第49話 幻獣ハプチャメチャチャ


「いただきます」


 昼食を食べ始めると、シャーリーがこちらを意味ありげに見つめてくる。仕方しかたがないので、アスカに目配めくばせする。


「シャーリー、今回のマスターと私の冒険は、前回同様、大森林でのモンスター討伐とうばつだ。モンスターを見つけた場所はユリア河沿いだった」


「何ていうモンスターですか?」


 シャーリーの目はもうキラキラだ。


「その名も、幻獣げんじゅうハプチャメチャチャ。前回のヒプチャカメチャチャの上位種だ。しかも、その上位種がヒプチャカメチャチャを左右に二体従えていた」


「ハプチャメチャチャはどんな感じのモンスターなんですか?」


「大きさで言うと、ヒプチャカメチャチャの三、四倍。触手はないが、頭の先から、強烈な白い色の水弾すいだんを撃ってくる。かするだけでも凄まじい衝撃だ。水弾の跳ね返りの飛沫に当たっただけで、皮膚が水膨みずぶくれになる毒液なんだ」


 まーた始まったよ。話を頼んだ俺も悪いがな。


「それで、ご主人さまとアスカさんはどう戦ったんですか?」


「シャーリー、少し言いにくいので、ここからはヒプチャカメチャチャをヒプチャ、ハプチャメチャチャをハプチャということにするから。


 それで、まずお供のヒプチャを先にどうにかしなくては、本命のハプチャは狙えない。


 前回のヒプチャ戦では触手を切り飛ばして、最後にマスターの火炎攻撃でたおしたわけだが、実は、ヒプチャは打撃攻撃が弱点だったんだ。打撃攻撃といっても、直接ヒプチャをなぐると、粘液で手の皮がダメになるので、今回は手袋を用意していったわけだ。前回の戦いで、ヒプチャの動きに慣れていたのも大きかった。触手攻撃を右へ左へかわし、時にはかいくぐり、一撃いちげきを入れることに成功。振り向くとマスターはすでに一撃を入れた後だった。


 これで、ヒプチャは死んだわけではないが、丸くなってしまい、そのおぞましい触手も動きを止め戦闘不能になったようだ。われわれの各々の一撃が、二匹を沈めたわけだ。もちろん、われわれがヒプチャにかまっている間もハプチャからの水弾攻撃は絶え間なく続いていた。水弾をよけながらのヒプチャへの攻撃は本当に綱渡りのようなものだったが、われながらよくやったと思う。まあ、われらのマスターは余裕だったみたいだがな」


 シャーリーが俺を見る目が信仰対象を見る目だよ。相変わらずの18禁展開だが今のところ、アスカにディスられてないな。


「お供のヒプチャが二匹とも戦闘不能になってしまえば、ハプチャは丸裸も同然だ。やつの水弾攻撃は強烈だが当たらなければなんてことない。私がやつの気を引き、そのすきにマスターが準備した指先からの必殺の火炎がハプチャに命中。どうにかハプチャメチャチャ討伐に成功したんだ」


「やっぱり、ご主人さまとアスカさんはすごいんですね」


 シャーリーよ。ご主人様をあがめよ、称えよ。


 俺は、アスカの悪乗りの一席の後を引き継いで、


「それでな、シャーリー。そのハプチャは結構頭のいいモンスターだったらしくて、近くの河に生け簀いけすを作って、魚を飼っていたんだ。それを頂いてきたのが今回のお土産だ」


 シャーリーはすごくいい笑顔で喜んでいる。


「というわけで、アンジェラさんへのお土産も魚です。後で出しますから好きなのを選んでください。あとヒギンスさん、魚を料理するときは、忘れずウロコと内臓は取ってくださいね」


「えっ? もちろんよ」


 そりゃもちろんですよねー。ここにいる男子高校生以外なら。


「魚だけはいたみたいじゃない」


 とアンジェラさん。


 往復たったの二日で、魚を獲ってくればそりゃあ不審に思うよね。その程度のことを気にしてたらいくらエルフでも老けますヨ。



 食事の後、食堂が魚臭くなるのは嫌なので、台所に行き、収納庫から魚を適当に取り出してアンジェラさんに欲しい魚を見繕みつくろってもらった。アンジェラさんも当然のようにアイテムバッグを持っているので、それに収納し、いたませるともったいないと言って、すぐに自分の店に帰っていった。




 俺とアスカは、午後からは冒険者ギルドに報告だ。


 いまさらながら待たされることもなく、


「こんにちは、ジェーンさん。ドラゴン調査の依頼が完了しましたので報告に来ました」


「ずいぶん早いようですが、直接、ギリガンさんにお願いします。ギルドマスターの執務室は三階まで階段を上がって突き当りですので」


「分かりました、勝手に三階に行けばいいんですね」


「はい。お願いします。」




「ギリガンさーん。入りますよ」


 ゴリには、礼儀も適当でいいだろう。


「おお、入ってそこに座ってくれ。おーい! ローザ、ショタアスが戻って来たから三人分のお茶を頼む」


「はーい。少々お待ちください」


「ずいぶん早く戻ったって思わないんですね」


「ああ、お前らが街道をぶっ飛んで走ってたと報告がずいぶん来ているからな」


「そうですか。それならいいんですが。それで結論ですが、ドラゴンの気配はやはり有りませんでした。指示された通り、大森林中ほどから東に折れて、ユリア河が支流と合流するところまで行って見たんですが。手がかりはありませんでした」


「そうか。わかった。ご苦労さん。これを持って、受け取り窓口へ行って報酬を受けとってくれ」


 ゴリの差し出した伝票を受け取って部屋を出ようとしたところで、お盆を持ったローザさんに出会った。お茶がもったいないのでアスカと二人、行儀ぎょうぎは悪いがそこでいただいた。冒険者ギルドは儲かってるらしく、俺でもわかるようないい茶葉を使っている。カップを返し、下の受け取り窓口でお金を受け取り退散した。



 これは余談ではあるが、キルンの街でショウタの呪いが炸裂さくれつした結果、冒険者ギルドのギルドマスター、ギリガンを指す『キルンのゴリラ男』という言葉が、まさに、パンデミックのごとくキルンの街に広がった。


 ただショウタにとって残念なことにそのが分かるのは、ショウタと残念勇者の一行だけだったので、力と技の象徴、「ゴリラ」なる神獣しんじゅうが存在するのだといううわさまでがキルンの街に広まってしまい、ゴリラ男とはおとこに対する最高の誉め言葉になってしまった。



「はて、本当の意味とは何なのか?」


 そういった哲学的思惟しいをショウタがしたとかしないとか。


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