに再開されるでしょう。その時殿下の近くに私がいれば、毒物の痕跡を逆にたどり実行犯を見つけることができると思います」


 だそうです。


「あんたたちで、リリアナ殿下のところに何回か訪問するってのはどうじゃ? リーシュ宰相にはわれから話を通しておくぞ。リリアナ殿下のためなら力になってくれるはずじゃ。なにせ、あの男は、殿下の大叔父おおおじじゃからの」


リーシュ父

 ┃ ┏リーシュ宰相

 ┣━┫

 ┃ ┗リーシュの姉か妹━リーシュの姪(正妃:リリアナの母)━リリアナ殿下

リーシュ母


こういう事?


「分かりました。私たちは、いつでも殿下のところに訪問できますので、適当に日取りを決めちゃってください」


「分かった。そうしよう。ところで、お前さん達はシャーリーの作ってくれた夕食を食べて行くのだろ?」


「良かったらお願いします」「します」


われは、少々疲れたので、休んでる。勝手に食べて行ってよいぞ」


「ありがとうございます」


 アルマさん徹夜てつやだったそうだけど、いい年のはずなのに無茶するな。


 その後すぐに夕食になり、食後しばらく休憩して、シャーリーを連れておいとました。


「それでは失礼します」「失礼します」「どうも、ありがとうございました。失礼いたします」



 なんだか、探偵やってるみたいだ。俺がホームズでアスカがワトソン博士か。


 正直になろう。アスカがホームズで俺がワトソン博士だな。もともと俺は医者志望だし。


「俺たち探偵みたいだな」


「そうですね、ショタアス探偵団?」


 それは、ヤメイ!



 だいぶ遅くなったので、乗合馬車が有るかと心配だったが、ちゃんと営業してくれてた。


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