第77話 リリアナ1、謁見


 待合室まちあいしつに戻ってしばらくすると、二十歳はたちくらいの侍女の人が入って来た。


「コダマ子爵閣下、エンダー子爵閣下、リリアナ王女殿下のご用意が整いましたのでこちらにお越しください」


 なに用意してたんだろ?


「はい」「はい」


 アスカと連れ立ち、迎えに来た侍女さんの後に従う。偉い人の私生活の場に後宮こうきゅうという言葉もあるくらいだから、王宮の奥の方に向かっているんだろう。


 しばらく侍女の人について歩いていくと、学校の教室ぐらいの広さの部屋に通された。天井の高さは教室の2倍は有るんじゃないか? 窓際まどぎわの椅子に髪の長い美少女が座っていて、彼女の後ろの窓にかかった真っ白いレースのカーテンがわずかに風にそよいでいる。パステル画の中にいるようなそんな雰囲気。


 わっかるかなー? わっかんないだろうなー。


「殿下、失礼します。コダマ子爵、エンダー子爵のお二人をお連れしました」


「ありがとう。ヨシュア」


 こういうのを鈴の鳴るような声というのだろう。大きくはないが良く通る声で目の前の美少女が侍女に礼を言う。先ほどの式の時、王様の一つとなりにいた少女、リリアナ殿下だった。


「コダマ子爵閣下、エンダー子爵閣下、リリアナ王女殿下の前に」


 進むと、少女も立ち上がりにっこり笑いながらこちらに近づいて来る。


「コダマ子爵、エンダー子爵、お二人のおかげで明日(あした)をあきらめていた自分が、こうして立ち上がることができました。ありがとうございます」


 深く頭を下げられた。アスカ、こういう時どうすりゃいいの?


「頭をお上げください。たまたまでき上がった薬をたまたま商業ギルドに買っていただき、それが殿下をいやしただけですから」


「いいえ、商業ギルドのギルド長から、お二人はわたしのためにあのお薬をお作りになったとうかがいいました」


「そういう面も確かにありましたが、ちゃんと対価はいただいていますし、現にこうして私たちは子爵にもしていただいています。そういうことでお互い納得しましょう」


「私自身は納得していませんが、分かりました。今の未熟な自分では何もできませんが、五年後に私は十八になり成人します。いずれ必ずこのご恩に報いさせていただきます」


 両掌を握りしめて言われちゃったよ、重いよ。もう気にしないでよ。何この美少女、いい人スグル。


『マスター、後でお話が』


 小声でアスカが俺に。アスカどったの? ここじゃまずいの?


「お話は、以上です。お二人に直接感謝の言葉を伝えることが出来て安心しました。お越しくださりありがとうございました」


 アスカと二人、礼をして退出した。これでようやく帰れるらしい。美少女との対面でことのほか気疲れした。


 ヨシュアという侍女の人が、馬車の車寄せまで送ってくれると言ってくれたが、アスカが断った。


「道は分かる」


 もう少し言い方が有るんじゃないか。王宮のこんな奥の方を勝手に歩き回るのもどうかと思うけど。まあ、俺もミニマップがあるから迷子にはならないけどね。


「マスター、先ほどのお話ですが」


 何だっけ?


「リリアナ殿下が、少しやせせ気味ではあっても、健康そうに見えませんでしたか?」


「そうだな。元気に見えたぞ。顔色も良かったし」


「マスター、殿下は昔から病弱っだったそうで、元気だったことはないはずです」


「そういえばそうだったな。そう聞いている」


「マスターはエリクシールの効果をご存じですよね?」


「もちろんだ、確か【あらゆるものをいやす】だろ」


「そうです。エリクシールは癒すことまでしかできないんです」


 ドユコト?


「エリクシールは、あらゆるマイナスをゼロにすることはできますが、そこからプラスにはできないのです」


「そうなのか」


 俺なんか、シャーリーにエリクシール飲ませたら、残念なところが人並みくらいにはなるだろうと頑張って二本も余分にエリクシール作ったのに効かないの?


「いまのリリアナ殿下の状態はエリクシールの効果でゼロになっているわけですが、ゼロならば本来の病弱な体に戻らなくてはならないんです。ですが今の殿下は健康そうに見える。つまり、本来の彼女は病弱などではなく健康な体を持っていたと考えられます。何者かによる何かが彼女の健康を継続的に害していたと考えられます」


 なーるほど。で、ドユコト?


「要するに、リリアナ殿下は幼少の頃より何者かによる遅効性の毒物などで健康を継続的に阻害そがいされていた疑いがあるということです」


 それってどっかのドロドロドラマみたいじゃん。コエー。


「誰かに相談しないとまずいな」


「今のところ誰もが犯人の可能性がありますから、相談する相手は厳選げんせんしなくてはなりません。実行犯はリリアナ殿下の生活に近しい人でしょう。

 実行犯と主犯はおそらく別の人物と思われますので、今のところは、早急に実行犯を捕らえ、そこから主犯を手繰たぐりり寄せるしかありません」


 一気に探偵たんていものになっちまった。


「アルマさんに相談するのはどうだ? まさかあの人が犯人ではないだろ?」


「そうですね。アルマさんは王宮にくわしそうですから彼女に相談するのが妥当だとうでしょう」



 こうして俺たちの探偵物語(ディテクティブ・ストーリー)が始まった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る