第75話 受爵
翌朝。
早くから目が覚め、朝食も早めに済ませ、
「マスター、迎えが来るのは九時です。少し早いのではありませんか」
その通り。落ち着かないからここにいるだけだよ。何事にも動じないアスカが
「どうも俺は小心者で、王宮に行って、王さまに会うのに正直ビビってるんだ」
「マスター、王宮とは言っても、そこを守る
何気に怖いことを言うアスカだが、
「ありがとう。ところで、王宮で王さまに会う時に何か
そういえばこっちの方を忘れてた。
「あります。今着ている衣装を
その時は、意識が飛んでたから全く覚えていない。
「悪い。全く覚えてない。アスカなら何とかならないか?」
「必要な時に私が小さな声で指示を出しますから、マスターはその通りに動いてください。そうすれば何とかなると思います。最悪、
まるで
いやばっちりのはずだ。たぶんばっちりだ。ばっちりだといいなあ。
そうこうしているうちに、約束の時間の九時になった。
「マスター。午前九時です。ちょうどエントランスに迎えの馬車が到着したようです」
エントランスの車寄せに二頭立てで黒塗りの箱馬車が停まった。中から黒い礼服を着たおじさんがこちらに向かってきたので立ち上がって迎える。
「ショウタ・コダマさまとアスカ・エンダーさまとお見受けします。私は王宮
初老というよりもう少し年を取ったおじさんが頭を下げて
「ショウタ・コダマです。お疲れさまです。よろしくお願いします」「アスカ・エンダーです」
「よろしくお願いします。時間も押していますので、さっそくですが馬車にお乗りください」
馬車の扉には、楯の前で交差する二本の剣が金色で描かれている。王室の
馬車の中では俺とアスカが後ろ側に並んで座り、サリーシュさんが向かいに座った。扉の閉まったことを確認し、御者の人が馬に合図すると馬車が動き出した。
「お二人とも冒険者もなさっておられるとか」
「はい。私たち二人ともBランクの冒険者です」
「ほう、その若さで。もしや、エリクシールの素材、エンシャントドラゴンを
「まさか。Bランクではとてもそんなことできませんよ。エンシャントドラゴンを
エンシャントドラゴンを
「ほう、そうなんですか?」
「ええ、錬金術の
これで追及はかわせたはずだ。だけど、この人何だか考えこんじゃったよ。
そんな話をしているうちに、三十分ほどで馬車は王宮前に差し掛かった。王宮は堀で囲まれており、橋を渡った先の正門を抜けると、
馬車が停車すると、サリーシュさんは目の前の出入り口を入ると案内する者がいるので、その者についてゆくように。と、われわれに言い残し、自分は別の方向に歩いていった。
出入り口を入るとすぐ受付があり、サリーシュさんに言われたように案内の人がその前で待っていて、そのままその人に連れられ控室に案内された。時間までその控室で待機するそうだ。
式の開始時刻は十時。あと二十分ほどだ。控室には茶菓子とお茶が用意されていたが、ここでお茶を飲んで
控室で落ち着かないまま待っていると、式の五分ほど前にやっと迎えが来た。先ほどのサリーシュさんとは違う人だ。その人の後に付いてしばらく王宮の廊下を進むと、大きくて立派な扉があり、その前まで行くと扉がさっと開かれ中に通された。
「ショウタ・コダマさまとアスカ・エンダーさま、前にお進みください」
迎えに来た人の指示に従い前に進んで行ったのだが、ここで迎えの人は、後ろの方に下がってしまった。これからどうすんの?
正面に座るのは国王陛下だろう。その右横は空席でその横に小柄な少女が立っていた。なぜか国王の左隣に立つサリーシュさん。左右に流れるように大勢の
国王の座る玉座の後ろの壁には、大きなタペストリーが掲げられている。そのタペストリーには真ん中に女性とその両側に二人少女。その3人の背後には巨大なカメが描かれていた。顔の造作はタペストリーなのではっきりしないが、真ん中の女性の顔はどことなく日本人顔にも見える。
俺がそういった諸々を眺めていたらアスカが小声で解説してくれた。
『国王の隣は
どうやら、サリーシュさんが宰相みたいです。私の記憶では、この国の宰相はリーシュという名でしたので、サリーシュさんはリーシュ宰相が何らかの理由で名前を偽っていたのでしょう』
良くわからないがアスカはわかっているのだろう。俺たちの関わったリリアナ第三王女が元気そうでよかった。
ここまで来たらなるようになれ。なってくれ!
『マスター、ゆっくり五メートルほど前に進んで、そこで片膝をついてください。目は、三メートル先を見て、顔を上げて前を見ないように』
二人羽織スタート。
『このまましばらくじっとしています』
「ただいまより、ショウタ・コダマ殿とアスカ・エンダー殿への国王陛下による
迎えに来た人が仕切ってるよ?
ここで国王陛下のお言葉を
「ショウタ・コダマ及びアスカ・エンダー、そなたたちの働きにより、わが後継者たる第三王女を救いし事、誠に見事である。よって褒賞を授けると同時に両名とも
貴族になっちまったよ。どうすんのこれ?
『頭を下げて、指示があるまでそのままで』
「ショウタ・コダマ子爵及びアスカ・エンダー子爵は立ち上がってください」
ビロードで出来た紫色の座布団に載せられた
「リリアナのことありがとう。これからも王国のためによろしく頼む」
盛大な拍手の元、式は終ったようだ。
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