第66話 エリクシール2、商業ギルド本部


「アスカ、ここから商業ギルド本部までどのくらいあるかわかる?」


『食料品の店、ヒギンス』を出て、店の前でアスカに尋ねると、


「商業ギルド本部まで、ここからですと1.5キロほどですから、普通に歩いて二十分くらいです。マスターと私がいつものように走れば二分くらいです」


 アスカさん最近俺と走ってないから走りたいのか?


「走ってはいけないし、馬車に乗るほどでもないから、みんなで歩いていくか」


 アスカが残念そうな顔をしたような。


 アスカを先頭にして商業ギルド本部に向かう。奴隷のシャーリーを連れて行くのはどうかと思ったが、置いていくわけにもいかないし、どうしようかと迷ったが、アンジェラさんが言うにはまったく問題ないらしい。


 なぜかというと、シャーリーのような身寄みよりのない子は国の福祉事業ふくしじぎょうの一環として奴隷商が預かり養育するのだそうだ。そういった子を孤児奴隷というのだが、身寄りがなくてかわいそうだと同情されることはあってもそのために差別など受けることはないそうだ。彼女の左手の甲にある奴隷紋を見れば孤児奴隷であることが誰にでも分かるので、孤児奴隷を差別するような者がいれば、逆に軽蔑けいべつされるとのこと。この国、まともでいい国だよ。



 というわけで、アンジェラさんを含めた四人で参りました、王都商業ギルド本部。


 キルンの商業ギルドの商業会館もデカかったが、ここは更に、高くて幅広い。重厚じゅうこうという言葉がぴったりの建物だった。目の前の建物の裏は、ミニマップで見ると広場とか倉庫とかいろいろあるみたいで敷地的にはよくあるドーム球場の数倍? はないけど、結構広い。俺だって、一回だけドームで、巨人・広島見たんだぞ! もちろん太平洋沿岸の地方都市出身の俺は三塁側だ。いや、日本海側でも、アンチはいるだろうけどね。まあ、そういったところが俺の人格形成に多大な影響を与えたのだろう。


『長いものに巻かれるな! 巻かれるくらいなら、尻をまくって逃げろ!』


 これがわが家の家訓かくんだ! 知らんけど。


 吹き抜けの玄関ホールに入ると、キルンのように受付机が置いてあった。床は磨かれた大理石だろうか。お客さんの数は、見る限りではそんなでもない。大抵の人は、受付を通さずそのまま奥の方へ消えてゆく。


「すみません」


 受付のお姉さんがここでは三人。着ている服は制服ではないのだろうが、華やかな色柄の服を召していらっしゃる。色は、左から赤、青、黄。真ん中のお姉さん少し年上そう。どうせなら右のお姉さんと席代わってあげて。赤、黄、青の順になるから。


「キルンの商業ギルドのエーベ・リストさんの紹介でうかがったショウタと申します」


 もらった紹介状を真ん中に座っている青の女性に渡す。しまった、リストさんの役職やくしょく聞いてねー。


「私は、ハザウェー。ここにハインリッヒ・リストって人がいると思うんだけど、ハザウェーが来たって伝えてくれる?」


 そういえば、アンジェラさんの苗字みょうじはハザウェーだったな。


「ハインリッヒ・リストは当ギルドのギルド長をしております。ショウタさま、ハザウェーさまのことはうかがっております。お待ちしておりました。こちらでしばらくお待ちください」


 青い服を着た女性は、顔を見合わすわれわれをうながして、立派な階段を上って、男子高校生には分不相応に見える二階の応接室に案内してくれた。


「こちらで少々お待ちください」


 案内の女性はそのまま退室し、すぐに別の女性がティーセットとお茶菓子の皿を載せたワゴンを押して入って来た。席順は、奥からアンジェラさん、俺、シャーリー。アスカはいつものように俺の後ろに立っている。


「どうぞ。しばらくおくつろぎください」


 と差し出されたお茶のカップを受け取る。男子高校生でも分かるいい香りがする。


「シャーリー、遠慮えんりょせずいただこう」


 お茶に両手を伸ばすシャーリーの左手を目にしたようで、その女性がほほ笑んだ。


じきに、リストが参ります」


 そう言って、一礼してその女性は退室していった。


「ご主人さま、おいしいお茶です」


「そうだな、お菓子も遠慮せずいただこう」


「マスター、私にもお菓子を取っていただけますか?」


 自分もソファーに座ってればいいものを。面倒なのでお菓子の載った皿ごと渡してやった。


「さすがは、王都の商業ギルドね、いいお茶っ葉を使っているわ」


 なんだか、キルンの自宅で寛いでいるような雰囲気になったところで、



「どうもお待たせして申し訳ありません」


 ノックの後にキルンのリストさんを二十歳くらい年取らせたような初老の男の人が応接室に入って来た。



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