第74話 エルフの師弟


 翌日の午後、アンジェラさんに連れられ四人で乗合馬車に乗り込んだ。アンジェラさんの元師匠ししょうは午前中仕事で外出しており午後の方が都合がいいということで午後になった。


 着いた先は王宮にかなり近い馬車駅だった。一帯は高級住宅街のようで広い敷地にへいめぐらせた大きなお屋敷が並んでいる。


 馬車駅にほど近い屋敷の開け放たれた門の中に入り、そのまま前庭を進み玄関に。


「アルマ、帰ったわよ」


「フレデリカ、朝を過ぎての昼帰りお帰り。それで例の錬金術師を連れてこれたのかい?」


 辛口の見た目初老のおばさんが出迎えてくれた。耳の形からしてエルフのようだ。


「ショウタとアスカよ。どちらも変わってるけど、腕はいろいろな意味で確かよ。それと、そこの女の子はショウタの孤児奴隷のシャーリーちゃん」


「ショウタです」「アスカです」「シャーリーです。よろしくお願いします」


「アルマ・ベーアじゃ。ショウタにアスカようこそ。シャーリーもな。さあ、中へ入っておくれ」


「失礼しまーす」「ます」「おじゃまします」


 先を進むアルマさんとアンジェラさんに続いて部屋に入る。リビングらしい。


「みんな、適当に座っとくれ。フレデリカはお客さまじゃないんだからお茶の用意をしな」


 アンジェラのことをフレデリカとアルマさんが呼ぶので怪訝けげんな顔をシャーリーがしているので、小声でここではアンジェラさんはフレデリカという名前なんだよというと、納得してくれたようだ。ホントかな?


「お茶の用意なら場所を教えていただければ私がします」


 うちのシャーリーは気のくいい子だなー。


「シャーリーちゃん、だったら手伝ってくれる? こっちよ」




「改めてアルマ・ベーアじゃ、王宮錬金術師をしておる。よろしく頼む」


「Bランク冒険者で、錬金術をやっているショウタです」「同じくアスカです」


「Bランクの冒険者というとそれなりに強いんじゃろうが、ドラゴンをたおすほどは強くないんじゃないか? 

 うん? なんじゃー? ショウタは魔力量が多すぎてわれでは見当つかぬ。あのエリクシールが作れたのがいろいろな意味で納得じゃわ。アスカの方は逆に全く魔力が感じられぬ。そんな者がるとはのー。

 魔力を一切感じさせないところが、まるでわれわれエルフの古い言い伝えにある、『並ぶもの無き大魔王』や『無慈悲な死』とか言われていた魔神まじんみたいな化け物たちと似ておる。言い伝えでは、その化け物はどちらも魔力が無かったそうじゃ。どっちも勝手に暴れて勝手にいなくなったらしいが。……

 おお、すまんすまん、若いおなごに化け物に似てるなんぞ失礼なこと言うて申し訳ない」


 アスカが魔神並みに強いってことには同意しますよ。


「それで、今日来てもらったのは、エリクシールを作ったすごい連中の顔を確かめたかったのと、お前さんたちに頼みがあったからじゃ」


「何ですか? 私たちにできることなら良いんですが」


「ショウタが収納庫に持っているエンシャントドラゴンの血を分けてもらいたいのじゃ。われも収納魔法が使えるから鮮度を落とさず使えるからの」


「アルマさんにとって、エンシャントドラゴンの血はすごく貴重で、喉から手が出るほど欲しいものなんですよね。でしたら私のお願いを聞いていただければお譲りしますよ」


「どんな願いじゃ?」


 ちょっと身を固くしたよ、このシニア世代の人。いくら男子高校生でも、対価にババアの体が欲しいって言うわけないだろ! ババアはちょっと言いすぎか?


「アルマさんは、今フレデリカさんとは和解はしたものの破門中なんですよね。だったら、彼女の破門を解いてあげてくれませんか?」


「そんなことでいいのか?」


「ええ、それで十分です。フレデリカさんには良くしていただいてますから。それで、どれほどご入用ですか?」


「フレデリカの破門は今すぐ解く。フレデリカ、聴こえただろ。もう破門は許してやる。それでドラゴンの血は一リットルでは多いかの?」


「全然問題ありません」


 エンシャントドラゴンの血がなみなみ入った十リットルの大瓶を取り出し、アルマさんに渡す。


「こんなには貰えん」


「気にしないでください。沢山ありますから」


「本当にすまんな。それじゃあ遠慮のう貰うぞ。フレデリカの言う通り、ショウタは優しいのう」


 アルマさんは受けとった大瓶を自分の収納庫に仕舞って安心した顔をしている。そうこうしていると、お茶のカップを載せたお盆を持ったフレデリカ姉さんとシャーリーが戻って来て、各自の前にお茶のカップを置いていった。


「アルマ、破門を許してくれてありがとう。ショウタも私のこと気に留めててくれたのね、ありがとう。

 言った通りでしょ、ショウタはちゃんと言えば大概たいがい嫌とは言わないいい子だって。

 ショウタにもらったエンシャントドラゴンの血があれば、エリクシールとは言わないまでも、王族に何かあっても大丈夫だいじょうぶじゃない?」


「そうだの。今回ほど、自分の不甲斐ふがいなさを感じたことは、若いころポーションがちゃんと作れずわれの師匠にしかられた時以来じゃ」


「リリアナ殿下をてたのは、アルマじゃなくて他の人だったんでしょ。だったら責任を感じる必要はないんじゃないの?」


「そうは言うがな、やはり何もできなかったのは確かじゃ。せんなきことじゃがな。フレデリカ、破門は解いたんじゃから、これからはちゃんとわれの手伝いをするんじゃぞ。変な魔道具ばかりに興味を持つんじゃないよ」


「いいわよ。二人で頑張りましょう。でも、魔道具は別よ」


 美しい師弟愛である。


「それはそうと、明日、私とアスカは王宮に呼ばれていまして、それでシャーリーをわれわれがいない間預かっていただきたいんですが」


「構わんぞ。シャーリーよろしくな。面倒だから今日からここに泊まるといい。客間は空いておるからな」


「はい。よろしくお願いします。わたしでお手伝いできるようなことは何でもおっしゃってください」


「アルマ。シャーリーちゃんは料理も上手うまいのよ」


「それは楽しみじゃ。フレデリカの料理は飽きたから、今日はシャーリーにお願いしよう。ショウタもアスカも一緒にどうじゃ?」


「お願いします」「します」


 シャーリーも嬉しそうにしている。


 フレデリカ姉さんとシャーリーが、再び奥の方に連れ立って行った。さっそく食事の準備を始めるらしい。



 夕食をみんなで一緒にとり、シャーリーをよろしくともう一度頼んで、明朝『ナイツオブダイヤモンド』で迎えを待たなければならない俺とアスカは、名残なごり惜しいがおいとますることにした。



 アルマさんの家を出るとすっかりあたりは夜だったが、街灯がいとうがところどころにあり、乗合馬車や人もまだ道を行き来している。


「アスカ、久しぶりに走るか?」


 本当に久しぶりだ。


「はい」



 久しぶりの二人並んでの駆けっこだ。表情は相変わらずだが声からすると嬉しいのだろう。俺だけが分かる。俺だけが知っている!


「『ナイツオブダイヤモンド』に向けてゴー!」


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