第50話 ある防具屋にて


 夕食をみんなで食べているときのこと。


「ご主人さまは、冒険者なのにいつも普段着ですが、よろしいのですか?」


 少女の素朴そぼくな疑問に『はっ!』となった。


 そういえば、先日の冒険者ギルドでも俺を知らない新人冒険者に突っかかってこられたんだった。これは俺の格好かっこうが村人Aだからじゃないか?


「俺は普段着が楽だからいつもこの格好かっこうだが、シャーリーが心配してくれるのなら、もう少し冒険者らしい格好かっこうをするのも悪くないな」


 シャーリーの一言で、俺は冒険者らしい格好することにした。



 食事が終わって、自室のベッドに寝っ転がり収納庫の中を点検したところ、俺の持っている防具は良いものなのだろうが、どれもこれもゴツイ。もちろんほとんどアーティファクトだ。そうじゃないのはゴブリンの革の鎧なんてものもあるが、さすがにバッチいのでそんなものを着たいとは思わない。そのうち捨てないとな。後はエルフの廃村で見つけたドラゴンのお宝シリーズ。軽そうに見えるし物はいいんだろうが、いかんせんいたんでいる。あーでもないこーでもないと思っているうちにその日は寝てしまった。




 翌朝。


 朝食をとり、アスカと連れだって防具屋に行くことにした。アスカが防具屋の場所を知っているのは織り込み済みだ。いわく、その防具屋の開店時間は九時頃だそうだ。


 まだ九時前なので、珍しく街を歩いて行くことにする。アスカはいつもなら俺の左後ろにいるのだが、今日は道案内なので俺のすぐ前を歩いている。俺たちがよく通る街を南北に走る大通りがコントラ通り、東西に走る大通りがデクストラ通り。どちらも街の大門につながっている。通りの名がどこかで聞いたような名前なのはさておき、十分ほどで防具屋に着いた。


 少し開店には早かったようで、しばらく店の前で待っていると、店の扉が開き中から若い娘が現れた。


「あれ、お客さん?」


「はい、防具を見せてもらおうと思って」


「そうですか、ありがとうございます。どうぞお入りください。おとーさーん! お客さんよー」


 招き入れられた店の中は結構広く、壁際の鎧立てには何着もの鎧や胴着どうぎが飾ってあった。棚には布製の製品や小物などが並べられている。



「こんな朝っぱらから、客だってー?」


「そんなこと大きな声で言わないの。そうよ、お客さんだから。しっかりしてよお父さん」


「おお、そうかい。……、こりゃ失礼したかな」


 奥の方から腕っぷしの強そうな、いかにもオヤジといった感じのおっさんがのっそりと現れた。


「私がけてもおかしくないような防具がないかと思いまして」


「普通の相手なら、そこらに飾ってあるのを適当に選べばいいだろって言うところだが。お前さんみたいな全くの素人しろうとにゃ、俺がアドバイスしなきゃならねーだろうな」


「おっしゃる通り全くの素人なものですから、よろしくお願いします」


「それでだ、お前さんこれから冒険者になるんだろ? 戦闘スタイルは、前衛か、後衛か? どっちだ?」


「取りあえず、後ろ?」


「何で疑問? 後衛なら防御力重視の重いものじゃなくて軽い方がいいだろ。そしたら、そこの黒い胴着があるだろ、あれなんかどうだ? 値段の割に、軽くて丈夫だ」


「うーん。ちょっと、ゴワゴワして、着ると首やら肩やらがれそうで、何かもっと体に優しいのはありませんか?」


「体に優しいだと? 何言ってんだ? 意味わかんねーよ。だったらこっちのはどうだ? 値は張るがいいもんだぞ」


 そういって出されたものはピンク色の胴着。


「どうも色がちょっと。どうしてピンク色なんですか?」


「もともと女もんだからな。そいつを仕入れた時、ピンク色の胴着が流行はやってたんだ。それで何着か仕入れたんだが、そいつだけが売れ残ってな。お前さん華奢きゃしゃだから、女もんでも着れるだろ? 今なら安くするぜ」


「少々高くてもいいんで、もうちょっと見た目のいいのはありませんか?」


「そうだなー。それじゃ、いったいいくらまでなら出せる?」


「まあ、大金貨10枚くらいでしょうか」


「うへー! この店にゃそんな大層なもん置いてねーよ。お前さん、どこぞのお大尽様だいじんさまの息子さんかい?  悪いがほかの店当たってくれ」



 追い出されました。シャーリーには、いい防具は売り切れだったとでも言っとくか。





 ショウタたちが追い出された後の店内の親娘おやこの会話。


「お父さん、さっきの人たち追い出しちゃったけどいいの? 上客じょうきゃくだよ?」


「いいも悪いも、あいつの欲しいようなもんはうちにゃねーよ」


「それじゃ仕方ないけど。さっきの坊主頭の若い男の人、普段着だったよね? 後ろの女の人は、フードをかぶってローブ姿。それもしぶいエビ茶色。 後ろで剣をクロスしてた」


「ありゃ、剣じゃなくて、片刃かたはで刃の反った刀だ」


「刀でも剣でもいいけど、あの人たちって、今うわさのショタアスの二人だよ」


「何? そうだったのか。そういやうわさ通りだったな。どうりで金回りがいわけだ。だけど、男の方が武器も持たずに、ヒモみたいに普段着でも危なくねえ所に突っ立って、女に仕事させてるってのがショタアスだろ。なんでまた防具欲しがるのかわからんな。あの優男やさおとこも、ちっとは仕事をする気になったんかなあ」


「きっとそうだよ。あの女の人は少なくとも大金貨十枚稼げる人なんだよ。私にも、そのくらいみついでくれる人が出てこないかなー」


「お前にゃ、人にみつがせるほどのものなんてなんもねーだろーが」


「お父さん、ヒドーイ」



「あのあんちゃんに、女にみつがせるほどの器量きりょうが有るのかねー。世の中わかんねえもんだな」



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