第43話 最新式瓶詰め機


 男子高校生としては、少し頑張がんばりりすぎたかなという数日を過ごした後に、これではワーカホリックではないか。と気づき、一カ月ほどまったり過ごすことにした。


 その間にやったこと。


 まず、商業ギルドに頼んでいたポーション瓶が届いたそうなので、受け取りに行った。よく考えたら、小さな瓶と言っても五千本。今のままのアスカ頼みの手作業でいいんだろうか、と思い至り人海戦術じんかいせんじゅつ的方法を考えた。


 と言っても、もう一つフレデリカ姉さんのところから、蝋付け機を買って来て、シャーリーにも手伝わせようと思っただけだ。


 それから、キルンの周辺を回ってPAポーションの素材となる黄躁草きそうそう紫棘草むらさきとげぐさ青葉草あおばそうを集めに集めた。これだけあれば当分大丈夫だろう。先に、従来方式で大瓶一本分十リットル残っていたPAポーションで二百本のPAポーションを作ったあと、空いていた大瓶五本と合わせて大瓶六本分のPAポーションを作った。作ったのはいつものようにアスカさんです。


「こんにちは、フレデリカ姉さんいますかー?」「いますかー?」


 やっぱり略し始めたよ。



「ショウタね。今行くわ」


 店の奥の方から若々しい声がした。フレデリカ姉さん、すっかり若い女性になり切ってしまいましたね。


 出てきたのは、薄黄緑色のワンピースを着てエルフ姿がまぶしい二十歳はたちくらいに見えるフレデリカ姉さん。実際の年齢は聞いていないし、聞いてもいない。両の羽の揃った蝶型の髪飾りが素敵すてきだ。ここは、めておくのが吉。


「あの髪飾り、元のとくっつけたんですね」


 女性が身に着けているものを褒めるのは、彼女いない歴=年齢の男子高校生にはわずかにハードルが高かったようだ。


「ええ、知り合いの職人さんに頼んでろう付けしてもらったの。妹もこの方が喜ぶと思って」


「そうですよね」


「それで、今日はどうしたの?」


「フレデリカ姉さんのところに、ポーション用の蝋付け機が余ってないかと」


「あれは、たしか中級錬金セットに付けたと思ったけど、もう壊れちゃった?」


「いえ、ちゃんと動いてます。ちょっと、大量にポーションを作ろうと思って、人数にんずうで作業できればなと思いまして」


「それなら、最新式の瓶詰びんづめめ機があるわよ」


「最新式の瓶詰め機ですか?」


「そう、最新式の。何がすごいって、封をする蝋を融かす皿も大きくなって、上にある透明なタンクにポーションのもと液を十リットルほど溜めておけるの。蓋を取ってポーション瓶の首を機械の下に付いた作業口にはめ込むと、設定した量のポーションがポーション瓶に入るわけ。

 ポーションが入り終わったら、作業口から瓶を抜き出して、蓋を締めてから、隣の作業口に瓶の首をはめ込むの。そこは今までの蝋付け機とおんなじ。蝋を入れる皿も大きくなってるから多めに蝋も入れておけるし。しかも、最新式だけあって魔素貯留器式だよ」


 だんだんフレデリカ姉さんのテンションが上がって来た。


「ほう、それは便利そうですね」


「すぐに持ってくるから、待ってて」


「重そうですから、手伝いましょう」


「それほどでもないから、気にしないで」


 何かいろいろな意味で軽くなったな。アスカといい、フレデリカ姉さんといい、俺の周りでキャラ崩壊ほうかいしてく。次はシャーリーじゃあるまいな。


 将来俺たちのことが、日本でアニメ化でもして作画崩壊さくがほうかいしたら目も当てられんな。キャラ崩壊に作画崩壊。まあ、いらぬ心配ではあるな。


「お待ちどおさま、これが最新式の瓶詰め機。いいでしょ。これ」


「なかなかですね。さすが最新式はカッコいいです」


 現代日本の洗練せんれんされた電機器具を見慣れている俺からすると、アンティーク感バリバリの銘品めいひんに見えてしまう。


「でしょう。これぞ、機械ってところが素敵よね」


 フレデリカ姉さんはメカオタだったんだ。


「で、おいくらでしょうか?」


「お金はいいわ。この前のお礼として受け取ってくれると嬉しいわ」


「そういうわけにはいきません。なあなあの関係を続けていると関係がやがて破綻はたんしますから」


 何か俺、カッコいいこと言っちゃたよ。


「それで、おいくらでしょうか?」


「それなら、仕入れ値だけ頂くわ、瓶詰め機も結構高くて、大金貨一枚と金貨五枚よ」


 それなりにするんだ。お金を収納から取り出して手渡す。


「確かに。大金貨一枚と金貨五枚受け取ったわ」


「それでは、瓶詰め機をいただいていきます」


 瓶詰め機を収納。


「他には何か用はないの?」


「そういえば、以前お願いしていた、上級錬金セットはどんな具合ですか?」


「もうすぐだと思うわ。上級錬金セットが来たら、わたしの方からショウタのところに届けてあげるわ。それと素材もね」


「近いんですから、こちらにうかがいますよ」


「わたしが、ショウタの住んでいるところを見てみたいの。別にいいでしょ?」


「そりゃあ問題ありませんが、フレデリカ姉さんはうちを知らないでしょう」


「ショウタが暇なら、これから連れてってくれる? 店は閉めとくから平気よ」


 朝から店閉めて平気よって。この人どうやって生活してんだろう。この店で俺たち以外の客、一度も見たことないぞ。前の道はきれいだけど、人通りも少ないし。


 フレデリカ姉さんと一緒なので、俺もアスカも今は歩いて移動中だ。いつも駆け回っていたので新鮮だ。美人二人連れなのですれ違う男の人の目線がきつく感じる。


 それと、今後はフレデリカ姉さんは、ばあさん仕様しようはやめて、横長の耳にだけ偽装魔法をかけて外出するそうだ。何か思うところがあるのだろう。


 途中、開いていた例の喫茶店で四人掛けのテーブル席に三人で座り、お茶をした。俺はお茶だけだったが、アスカはお茶と最近よく食べている茶色っぽいケーキ。なんでも栗をつぶして、クリーム状にしたものが乗っかっているとか。フレデリカ姉さんはお茶とクッキーのようなものを頼んだようだ。


「こんなことを聞いては失礼だけど、アスカちゃんはショウタとどういった関係?」


 アスカに答えさせるとまた妙な話をでっちあげそうなので、ここは俺が答えておくか。と思ったら勝手にアスカが答え始めた。


「マスターは、私の保護対象です。あらゆる敵から、全力でマスターを守ります」


「そういった意味で聞いたのではないのだけれど。まあいいわ。それじゃあ、ショウタから見たアスカちゃんはどうなの?」


「アスカは俺の秘書? 何でも聞けば答えてくれるよね」


「何でもは答えられません、知っていることだけです」


 これが久しぶりに聞きたかった。


「何だか、ショウタは訳わかんないわね」


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。支払いは終わってますから」


「いつの間に」


 フッフッフ。先ほどトイレに立った時、支払っておいたのだよ。できる男子高校生は、彼女がいなくても初めてのデートのために脳内での予習だけはぬかりなかったのさ。


「気にしないでください。ポーション作りでガッポリ儲けてますから」


「それなら気にしないわ。ありがとう。ご馳走ちそうさま」



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