第48話 実食、帰還


 ダイナマイト漁の結果、大量の魚が手に入った。


「マスター、火をおこして焼いてみましょう」


 例のごとく収納から丸石を取り出してぐるりと並べ、その中に枯れ枝やら枯れ葉やらと一緒にまきを置いて、『指先からほとばしる、必殺の火炎攻撃』で火をつけた。アスカの目がわらっている。『笑』ではない『嗤』だ。ちくせうちくしょう


「アスカ、魚を串焼くしやきにするから、そこらの枝で焼き串を作ってくれ。そうだなーあんまり大きな魚は焼くのが難しいだろうから、50センチくらいで作ってくれ。30センチくらいのを一人二匹食べるとして、四本もあればいいか」


「できました。どうぞ」


 早いよ。


 ますみたいな魚がいたからそれを四匹。串に刺して火の周りに並べる。様子を見ながら、くるくる回し両面が満遍まんべんなく焼けるようにする。


 塩を振るのを忘れたけど、焼く前に振るのか、焼いてから振るのか分からないや。でも、塩焼きとか聞くから、焼く前が正解だったかな。


 串に刺した魚がジュージューいい始め、油だか汁だかがぽたぽたとれてきたのだが、なんだか、魚の表面が白くささくれ立ってきた。


 ヤバい!


 ウロコ取るの忘れてた。もはや手遅れ。それでも十分火が通ったみたいなので、塩を振ってアスカに一本渡す。俺も一本。


 ウロコで食べづらー。


 熱っ!


 フー、ペッ! ペッ!


 でもうまいよ。


 フー、ペッ! ペッ!


 ほんとに旨い。


「アスカ、どうだい?」


あぶらの乗った、ややピンク色の身が食欲をそそります。塩だけで味付けされただけの野趣やしゅあふれる料理ですが、ウロコまで残して野生味やせいみまで出している。それがまたたまりません。それに、にがみのある内臓がまたアクセントになっています」


 食レポありがとう。それと内臓も取るの忘れてた。


 そんなこんなで、日もかげってきたので、収納から張ったままのテントを取り出して潜り込んだ。アスカは例によって火の番と見張りだ。ありがと。


 その後、さすがに俺も疲れていたようで、すぐ眠りについた。こんなに早く寝ると夜中に目が覚めるかもしれない。




 翌日。


 当たり前だが早くに目が覚めた。


「ふぁー。アスカ、今何時?」


 久しぶりのアスカ時計。


「午前三時十五分です」


 当然ながら真夜中だ。あまり気にしたことはなかったが、星空がすごいことになっている。テンペラ宮にいるときに見た星空よりもっと明るい。星明りってあるんだ。結構周りが見える。そういえば、この世界には月がない。


 最初こちらの世界に来た時、異世界物の定番、二つの月を予想して、夜空を何日も眺めていたんだが、いつまでたっても月が上ってこないので、侍女の人に聞いたら、月って何? それ美味しいの? これだった。暦の上では1月、2月、……、と月はあるのだが不思議なものである。はるかな昔にはこの世界にも月があって、暦の中だけその名残りが残っているのかも知れない。


 確かに、月が二つあれば異世界だとすぐわかるけど、月がない場合は確認が遅れるよね。これ、マメだから。


 テントは例のごとく毛布ごと収納し、アスカの隣に座って、ぼーと夜空を見ていると、東の空が白んできた。


 軽く食事をして、すぐに出発だ。 


「じゃあ、アスカ。今日も頑張って走ろう。それじゃあ、帰るぞ」


「はい。マスター」


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ただ無言で走る。


 森の中、昨日はかなりのモンスターがいたが、帰り道ではほとんどモンスターに出くわさなかった。あれだけたおせば数も減るだろう。その分スピードも上がる。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ただ無言で走る。


 街道に出ると、馬車や旅人が一晩のキャンプを終えてようやく出発し始めたころのようで、まだそんなに行きかっていない。その分スピードが上がる。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ただ無言で走る。


 だんだん、街道を行きかう馬車や人の数が増えて来た。それと同時に、聞こえる『ショタアスが来た!!』


 何だよ、『ショタアスが来た!!』って。俺たちはダーウィ〇じゃないぞ。まあ見ておれ、俺たちの呪いが変な名前を広めたゴリラ男に炸裂さくれつじゃ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。


 ようやく、キルンの南門が見えて来た。


「アスカ、今、何時?」


「午前十一時十五分です」


 おそらく、これはレコードだ。メダルの報奨金のことを思い出し、また嬉しくなった。




「ただいま。シャーリー。ただいま帰りましたヒギンスさん。それにアンジェラさん?」「ただいま」


 ドアを開けて、帰宅の挨拶あいさつをすると、台所から、シャーリーとヒギンスさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ。ご主人さま。お帰りなさい、アスカさん」


「お二人ともお帰りなさい。無事でなによりです」


 少し遅れて、アンジェラさんことフレデリカ姉さんが2階から降りてきて、


「あら、お帰りなさい。帰りが早すぎてびっくりしたわ。まさか、途中で帰って来たわけじゃないでしょうね?」


「まさか。ちゃんと行ってきましたよ。それはそうと、アンジェラさん留守の間、ありがとうございます」


「気にしないでいいわよ」


「アンジェラさんにお土産があるんで楽しみにしててください」


「へー、楽しみだわ」


「お二人とも、お昼はまだでしょう? すぐにできますから、食堂で待っててね」



 昼食の支度が終わり、一同が席に着く。 


「いただきます」


 これは、異世界召喚ものでは定番なのだが、実際のところ、何も言わずに食べ始めることは、一人なら有りだが複数人の場合は結構難しい。皆さんもやってみれば実感すると思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る