第70話 リリアナ・アデレード
ここは、王宮内の王族が住まうエリアの中の一室。この部屋の主は、リリアナ・アデレード、アデレード王国第3王女である。
今では食事も看護師に補助されながら流動食をわずかに喉に流し込むだけである。高名な
治療法のないまま、ここまで体力が落ちてしまうと、回復は望めない。今ははどこかにあるかもしれないという伝説のエリクシールに
「ケホ、ケホ。ケホ、ケホ……」
何でもないのに
アデレート王国の王女として生まれた自分が何もできずにただ死んでいく。王宮の外の世界も観てみたかった。マリアお姉さまともっと一緒に居たかった。恋もしてみたかった。
涙が
己の死に対して、
「ヨシュア?」
近くに控えているだろう侍女の名を呼ぶ。
「はい。殿下」
「お姉さまは、今どのあたりにいらっしゃるかしら。ケホ、ケホ」
目を閉じたまま、今日も同じ質問を繰り返す。
「マリアさまは勇者さまたちと北方諸王国に向かわれてまだ
「そう」
ヨシュアが鼻をすする音が聞こえる。
もう一度お姉さまにお会いしたかった。閉じた
寝ている間だけ
夢を見た。王宮の中にある庭園のベンチに一人で座って本を読んでいる。空が青くてきれい。気が付くと目の前に白馬がいる。
馬なんて乗れないけれど、気が付いたらその馬に乗って大きな首にしがみついていた。
今日でこの朝日を見るのは最後になるのかもしれない。そう思い重い
昼過ぎにお父さまが訪ねてきてくれたようだ。私の手を握りしめて言葉はなかった。お父さまの手は暖かかった。私の手が冷たかっただけかもしれない。
次に目覚めたときは、陽が沈み
誰かが私を大きな声で呼んでいる。ヨシュアかしら。今までありがとう。
侍女たちが見守る中、看護師が持参した白く輝くポーションをほんの数滴スプーンに取り、それを眠りについているリリアナの
看護師は少しリリアナの体を斜めになるように起こし、今度は、スプーンに半分くらいポーションを入れ、リリアナの軽く開いた口の中に差し込む。彼女がごくりと飲み込んだことを確認し、それを何度か繰り返す。そして、半分ほどポーションの残った瓶の口をリリアナの口に差し込み、流し込んだ。すべてを飲み込んだことを確認し、看護師がリリアナの手を取る。
脈が少し早くなっている?
伝説のポーションでさえもはや手遅れだったのか?
リリアナの頬に赤みがさしてくる。間に合ったのか?
脈がさらに早くなってきている。呼吸も速くなった。額に
急いで、吸い飲みに水を入れ、リリアナに飲ませる。病状が悪化して以来自分から吸うことも出来なかった病人が今は自分からもっと飲みたいというように水を吸い込んでいる。今まで真っ白でつやのなかった肌が張りのある
伝説は存在した。
看護師は、汗をかいたリリアナの着替えを侍女に命じたあと、自身はリリアナのベッドの横に置いた椅子に腰かけリリアナの
それからのリリアナの回復は目を
「先生、私を病から救っていただきありがとうございます」
深々と頭を下げ、自分を
「殿下、お心は
「それでも、今までの看病ありがとうございます。私はもう少し動けるようになり次第、商業ギルド長さまにお礼にうかがいます」
今は亡きアデレード王国
【エリクシール】あらゆるものを
翌朝、リリアナ殿下が奇跡の薬により
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます